幸福や健康を意味するウェルビーイング。従業員の心身の健康を高めることを目指したいことから、ウェルビーイングはビジネスでも重要な考えとなります。記事では、ウェルビーイングが求められる理由、メリット、導入方法、企業事例を解説します。
ウェルビーイングとは?
ウェルビーイングの直訳は幸福や健康です。元々は社会福祉の中で使われる言葉でしたが、最近ではビジネスでもウェルビーイングが使われています。ビジネスでの使い方を確認していきます。
ウェルビーイングの定義
ウェルビーイングのビジネスでの使い方を知るため、世界保健機関(WHO)による「健康」の定義を確認します(世界保健機関憲章)。世界保健機関憲章において、健康は病気ではないとか、弱っていないということではなく、肉体的にも、精神的にも、そして社会的にも、すべてが 満たされた状態にあることと定義されています。
ビジネスでのウェルビーイングは、WHOの健康の定義の観点で、従業員一人ひとりの心身の健康を高めることと定義されます。ウェルビーイングを経営に活かし、従業員の心身の健康を高めることで企業価値の向上に務めることが期待されます。
日本におけるウェルビーイングの現状
国際連合における幸福度ランキング(2019年)から、日本のウェルビーイングの現状を確認します。国連委嘱調査によると日本の幸福度ランキングは58位、G8ではワースト2位という結果に留まっています。
自由や寛容さが低いことから、幸福度が低下した傾向が読み取れます。日本の幸福度は、2018年調査からも順位を下げる結果となりました。企業がウェルビーイングに取り組む素地があることが分かりますね。
長生きできても日本の幸福度は58位、G8中でワースト2(国連委嘱調査)
ウェルビーイングが求められる理由
ウェルビーイングが求められる理由について、人事制度や企業を取り巻く環境が変化してきたことが挙げられます。3つの観点で説明します。
終身雇用制の崩壊
終身雇用制は崩れつつあることが、ウェルビーイングが求められる理由です。終身雇用制は戦前からありましたが、高度経済成長期の人手不足で認知されるようになりました。
人手不足のために、大企業を中心に従業員を定年まで雇用する終身雇用制が浸透されていったのですね。終身雇用となれば従業員は長く勤められるので安心感があります。
しかし、2019年にトヨタ自動車の豊田章男社長が「終身雇用を守っていくのは難しい局面に入ってきた」(日本自動車工業会の会長会見)と発言したことに象徴されるように、終身雇用制は崩れつつあります。
終身雇用制が守られなくなると定年まで勤められるわけではなくなるので従業員は不安ですね。ドラスティックな変化により心身に不調をきたすリスクもあります。終身雇用制の崩壊が経営にウェルビーイングが求められる理由です。
ダイバーシティ&インクルージョンへの対応
価値観の多様性もウェルビーイングが求められる理由です。企業は、年齢・性別・国籍・障害の有無などによって差別することなく、ダイバーシティ&インクルージョンに対応することを期待されます。
人材の多様性を認識し、受け入れることは、人材マネジメントにおいて大切な観点なのです。 ダイバーシティ&インクルージョンを行うには、ウェルビーイングを活用することが不可欠です。
例えば日本人男性中心の企業で働く中で、マイノリティである女性や外国人は孤立しやすくなります。性別や年齢、国籍などに捉われず、従業員一人ひとりに寄り添った制度改革や組織開発が求められているのです。
リテンションマネジメント
リテンションマネジメントもウェルビーイングを必要とします。リテンションマネジメントは、経営学者・山本寛氏によると「優秀で高業績を挙げる従業員の退職を防止すること」(『人材定着のマネジメント』)と定義されます。
環境変化が激しい現代において、高業績者に転職されてしまうことは企業にとってリスクです。均一的な人事評価ではなく、成果を出せる人材が活躍できる組織を形成するためにウェルビーイングが必要です。
ウェルビーイングのメリット
企業がウェルビーイングを活用して経営すると、どんなメリットがあるでしょうか。2つのポイントで説明します。
職場の人間関係や労働環境の改善になる
ウェルビーイングに基づいて経営すると職場の人間関係や労働環境が改善します。ウェルビーイングを活用すれば、経営者には人間関係を重視した経営となります。
従業員同士のコミュニケーションを促進し、働きやすい環境を整えることに経営者が注力するようになります。サービス残業の抑制や有給休暇取得率の促進に繋がるでしょう。
