クラッシャー上司とは?問題となる背景・特徴・対策を解説

クラッシャー上司
部下を精神的に追い詰めながら出世していくクラッシャー上司。クラッシャー上司は組織では優秀と見なされるため、問題が浮き彫りにされにくいです。企業はクラッシャー上司にどう対処すべきでしょうか。クラッシャー上司が問題となった背景、特徴、クラッシャー上司への対策を解決します。
目次

クラッシャー上司とは?

諭旨解雇とは

クラッシャー上司とは、部下を精神的に追い詰めながら出世していく管理職を指します。

筑波大学の松崎一葉教授が著書『クラッシャー上司 平気で部下を追い詰める人たち』の中で提唱し、注目された言葉です。まずはクラッシャー上司とパワハラ上司との違いを確認します。

クラッシャー上司 平気で部下を追い詰める人たち

パワハラ上司との違い

クラッシャー上司はパワハラ上司とは違います。パワハラ上司は自分の不満やストレス解消のために部下に嫌がらせを行います。一方でクラッシャー上司は、業務の遂行のために部下に嫌がらせを行うのです。

部下を精神的に追い詰めてでも仕事をうまく進めようとするのがクラッシャー上司です。 ですからクラッシャー上司は仕事ができる人が多く、組織内で評価される傾向にあります。

評価されるために、クラッシャー上司のパワハラを見ても企業としてなかなか対抗策を講じにくい点が問題になります。

クラッシャー上司が問題となった背景

コンフリクトとは?

クラッシャー上司が問題となったのはどんな背景があるでしょうか。いくつかの理由を紹介します。

人材を労働市場から採用する文化がなかった

いくら仕事ができる管理職でもパワハラ行為を行う上司は評価されないはずです。しかし日本では新卒一括採用と年功序列型人事制度を採用してきたため、人材の流出・流入は活発ではありませんでした。

たとえクラッシャー上司がいても、労働市場で人材を採用する文化がなければ、企業は「クラッシャー上司も成果を出している」「部下は大変だがなんとかがんばって欲しい」という考えになりがちです。

メンバーシップ型雇用は職務範囲が曖昧

日本企業ではメンバーシップ型雇用を導入してきました。メンバーシップ型雇用は人に仕事を割り当てる雇用制度です。イメージとしては、人事部のAさんに給与・社会保険の仕事、Bさんに採用の仕事などを割り当てるということです。

メンバーシップ型では職務範囲が曖昧なため、Aさんに採用の仕事を追加したり、人事異動でBさんを営業部に異動させたりすることも可能です。

ジェネラリストを育成してきた日本企業においてはメンバーシップ型雇用が向いていましたが、一方でメンバーシップ型がクラッシャー上司を生む背景ともなりました。

メンバーシップ型では「仕事を断る」ことができません。たとえ自分の能力では手一杯の仕事を任されたとしても、上司の業務命令には従う必要があるのです。

管理職は組織目標に責任がありますから、クラッシャー上司は部下に無理をさせてでも仕事を命令し、結果的に部下を精神的に追い詰めてしまうのです。

上司を批判できない組織風土

日本企業では上司を批判できない組織風土が生まれやすくなります。

職務範囲を限定せず、年功序列的に評価される日本企業では、「仕事で成果をあげる」よりも「組織になじんでくれる」「上司に気に入られる」といった観点で評価されやすくなるからです。

そのため上司を批判できない組織風土が生まれやすくなります。結果、業務遂行のために部下を精神的に追い詰めるクラッシャー上司が問題となるのです。

クラッシャー上司の特徴

オワハラの3つのパターン

クラッシャー上司にはどんな特徴があるでしょうか。5つのポイントを紹介します。

自分が正しいと思っている

クラッシャー上司は自分が正しいと思っています。社内で評価されているので、自分はマネジメント力があると誤解します。

また、仕事をうまくこなしてきた実感があるので、部下の意見や考えを参考にしません。

「考えが正しい自分に従わない部下がおかしい」「部下を矯正したい」とすら考えます。間違いを指摘する部下には聞く耳を持たず、自分の失敗を認めようとしないのです。

完璧主義者である

クラッシャー上司は完璧主義者です。自分の思い通りに物事をこなさないと気が済まないので、自分の計画やルールを踏み外す人を許しません。

クラッシャー上司は、自分が作ったルールを部下に厳守させようと必死です。ルール外の行動を取る部下がいたら、感情とロジックの両面で部下を責め立て「ルールを守らないと仕事がうまくできなくなる」と脅すのです。

