高度プロフェッショナル制度とは?
高度プロフェッショナル制度とは、高い年収を有し、高度な専門的知識を有する一部の労働者について賃金を労働時間ではなく成果で評価する制度。2019年4月1日に施行された働き方改革関連法の1つです。高度プロフェッショナル制度の正式名称は、特定高度専門業務・成果型労働制です。
日本の賃金は時間で決まっていた
労働基準法で定められているように、日本の労働者の賃金は時間で決まっていました。残業すれば残業代が支払われ、休日に働けば休日出勤手当が支払われることが法律で定められています。
時間ではなく成果で評価する仕組み
高度プロフェッショナル制度は時間ではなく成果で評価する仕組みです。高度プロフェッショナル制度の対象となる労働者の年収は1,075万円以上。高度プロフェッショナル制度の対象となれば、1つの成果を出すのに1時間かかっても、あるいはその10倍の10時間かかっても賃金に変化はありません。高度プロフェッショナル制度は、働き方改革は多様な働き方を後押しする政府の取り組みに沿った制度と言えます。
高度プロフェッショナル制度の対応業務
高度プロフェッショナル制度の対応業務としては、年収1,075万円以上の研究開発・アナリスト業務・コンサルタント業務・金融商品のディーリング・金融商品の開発等の一部の業務に限定されています。
高度プロフェッショナル制度の対応職種
高度プロフェッショナル制度の対応職種は上記業務を担う労働者ですが、以下の要件を満たす必要があります。
・1年間に支払われると見込まれる賃金の額が、「平均給与額」の3倍を相当程度上回る水準として、厚生労働省令で定める額(1075万円を想定)以上である労働者
医師、弁護士等は対象外
高度プロフェッショナル制度では、医師、弁護士、公認会計士等の独占業務の専門職は対象外とされます。この理由は、労働時間を個人の自由な裁量に任せることができないためです。高度プロフェッショナル制度は、時間ではなく成果で評価される仕組みです。例えば臨床医は診察時間が定められており、「50人の患者を診たから今日は退社する」ことはできませんよね。高度プロフェッショナル制度の対象外となるゆえんです。
高度プロフェッショナル制度が求められる背景とは
高度プロフェッショナル制度はなぜ求められるのでしょうか?その背景を説明します。
低下する企業の労働生産性
日本企業の労働生産性は停滞しています。2019年の調査によると、日本の時間当たり労働生産性は、OECD加盟36カ国中21位です(公益財団法人日本生産性本部)。米国のわずか6割程度と低い数値となっていました。また、日本の時間当たり労働生産性は主要先進7か国で最低で、1970年以来一貫して最下位が続いているのです。
労働生産性の算式は「付加価値/労働投入量」で求められますので、労働時間を少なくして付加価値=成果を高めれば向上させることができます。賃金を時間ではなく成果で評価する高度プロフェッショナル制度は、労働生産性が停滞する日本企業においては求められた仕組みと言えるでしょう。
頭脳労働が増えている
身体や時間を使って働く肉体労働に対して、頭脳労働という働き方があります。頭脳労働は企画やアイディアを通じてお金に換える働き方です。開発やコンサルティング、アナリスト業務といった、高度プロフェッショナル制度の業務も頭脳労働なのですが、こういった働き方が増えたことは、高度プロフェッショナル制度が求められる背景となります。
高度プロフェッショナル制度のメリット
高度プロフェッショナル制度にはどんなメリットがあるか解説します。
労働生産性が高まる
時間ではなく成果で働く業種・職種にとっては、高度プロフェッショナル制度を取り入れることで労働生産性が高まりやすくなることが推測されます。所定労働時間まで働かなくても成果を出せば帰宅できるのですから、労働生産性が高まります。
仕事ができる人が得をする
高度プロフェッショナル制度を取り入れたからといって、誰でも早く退社できる訳ではありません。仕事を早く終えて成果をあげられる人と、そうでない人とで、労働時間は異なります。高度プロフェッショナル制度は、早く成果をあげられる、いわゆる「仕事ができる人」が得をするのです。
