エンパワーメントは権限を移譲し、個人が本来持っている能力を引き出して最大限活用することです。ビジネス・看護・福祉・教育など様々な分野で活用されています。ビジネスではマネジメントや組織分野の手法として注目されています。エンパワーメントのメリット・デメリットや事例についても紹介していきます。
エンパワーメントとは
エンパワーメント(empowerment)とは権限委譲や能力開花を意味します。ビジネス・看護・福祉・教育など様々な分野におけるエンパワーメントの意味合いや注目される理由などを解説していきましょう。
エンパワーメントの定義や使い方
エンパワーメントは、個人の持っている能力を引き出して最大限活用するために権限を委譲することを言います。ビジネスでは従来のトップダウンとは異なり従業員に権限を委譲して仕事を任せるという、マネジメントや組織分野の手法として使われます。教育では教育者が手取り足取り教えるのではなく子どもの自発的な行動を促すという意味で使われます。
看護・福祉・教育などの分野でも重視されている
エンパワーメントは、看護・福祉・教育など様々な分野でも重視されています。看護・福祉では患者の人間性の尊重や、自立を目指してサポートするという意味合いで使われます。教育では教育者が1から10まで子どもを教育指導するのではなく、子どもが本来持っている能力を引き出すために、自発性を促していきます。
エンパワーメントが注目される理由
エンパワーメントが注目されるのは、人間が本来持っている能力を最大限に引き出すことが様々な分野で求められているからです。
企業におけるエンパワーメントについて
企業においてはマネジメントや組織開発の分野でエンパワーメントが注目されています。エンパワーメントの目的は人間が本来持っている能力を最大限引き出すこと。ビジネスにおけるエンパワーメントでは、社員に権限を委譲することで社員が主体的に考え、行動できる人材を育成します。結果、主体的に行動できる人材が育つ組織文化を培うことができます。
エンパワーメントのメリット
ビジネスにおけるエンパワーメントの3つのメリットをご紹介します。
主体性を促すことや能力の発揮につながる
ビジネスにおいては、エンパワーメントを活用することで社員の主体性を促し能力を発揮することに繋がります。終身雇用制度が崩壊したと言われる中、企業が社員を守るよりも社員が企業の支援を得て自ら成長することが期待されるようになりました。すなわちビジネスにおいては社員に権限を委譲していき彼ら彼女らに能力を開発してもらった方が社員・企業の双方にとってベターな選択となる訳です。そこでエンパワーメントが登場します。エンパワーメントを通じて主体性を促された社員は自らが持っている能力を最大限に発揮していくことができます。
自分で考えて行動できる組織にできる
エンパワーメントを活用することで、社員は自分で考えて行動できる人材へと変わっていきます。上司に頼っていれば済んでいた時と異なり、権限を委譲された社員は自ら課題を設定します。課題は簡単にクリアできる課題ではなく、達成することで自らの成長に繋がる難易度の高いものとなります。その課題を達成するにはどうしたら良いか、自分で考えて行動することで乗り越えていきます。そうした人材が増えていくことで組織も活性化されていくようになります。
仕事の無駄が減ったり、スピードアップにつながる
ビジネスでエンパワーメントを活用することで、生産性を向上させることができます。社員は主体性を持ち自ら考え、行動するので既存の業務のやり方をそのまま踏襲しません。仕事の無駄を省き、業務スピードを上げることに繋がります。
エンパワーメントのデメリットやリスク
エンパワーメントにもデメリットやリスクはあります。具体的に見ていきましょう。
全員が対応できるわけではない
企業には様々な人材がいます。エンパワーメントを活用することで主体性や自律性を発揮できるようになる人材もいれば、そうなるまでに時間がかかる人材もいます。トップダウン方式によって業務を粛々とこなしていく人材が後者にあたります。全員が最初からエンパワーメントに対応できる訳ではないことを肝銘し、いきなり全社的に導入するよりは部署ごとにエンパワーメントを導入するなどの工夫が必要ですね。
こまめなケアとコミュニケーションが大切になる
社員に権限を委譲することで、社員が裁量をもって自由に行動できる一方、上司と部下との間でコミュニケーションが低下する可能性があります。上司には、コミュニケーションの場を取るなどして部下の困りごとを共有したり、こまめにケアしたりすることが求められます。
単なる丸投げにならないように注意する
