ジョブローテーションとは?企業・社員側のメリット・デメリットを解説

ジョブローテーションの記事
ジェネラリストを育成する日本企業において、ジョブローテーションは切っても切れない人事施策です。ジョブローテーションを行うことで社員は様々な職務に携わって専門性を高め、人材活用を覚え、マネジメントやリーダーシップの力を涵養していきます。記事ではジョブローテーションの仕組みや企業・社員双方の側から見たメリット・デメリットを解説します。
目次

ジョブローテーションとは?

ジョブローテーションとは?
ジョブローテーションとは単純な人事異動とは異なり、人材開発戦略の元に行われる人事施策です。ある人材が退職したので、人材を補充する目的を達成するために人事異動させるのはジョブローテーションとは言いません。明確な人事戦略・人材開発戦略の元に異動させ、職務経験やマネジメント経験を積ませ、企業が期待する人材へと育成することが目的なのです。

社員の人材開発を目的とした人事異動

ジョブローテーションの目的には人材開発の側面が強いです。ジョブローテーションの目的について、企業に新入社員が入社した時をイメージして考えてみます。

新卒として経理部に配属されたA子さんは、入社後8年間、日常の経理事務や財務諸表の作成まで幅広く担当してきました。会社はA子さんの知識・対人能力を活かし、営業でも力を発揮してもらおうと営業部に配属。営業職への転身に当初は戸惑ったものの、経理部時代に磨いた知識・経験と対人能力を活かして営業部の一員として羽ばたいていきました。さらに10年後、A子さんは転勤を経ながら営業部のマネジャーを目指して活躍しています。

入社当初のA子さんは経理部スタッフでした。しかし入社8年後、経理の知識経験を活かして営業部に異動。以後、営業部の一員となりました。入社当初の職種が経理でも、知識・経験や適性、対人能力を活かしたジェネラリストになって欲しいと、会社は営業部への異動を選択。マネジャーを目指せる人材へと成長しました。このように、ジョブローテーションの目的は人材開発であり、入社時の部署に留まることなくジェネラリストを育てることが目的です。

ジョブローテーション導入企業の割合

ジョブローテーションは、企業規模が大きくなればなるほど実施している割合が高くなります。これは、規模が小さい企業ではジェネラリストを必要としていないのではなく、規模が小さい企業では人事異動をしなくても複数の職務を経験しがちであるため、割合が低いだけです。

独立行政法人労働政策研究・研修機構「企業における転勤の実態に関する調査」によると、正社員1,000人以上の規模の企業では、ジョブローテーションの実施率は70%を超えています。規模が小さくなるごとに実施率は下がり、300人未満の中小企業での実施率は37%程度に留まっています。

企業側から見たジョブローテーションのメリット

企業側から見たジョブローテーションのメリット
それでは、企業側から見たジョブローテーションのメリットを紹介します。

社員の人材開発が図れる

ジョブローテーションを実行すると社員の人材開発が図れます。複数の職務を経験し、部署異動をしていくことで、社員は様々な職務を経験し、幅広い知識・経験を有する人材へと成長します。

日本企業の人事制度に合っている

日本企業の人事制度、特に人材開発制度は、社員をジェネラリストとして育成するように構築されています。そのため、ジョブローテーションを人材開発施策として採り入れることは、人事制度の運用そのものです。

人員配置がやりやすい

ジョブローテーションの結果、ジェネラリストとして育成された社員は、人員配置がしやすくなります。人材開発戦略の元にジョブローテーションを実行していますから、退職者の補充ではなく、ジェネラリストを育成すること、また、ジェネラリストが活躍するための人員配置です。

部署間の連携が図れる

ジョブローテーションを実行することで社員が複数の職務、あるいは部署を経験すれば、部署間の連携が図れるようになります。「部署間に壁がある」とは、組織風土が淀んでいる企業にありがちな事態ですが、ジョブローテーションによって顔見知りができたり、協同して仕事をしていったりすることによって、部署間の連携が図れるようになる訳です。

企業側から見たジョブローテーションのデメリット

企業側から見たジョブローテーションのデメリット
次に、企業側から見たジョブローテーションのデメリットを説明します。

スペシャリストを育成できない

これまで日本企業はジェネラリストを育成し、ジェネラリストに活躍してもらおうと思っていました。しかし、グローバル化や企業を取り巻く問題が複雑化・難化するに従い、スペシャリストが求められつつあります。「広く浅く」ではなく、その道に精通した人材が日本企業でも需要が出てきているのです。

