セルフ・エフィカシーについて
セルフ・エフィカシーは、日本語で自己効力感と訳される心理学用語です。セルフ・エフィカシーとは何か、セルフ・エフィカシー(自己効力感)と似た用語である自己肯定感との違いや、セルフ・エフィカシーが重要な理由等について解説していきます。
セルフ・エフィカシーとは?バンデューラーはどんな人?
セルフ・エフィカシーは、成果を求められる状況下において自分を信じて行動に移せる力のことです。「自分は行動できる」と動機付けることで成果達成を目指すことができます。
セルフ・エフィカシーを提唱したアルバート・バンデューラーは、カナダ人心理学者でスタンフォード大学名誉教授です。バンデューラーは、セルフ・エフィカシーの先行要因として「結果期待」「効力期待」の2つに分けて考えていました。
セルフ・エフィカシー(自己効力感)と自己肯定感の違い
セルフ・エフィカシー(自己効力感)と似た概念に自己肯定感があります。セルフ・エフィカシーが「自分はできると信じて行動に移せる力」であるのに対し、自己肯定感は、自己を尊重して自身を尊重することができる力のこと。つまり自己肯定感を持っていれば、自分が成功したとしても失敗したとしてもありのままの自分を受容することができます。
セルフ・エフィカシーが重要な理由
なぜセルフ・エフィカシーが重要なのでしょうか。それを考えるにはセルフ・エフィカシーが高い人はどんな人かを考えてみる必要があります。セルフ・エフィカシーが高い人の特徴は以下の通りです。
・未知の事態に尻込みせずに意思決定する
・なんとかしてやり遂げようとする
・周囲のアドバイスに耳を傾けて仕事に活かす
難しい目標、未知の事態等に直面すると人は「どうしたら良いだろう。自分にできるだろうか」と思うものです。しかしセルフ・エフィカシーが高い人は挑戦し、時間をかけずに意思決定し、なんとかやり遂げようとします。周囲のアドバイスに耳を傾けて仕事に活かします。仕事でいえば、経験を積んだり役職が上がったりすると難しい目標や未知の事態に遭遇するようになり、「自分はやれる」「自分は行動できる」と思って行動しなくてはやり遂げることができません。セルフ・エフィカシーが重要なゆえんです。
セルフ・エフィカシーテストとは
セルフ・エフィカシーテストとは、質問紙を通じセルフ・エフィカシーを測定できるものです。「はい・いいえ」で答えられる簡単な質問が並び、それらに答えることで自らのセルフ・エフィカシーがどの程度かを知ることができます。
セルフ・エフィカシーの種類
セルフ・エフィカシーには3つの種類に分けることができます。自己統制的自己効力感、社会的自己効力感、学業的自己効力感の3つです。
自己統制的自己効力感
自己統制的自己効力感は、自分の行動を統制するセルフ・エフィカシーのことを言います。例えば、困難な局面に遭遇した時にうまくこなしきれず大きなミスをしてしまったとしますね。そういう時に自己統制的自己効力感が高い人は、くよくよせずにサッと立ち直ることができる人です。
社会的自己効力感
社会的自己効力感は、社会においてセルフ・エフィカシーを持つことを言います。例えば、職場の中で腫れもののような扱いの人がいました。仕事はできるのですがちょっとしたミスにも目くじらを立てて怒ります。社会的自己効力感が高い人は職場の中で気難しいと思えるような人を避けて通らずに、人間関係を構築できます。とはいえ、あまり難しい人間関係でなくても、職場で人間関係を築けることは充分に社会的自己効力感があるといえます。
学業的自己効力感
学業的自己効力感は、学習におけるセルフ・エフィカシーを持つことを言います。例えば、仕事で必要な勉強や資格取得をすることに余念がないという場合が該当します。
セルフ・エフィカシーの構成要素
セルフ・エフィカシーの5つの構成要素を紹介します。
達成経験
達成経験は、自分が何かを達成した経験を言います。達成したものの大きさには拘らず、何かを達成した経験であれば達成経験と呼べます。
代理経験(追体験)
代理経験(追体験)は、他者が何かを達成したのを観察した経験を言います。例えば、営業部で誰も成し遂げたことがないトップセールスを何度も記録した人を観察すると、自分も気分が高揚し何かを達成したかのような追体験をすることがあります。そうした経験を代理経験と言っています。
