クリティカルシンキングとは、課題に対する解決策をいくつか出し、その解決策に対して批判的な問いを続ける思考法の一種です。
「なぜそう思ったのか?」「これで正しいのか?」「もっと良い方法はないか?」など、自ら出した意見に対して問いを繰り返すことで、より高いレベルの解決策に昇華させていく方法です。
クリティカルシンキングを会得すれば、日常生活はもちろん、ビジネスシーンでも大きく役立たせることができます。
この記事では、クリティカルシンキングの特徴や、使い方、思考の手順、学習におすすめの本などを紹介します。
クリティカルシンキングとは
クリティカルシンキングは、直訳すると「批判的思考」という意味になります。
自分や他人が出した主張・結論に対して、なぜ・どうして・どのように・いつやるか…などの「問い」を繰り返していく思考法です。
これだけを聞くと、「あらゆる物事に対して批判や粗探しをするの?」というイメージを持つかもしれませんが、ただ批判するだけの思考法ではありません。
クリティカルシンキングにおける批判とは、決してネガティブなものではなく、今の常識や方法を常に疑いながら、より良い結論を導き出すための手段なのです。
ロジカルシンキングとの違いは?
「クリティカルシンキング」と似た言葉で「ロジカルシンキング(論理的思考)」というものがあります。
ロジカルシンキングは、物事を要素ごとに分解し、道筋や手順を整理しながら合理的な解決策を導き出す思考法です。
クリティカルシンキングの特徴
- 問題の原因と解決策の仮説を考えてから思考を始める
- 解決策に対して「なぜ?」と批判的な問いを繰り返す
- データの参照方法や根拠に対しても疑いを持ち、問いを続ける
ロジカルシンキングの特徴
- 問題の原因を要素分解してから、道筋を立てて解決策を探る
- 確固たるデータを参照しつつ、思考の理由を説明する
- 相手に説明するときは、結論→理由の順番で論理を解説する
「クリティカルシンキングの対極がロジカルシンキングだ」と勘違いする人がいますが、両者は相反するものではなく、結論を導くまでのプロセスが全く違う別種の思考法です。
クリティカルシンキングが重要視される理由
クリティカルシンキングがビジネスシーンで重要視される理由は2つ。
「価値観の多様化」と「進化スピードの速さ」です。
インターネットやSNSの発達により、世界に存在する多様な価値観や情報が瞬時にやりとりできる時代になりました。
サービスの需要が顕在化しづらかった昔と比べて、どんな小さな可能性からでもビジネスモデルが成立しやすい時代になったのです。
「やることだけやっていれば良い」という働き方は終わりを迎え、主体的に新しいアイデアを生み出し、実行する人が評価されやすい環境に変化したのです。
また、ビジネスにおける常識が変わるスピードも、昔と比べて格段に速くなりました。
「今日まで常識だったことが、明日には非常識になっていた」という事態は、どんな業界でも起こり得ることです。
今後企業が生き残りをかけて戦うためには、従来の価値観や常識を疑い、新しい発想を生み出せる人材が必要になったのです。
クリティカルシンキングを会得する5つのメリット
クリティカルシンキングを身に付けると、ビジネスシーンにおいて大きなアドバンテージを得ることができます。
特に効果を実感しやすい5つのポイントについて見ていきましょう。
問題解決の有効策が見つかりやすい
解決策や主張に対して何度も問いを繰り返すため、問題解決に有効な手段が自然と生まれやすくなります。
ロジカルシンキングだけでは、目的に対する筋道を正しく立てることはできても、「そもそもその考え方が正しいのか」まではわからないケースが多いです。
課題・方法・解決策のそれぞれにクリティカルシンキングで取り組むことで、複数ある選択肢からでもベストな選択を選べるようになります。
議論や説得をするときに役に立つ
クリティカルシンキングを練習していると、他人の主張の穴や間違った常識なども見抜けるようになってきます。
議論の目的や方向性がズレたときに修正したり、代価案として良いアイデアを発表したりと、他人を巻き込んだシチュエーションでも正しく立ち回ることができます。
また、上司に解決策を提案するときや、プレゼンで自分の意見を発信する場合にも役立ちます。
問いを繰り返すことで、周囲から突っ込まれるであろう批判的な意見をあらかじめ精査できるので、相手を説得させるための切り返しロジックを用意しやすくなるのです。
客観的な視点で結論を出せる
どんなに優秀な人でも、思考の偏り・考え方のクセ・自分だけのこだわり…などを無意識下で持っているもの。そしてビジネスシーンでは、それらが落とし穴になって失敗することがあります。
クリティカルシンキングを実践することで、自らの主張に対する主観的な考え方を排除し、解決策に客観性を持たせることができます。
特に一人で解決策を考える場合は思考の偏りの影響を受けやすいので、常に問い続けることで客観性を担保する必要があります。