メタ認知に欠けている

メタ認知とは、自分の認知している状態を客観的に認知していることを表します。クラッシャー上司はメタ認知に欠けているので、自分の言動で他人にどんな影響を与えるかが分かりません。

「自分が正しいと思っている」のも、メタ認知の欠如が影響します。

メタ認知に欠けるクラッシャー上司は、自分の言動で部下を精神的に苦しめていることに気づけません。部下がどれだけ傷つき、心を痛めているかに配慮することができないのです。

自分を守るのに精一杯

クラッシャー上司は自分を守るのに精一杯なので、自分の評価を下げる事態を許容できません。

部下の失敗は自分の評価を下げることになるので、部下を強く攻撃します。ちょっとした失敗も許されず責められてしまうと、部下は必要以上に慎重になり業務にチャレンジできなくなるでしょう。

部下を褒めるのが下手

クラッシャー上司は部下を褒めるのが下手です。クラッシャー上司は仕事ができますから、部下の問題点によく気づきます。しかし問題点ばかりあげつらわれると、部下はやる気がなくなるものです。

褒めてやる気を引き出す動機づけを苦手とします。

クラッシャー上司への対策

クラッシャー上司を見つけたとしても「仕事ができるから」と諦めてはいませんか。クラッシャー上司への対策を考えていきます。

人事制度の見直し

クラッシャー上司を生み出す原因として、伝統的な日本企業の人事制度が挙げられます。

・メンバーシップ型雇用制度
・年功序列型人事制度

メンバーシップ型雇用制度をジョブ型雇用制度に改め、また、年功ではなく、職務を遂行し成果をあげる人材を評価する人事制度(雇用制度、評価制度、賃金制度)に改める必要があります。

被害を受けた社員へのケア

クラッシャー上司から被害を受けた部下がいないかどうかを調査します。

そして被害を受けた部下がいる場合、企業はヒアリングを行って被害状況を把握します。

また、部下の心の状態に応じて、産業医や臨床心理士などを活用して心のケアを行うことも検討します。

コンプライアンス遵守への意識と実践

クラッシャー上司が問題となった背景に、コンプライアンスへの低い意識があると説明しました。人事部は経営層に対し、コンプライアンスを遵守するための意識づくりを提案してみて下さい。

コンプライアンス研修やeラーニングを実施して、企業全体がコンプライアンス遵守に取り組んでいることを社員にアピールしましょう。 企業がコンプライアンス遵守に熱心であることが社員に伝わり、クラッシャー上司から被害を受けている部下を初め、全社員にコンプライアンス遵守の意識が高まっていくことでしょう。

健全な組織風土への見直し

上司を批判できない組織風土では、クラッシャー上司が生まれやすくなります。クラッシャー上司は完璧主義者で部下の失敗を許さないので、失敗を許さない組織風土もクラッシャー上司の行動を助長するでしょう。

現状の組織風土を省みて、健全な組織風土に見直していきます。組織風土を見直すにはトップが介入して全社的な組織開発をしていく必要があります。手間がかかりますが、クラッシャー上司の発見をきっかけとして組織開発に着手してみましょう。

マネジメント力を高める管理職研修

クラッシャー上司は、他者への共感力にかけ、動機づけが弱いなど、対人マネジメントが弱い傾向にあります。そのため、企業は管理職研修を行い、マネジメント力を高めていくことが対策となります。

管理職研修を受けることで、クラッシャー上司のマネジメントが通用しないこと、組織目標を達成するには、部下を動機づけてモチベーションを高めるマネジメントが必要であることを、しっかり認識してもらう必要があるのです。

まとめ

部下を精神的に追い詰めながら出世していくクラッシャー上司は、仕事ができると思われる点がやっかいです。

クラッシャー上司の存在を見極め、人事制度や被害を受けた部下への心のケア、組織風土の見直しなどを通じて、企業にはクラッシャー上司に対処していくことが求められます。

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