優秀な人材の確保に繋がる
ウェルビーイングに基づいて経営すると優秀な人材を確保できるようになります。良好な人間関係や働きやすい労働環境であれば、働きたいと考える人が増えます。
また、リテンションマネジメントの観点からは、成果に応じて高い報酬を払えば優秀な人材は幸せだと考えます。そのため、評価制度や賃金制度の再構築が期待され、優秀な人材を確保できるようになるわけです。
投資家からの評価が高まる
企業がウェルビーイングを活用した経営を行うことは健康経営の実践といえます。健康経営とは従業員の健康管理を経営課題として捉え、健康維持・増進が企業価値に繋がるという経営手法です。
経済産業省と東京証券取引所は共同で健康経営銘柄を選定していて、ウェルビーイングを活用する企業は、投資家からの評価が高まることが期待されます。
ウェルビーイングの効果的な導入方法
ウェルビーイングを企業に導入するにはどうしたら良いでしょうか。効果的な導入方法を紹介します。
心理的安全性を目指した組織開発
心理的安全性を確保できる組織にすると、従業員は幸福で働きやすいと感じることでしょう。心理的安全性とは、リスクがある言動を起こしても受け入れられ、本来の自分をさらけ出すことができる組織の状態をいいます。
組織開発を通じてウェルビーイングを活用する方法です。 新しいことに挑戦したいと考えたり、意見を述べたりしたときに、言動を否定され続けると人間は「何をいってもダメなんだ」と学習し無気力になります(学習性無力感)。
学習性無力感はストレスを回避できない状態なので、うつ病のリスクとなることもあります。組織において心理的安全性を確保することで、従業員の心の安定を維持する必要があるのです。
それでは、どうすれば心理的安全性を確保できる組織をつくれるでしょうか。
経営者が「心理的安全性を確保できる組織にしたい」と叫ぶだけではうまくいかないので、従業員が自発的に「心理的安全性を確保するにはどうしたら良いか」と自発的に考え、行動するワークショップを行います。
最初は小さな範囲で徐々に全社的な取り組みにすると、心理的安全性を確保できるようになります。
福利厚生の整備
福利厚生を整備することにより、ウェルビーイングを効果的に導入できます。食事補助やオフィスヨガ、人間ドックの受診料の負担、カウンセリング体制の構築といったように福利厚生を整備します。
従業員の健康に配慮した福利厚生を導入することで、従業員の健康を維持・増進することができます。
数字で評価できるツールの導入
ウェルビーイングを実施したら数字で評価できるツールを導入し従業員の満足度を図りましょう。組織開発や福利厚生、あるいは人事制度を実施しても従業員がどのくらい満足しているかは見えにくいです。
従業員満足度調査や社内SNSの導入により、ウェルビーイングにより従業員がどのくらい幸福感を感じているか把握しておく必要があります。
ウェルビーイングの企業事例
ウェルビーイングの3社の企業事例を紹介します。
PwC Japanグループ
PwC Japanグループはウェルビーイングへの取り組みとして、健康診断の補助、マッサージルームの設置、ストレスチェック、メンタルヘルス研修、職場復帰支援プログラムなどを実施しています。
PwC Japanグループは、健康経営の観点で全社的にウェルビーイングを行い、従業員の心身の幸福が顧客への価値最大化を目指せると考えています。
ジュピターテレコム
ジュピターテレコムは、ウェルビーイングへの取り組みとして、法定項目を超える健康診断、糖尿病対策、乳がんセルフチェック支援などを実施しています。
ジュピターテレコムの経営方針には「従業員と家族の幸福」、そして行動指針に「すべての人を大切にする」があり、ウェルビーイングの取り組みは経営方針と行動指針を体現するものということができます。
アシックス
アシックスは、ウェルビーイングへの取り組みとして、ASICS Well-beingを構築しました。
具体的な取り組みとして、低カロリー栄養素のメニューを社員食堂で提供、スポーツを楽しめる施設の設営などにより従業員の心身の健康増進を図っています。
まとめ
従業員の心身の健康を高めるため、企業のウェルビーイングへの取り組みが期待されます。
ウェルビーイングが求められる理由として、終身雇用制の崩壊やダイバーシティ&インクルージョンへの対応が挙げられます。ウェルビーイングに取り組むと人間関係の改善や優秀な人材の確保といったメリットを得られます。