冷静に判断できるようになる
主観性や思考の偏りと同じくらい厄介になるのが「感情」です。
熱意や感情論だけで突っ走ってしまうと、穴だらけの解決策を実行し続けてしまう場合があります。
クリティカルシンキングを習慣化すれば、思考に潜む感情論を排除し、常に冷静な気持ちで物事を判断できるようになります。
また、自分がどんな状況のときに感情が乱れやすいのかが分かってくるので、日々鍛錬することでより正確な解決策を見つけ出せるようになります。
新しい発想を生み出すヒントを得られる
解決策に対して常に問いを重ねていくので、その過程で新しい方法や革新的なアイデアを思いつく可能性があります。
常に常識を疑い、自ら考えた方法すらも批判していくので、通常では思いつかない問題解決のヒントに辿り着く確率が自然と高くなるのです。
クリティカルシンキングを実行する4つのステップ
クリティカルシンキングを行う手順について、4つのステップで解説します。
ステップ1:ゴールを設定する
クリティカルシンキングを行う最初のステップは、課題に対するゴールを明確にすることです。
批判的思考のプロセスは課題解決のために行うものであり、そもそものゴールがズレてしまうと、正しい解決策を導き出すことが難しくなります。
「今どんな問題が発生していて、何をすれば解決できるのか?」という共通のテーマを決めてから、解決策を探すようにしましょう。
ステップ2:問題点を洗い出す
課題が明確になったら、次は問題解決の障壁となっている部分を全て洗い出します。
ロジカルシンキングを使って問題の原因を細かく分解したり、優先順位ごとに並び替えを行なうのも良いでしょう。
課題の全体像がイメージできれば、どの問題を優先して解決するのが一番効率的かがわかるようになります。
ステップ3:仮説を立ててみる
現状の課題が整理できたら、いよいよ本格的にクリティカルシンキングを使います。
まずは問題解決に有効だと思われる方法をいくつか考え、批判的思考で問いを投げかけ続けます。
複数人で議論しながら行う場合は、他人の意見に対して批判的な問いを投げかけてみるのも良いでしょう。
- 「これが本当に正しい方法なのか?」
- 「なぜこの方法が良いと思ったのか?」
- 「もっと良い解決策や代価案はないか?」
といった問いを常に投げかけ、各主張を出来る限り批判的に精査してみてください。
現状の案が批判的思考に負けてしまうようであれば、その解決策には穴があるということ。
仮説・検証の過程でボツになるアイデアもあれば、批判的思考を繰り返すうちに思わぬアイデアが浮かぶこともあります。
与えられた時間内にクリティカルシンキングを繰り返し、消去法で残った選択肢が現状ベストな解決策である可能性が高いです。
ステップ4:解決策を実行する
クリティカルシンキングで解決策を導き出したら、いよいよ実行のフェーズに入ります。
ここで大切なのは、解決策を実行している最中も批判的思考を繰り返すことです。
解決策を出したからと安心せずに、常に今やっていることに疑いを持ち続ける。変化の早い業界では、「いつの間にかベストな選択肢ではなくなっていた」という状況がよくあります。
検証と分析は短いスパンで行い、新たに出た課題などがあれば、再びクリティカルシンキングで解決策を探していきます。
クリティカルシンキングのおすすめの本は?
最後にクリティカルシンキングを学ぶのにおすすめの本を3冊紹介します。
グロービスMBAクリティカル・シンキング
豊富な事例と演習問題があるので、クリティカルシンキングの基本を掴みながらレベルアップすることができます。実践的な内容でありながら、基礎もしっかりと抑えており、ビジネスシーンはもちろん、普段の生活の中でも役に立つ知識を得ることができます。
クリティカルシンキング 入門篇:あなたの思考をガイドする40の原則
クリティカルシンキングについて体系的に学ぶことができる入門書です。クリティカルシンキングの大敵である、偏った思考やステレオタイプ的な考え方を矯正してくれるので、読み進めるたびに新しい発見があります。難しい表現を使わずに解説しているので、初心者でも安心して学習できます。
クリティカルシンキングの教科書
若手社員から中堅社員、それ以上まで、幅広いビジネスパーソンに役立つビジネスの基本スキルを学ぶことができます。クリティカルシンキングの基本的な考え方や手順が記されており、実際の職場で起こりうる状況に近い事例が載っています。
まとめ
今回は、ビジネスシーンで活用できる思考法の1つであるクリティカルシンキングについてその概要から、実施の手順、具体的な事例について紹介しました。
一見すると難しそうに見えるクリティカルシンキングですが、実際には、目の前の事象が本当に正しいのかどうか、とことん考えるというもので、客観的な視点を用いて物事を考える思考法だと言えます。
実際に使用するにあたっては、知識や経験なども必要になってきますが、初心者向けの本などもあるので、ぜひ参考にしてみてください。