若くても高い年収が見込める
高度プロフェッショナル制度は年功序列制度ではありません。ですから、若いうちはいくら仕事をしても年収が上がらず、年を取った時に年収が上がるという賃金の仕組みが当てはまりません。成果さえ出せれば、若くても高い年収が見込めるのが高度プロフェッショナル制度のメリットです。
自由な働き方ができる
高度プロフェッショナル制度は労働者に時間の裁量がありますから、自由な働き方ができます。パソコンさえあれば作業できる業務なら、自宅やカフェで働くこともできます。成果によって評価される仕組みだからこそ、オフィスへの出勤にこだわらない働き方を可能にします。
高度プロフェッショナル制度のデメリット
高度プロフェッショナル制度にはいくつかの問題があります。特に、2019年4月に施行された同制度は残業代ゼロ法と呼ばれ批判されることもあるくらいです。高度プロフェッショナル制度のデメリットを紹介します。
長時間労働が助長される
高度プロフェッショナル制度は時間ではなく成果で賃金を定める人事制度です。どれだけ長時間残業しても、休日出勤しても賃金は変わりません。そのため、企業が残業代を支払いたくないために高度プロフェッショナル制度を悪用する企業が出てくるリスクをはらんでいます。そのため、高度プロフェッショナル制度を導入すると、長時間労働が助長される危険性があります。どれだけ残業をこなしても成果があがらなければ賃金が上がらないため、残業代ゼロ法と批判される理由がここにあります。
また、どれだけ残業しても成果があがらないのであれば、仕事をし過ぎて健康を害してしまう社員が出る可能性もあるでしょう。
運用次第で社員間の軋轢を生む
高度プロフェッショナル制度の「成果」という概念について企業がどう考えるかも問題で、運用次第で社員間の軋轢を生むことになりかねません。半年ごとにきちんと成果が出る業種・職種もあれば、数年経たないと成果が出ないケースもあるでしょう。半年ごとの短期間で成果を見るような運用に限定していると、長期間にわたって成果が出ない社員は不満に思います。従って、短期間で成果が出る社員を羨ましがったり、果ては会社に対する恨みを抱いたりする事態に発展しかねません。
その他、高度プロフェッショナル制度の対象になる社員と、対象にならない社員との間でも軋轢が生まれるリスクがあります。
高度プロフェッショナル制度の導入企業が少ない理由
産経新聞の調査(2019年5月)によると、高度プロフェッショナル制度を導入すると回答した主要企業の割合は、わずか1%しかありませんでした。高度プロフェッショナル制度の導入企業が少ない理由はなぜなのでしょうか。高度プロフェッショナル制度のデメリットの他に、導入のハードルが高いという問題もあります。詳しく説明します。
導入のハードルが高い
高度プロフェッショナル制度を導入するには、以下の流れを踏む必要があります。
・労使委員会の設置
・労使委員会・委員の5分の4以上の多数決による決議
・所轄労働基準監督署長に届け出る
労使委員会で決議される内容が多いのが難点です。対象業務・対象労働者・健康管理時間を把握する措置・健康及び福祉を確保するための措置等、多岐に亘ります。これらに対して全て決議し、労基署に届け出ることで初めて高度プロフェッショナル制度を導入できます。高度プロフェッショナル制度のデメリットを踏まえると、導入のハードルが高い制度をわざわざ取り入れるインセンティブが弱いのでしょう。
サービス残業のリスク
デメリットの項目で説明しました通り、高度プロフェッショナル制度を導入すると長時間労働が助長されるリスクがあります。これは、個人だけでなく企業にとっても問題で、企業が導入に二の足を踏んでいる理由です。サービス残業を放置すると社員の健康問題や社員から残業代や安全配慮義務違反で訴えられる可能性もはらんでいます。このようなリスクが想定されるので、制度導入が進まないのです。
まとめ
高度プロフェッショナル制度は、働き方改革関連法の一環で2019年4月に施行された制度。メリットもありますが、残業代ゼロ法と批判される程にデメリットがあるのも事実。自社に見合う仕組みか否かを検討した上で導入を検討したいところですね。