スペシャリストと言っても専門性を高めていれば良いのではなく、専門領域を持ったマネジメント層が期待されています。ジェネラリストに比べれば広く浅い知識・経験はありませんが、専門領域に長けた人材がマネジャーとなることによって、組織内の人材の厚みが出てきます。ところが、ジェネラリストを前提としたジョブローテーションでは、スペシャリストを育成できないのですね。

ジェネラリスト人材の退職リスク

ジェネラリストを育成するには、中途採用者でまかなうよりも、自社でジョブローテーションを行って育てた方が、会社独自のルールを知り、組織風土も分かった上で職務に当たるので適切です。一方、ジェネラリストが退職してしまうと、ジェネラリスト人材を育成しなくてはならないのでジョブローテーションでは、人材の退職リスクが大きいのです。スペシャリストなら労働市場から採用することも可能です。

同一労働同一賃金に適さないリスクも

日本政府が推進している働き方改革の1つである同一労働同一賃金は、同じ仕事をしているなら同じ賃金にするという人事制度上の仕組みです。同一労働同一賃金は、これまでの日本企業で当然とされていたヒト型の人事制度から、仕事や役割を基準としたジョブ型の人事制度への移行を促します。ジョブ型人事制度は欧米企業が導入していますが、欧米企業ではそもそもジョブローテーションがありません。

ジョブローテーションがない欧米企業ではジェネラリストではなく、スペシャリストが求められています。同一労働同一賃金を推進する日本においては、来る将来、日本企業もジョブ型人事制度に移行していくでしょうし、そうなると日本企業でも、ジョブローテーションがなくなる方向性になることが予測されます。ジョブローテーション自体が同一労働同一賃金に適さないリスクもあるということが分かります。

社員側から見たジョブローテーションのメリット

社員側から見たジョブローテーションのメリット
社員側から見たジョブローテーションのメリットです。

企業内の人脈づくりができる

ジョブローテーションによって複数の部署・職務を経験することは社内に人脈を作っていくことを意味し、ジョブローテーションのメリットです。社員が昇進・昇格していくに従って、他部署の人材と仕事をするケースが増えてきますが、他部署と仕事をするには人脈を作って、部署間の垣根を払っておくことが効率的です。ジョブローテーションによって人脈づくりをしておけば他部署と仕事をしてもうまく進められます。

昇進・昇格がしやすくなる

ジェネラリストの育成を目指している日本企業にいる限りにおいて、ジョブローテーションによって複数の職務・部署の経験を積んでいけば、昇進・昇格がしやすくなります。ジョブローテーションしておけば人員配置がやりやすくなるのですが、会社が求める人材(つまりジェネラリスト)となっていくことによって、昇進・昇格がしやすくなるのです。

社員側から見たジョブローテーションのデメリット

社員側から見たジョブローテーションのデメリット
次に、社員側から見たジョブローテーションのデメリットを説明します。

希望しない仕事に携わらなくてはならない

ジョブローテーションは会社の人事異動のみならず、社員本人の申請によるローテーションもあります。しかし、前者の場合、希望しない仕事でも携わらなくてはなりません。希望しない仕事でも、自分の人材開発のためになると思えば良いのですが、やらされ感となった場合はモチベーション低下にも繋がります。

スペシャリストを求める企業への転職が難しい

ジェネラリストを育成する日本企業に勤務する以上は、スペシャリストにはなりにくいです。そのため、社員がスペシャリストになりたいと思っても叶いませんし、スペシャリストを求める企業への転職も難しいでしょう。スペシャリストになりたいと思ったら、キャリアが浅いうちの転職が必要です。年齢を重ねた後でスペシャリストになりたいと転職活動しても、社員自身がジェネラリストなのですから転職は困難です。

まとめ

ジョブローテーションのまとめ
ジェネラリストを育成する日本企業にとって、ジョブローテーションは必要な人事施策でした。社員に複数の職務・部署を経験させて人材開発する企業にとって、ジョブローテーションの恩恵は大きいものでした。社員にとっても社内の人脈づくりができたり、昇進・昇格しやすかったりとメリットがあります。一方で、働き方改革や人材の流動性の観点から考えるとデメリットはあり、今日の日本においてジョブローテーションは岐路に立っていると言えます。

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