エンパワーメントによって権限を委譲することは、部下に責任を丸投げすることではありません。もし「権限委譲するから責任も全て部下が取れ!」ということになると、部下はリスクを恐れて行動できないでしょう。そうなると期待したほどの効果が得られないことになります。もちろん部下にも責任は生じますが、最後の責任は上司が取るというスタンスは持ちます。
社員のエンパワーメントに成功した企業の事例と推進する仕組み
社員のエンパワーメントに成功した事例はいくつもあります。今回は3社の事例を見ていきますので「こうすればエンパワーメントが根付くんだな」「うまくいくんだな」ということをイメージしてみて下さい。
星野リゾートの事例
星野リゾートではエンパワーメントを通じて、フラットな組織文化を築きました。星野リゾートは元々トップダウンの組織だったのですが、スタッフの離職を止めることができないでいました。スタッフが離職した理由の多くが「組織における夢と現実のギャップ」。命令で働くことにストレスを感じていた組織を変えようと、星野社長自らがエンパワーメントを経営に繋げ、社員が主体的に行動できる組織へと変貌しました。
リッツカールトンの事例
高級ホテルのリッツカールトンでは従業員に3つのエンパワーメントを行っています。従業員に権限を委譲することで、彼ら彼女らが自ら考え、お客様が喜んで頂けるサービスを提供できるようになりました。
1.上司の判断を仰がずに自分で判断で行動できること
2.セクションの壁を越えて仕事を手伝う時は自分の通常業務を離れること
3.1日2,000ドルまでの決裁権を持てること
株式会社フィードフォースの事例
株式会社フィードフォースは2006年創業のITベンチャーです。従業員のエンパワーメントを重要視していて、部門横断会議を実施。ノーレイティングやOKRなどの人事施策も部門横断会議から生まれたものです。同社はエンパワーメントを推進することで、従業員が自ら考え行動できる組織文化を作っています。
OKRとは
フィードフォースが取り組んでいるOKRとは、Objectives and Key Resultsの略で、目標管理方法の1つです。OKRでは企業の目標・組織目標・個人目標が連動されます。そのため社員のエンゲージメントを高めることに繋がります。
1on1とは
1on1とは、米国のIT企業グーグルによって広まったビジネスコミュニケーションの手法。1on1ミーティングとも言います。特に上司・部下間のコミュニケーションを指します。半年に1度の人事考課や四半期に1度などの長いスパンではなく、直属の上司・部下間なら週に1度の頻度で行われます。それにより、部下の思いを上司と共に共有することができます。エンパワーメントで部下に権限委譲した際にも、1on1の時間を設けておけば部下との報連相がしっかりできるようになります。フィードフォースでは、1on1を通じて上司が部下の心理状態を知ることができるようになりました。
エンパワーメントする際のポイントや注意点
最後に、企業内にエンパワーメントを導入する際のポイントや注意点を確認していきましょう。
いきなり権限を移さず、成功体験を大切にする
エンパワーメントのデメリットで見たように、既存のトップダウン方式で成果を発揮してきた人材がいる中で、エンパワーメントを全社的に導入しようとしても難しい場合があります。そのため、エンパワーメントを導入する際は、部署ごとに導入したり、その場合でもいきなり権限を委譲せずに管理者が部下を見守りながら徐々に移していくのが良いでしょう。
権限を委譲されていくことで、最初は部下も戸惑いがあると思います。しかし上司が見守る中で徐々に成功体験を積んでいけば、主体的に行動し成果をあげていくことの楽しさに気付くようになるでしょう。また、これまでの組織文化では失敗に対して不寛容だったかもしれませんが、エンパワーメントを導入するにあたっては失敗を許容するスタイルへと徐々にかじ取りをしていく必要があると思います。
管理方法や情報共有の方法を整理しておく
権限を委譲する際には管理方法を明確化することが大切です。権限委譲は、単純に自由に仕事をせよということではありませんから、管理方法が定まらないとエンパワーメントが求める能力の発揮がうまくいきません。
権限委譲するにあたって、上司がこれまで持っていた情報は、部下と共有しなければなりません。業務を推進する上で共有すべき情報は何かを整理しておくことが求められます。
まとめ
エンパワーメントは、個人が本来持っている能力を引き出すために権限移譲することでした。看護・福祉・教育やビジネスの現場でもエンパワーメントが求められています。星野リゾートの事例で見たように、トップダウン方式で命令されるだけの組織では従業員のエンゲージメントを充分に高められません。エンパワーメントを活用し、社員の自主性や能力を高めていくことでリテンションにも繋がります。