言語的(社会的)説得
言語的(社会的)説得は、他者から「あなたはその仕事をやり遂げられる」と言葉で説明されることを言います。自分では「この仕事ができない」と思っていても他者から論理的に説明されると説得力がありますし、自分にもできると思えるようになります。
生理的要因・情緒的高揚
生理的要因・情緒的高揚は、気分が高まるような高揚感のことを言います。
想像的体験
想像的体験は、自分や他者の達成や成功を想像することを言います。未知の仕事に対して人は不安な思いを抱きますが、想像してみると「できそうだ」と思えて達成行動につながります。
セルフ・エフィカシーを高めるためには
セルフ・エフィカシーはビジネスや人生の行動面にプラスに働きます。セルフ・エフィカシーを高めるにはどうしたら良いか、3つのポイントに沿って説明します。
成功体験を多く積み重ねる
自分はできそうだ・やれそうだと思わないと、セルフ・エフィカシーには繋がりません。しかし黙っていてもできそうだ・やれそうだとは思えないので、成功体験を積み重ねることが必要です。初めはどんな小さなことでも構いません。簡単な仕事、簡単な課題、簡単な勉強や資格取得で結構です。小さな成功体験をこつこつと積み重ねることでセルフ・エフィカシーを高める術を体が覚えていくでしょう。
自分が前向きになれる人と交流する機会を増やす
ネガティブな人よりはポジティブな人の方がセルフ・エフィカシーを持っています。セルフ・エフィカシーを持っている人の特徴を見てもそうでしたよね。ですから、セルフ・エフィカシーを高めるには、この人といると自分が前向きになれると思う人と交流する機会を増やしていくことが肝要です。
気分転換やリフレッシュできる機会を増やす
人間は常に困難やストレスにさらされていると前向きな気持ちになれず、セルフ・エフィカシーを高めるには至りません。たとえ忙しかったとしても、目の前の仕事をこなしたいと思ったとしても、気分転換やリフレッシュできる機会を増やし心に余裕を持ちましょう。そうすると自分は行動できる、成し遂げられるという思いを持てるようになりセルフ・エフィカシーを高めることになります。
セルフ・エフィカシーにまつわる本
セルフ・エフィカシーやそれに関係する概念をよく理解するために、まつわる本を5冊紹介します。
1. セルフ・エフィカシーの臨床心理学
「セルフ・エフィカシーの臨床心理学」は、セルフ・エフィカシーを網羅的に知ることができる入門書です。教育や臨床の場において、生徒や患者のセルフ・エフィカシーを向上させるにはどうしたら良いかが分かりやすく書かれています。
2. 激動社会の中の自己効力
「激動社会の中の自己効力」は、心理学者アルバート・バンデューラーその他14人の研究者による研究書です。発達心理学、教育、健康、社会学等の多様な領域からセルフ・エフィカシーについて執筆しています。
3. 小さなことに左右されない 「本当の自信」を手に入れる9つのステップ
「小さなことに左右されない 「本当の自信」を手に入れる9つのステップ」は、精神科医で旧民主党所属の衆議院議員でもあった水島広子による著書。セルフ・エフィカシーと類似した概念である自己肯定感を紹介しています。成功したとしても失敗したとしても自分を受容するのが自己肯定感ですが、本書を読むと自分の負の部分を受け入れる土壌が養われます。
4. 自己肯定感、持っていますか? あなたの世界をガラリと変える、たったひとつの方法
「自己肯定感、持っていますか? あなたの世界をガラリと変える、たったひとつの方法」は、「小さなことに左右されない」と同様、水島広子の著書です。「小さなことに左右されない」は9つのステップを軸に書かれていますが、本書はそれに比べるとシンプルに自己肯定感について書かれています。
5. 人を伸ばす力―内発と自律のすすめ
「人を伸ばす力―内発と自律のすすめ」は、自己決定理論で著名なアメリカの心理学者エドワード・デシによる書籍。内発的動機付け、自律性をどのようにしたら伸ばせるかを説いています。例えば、内発的動機付けは、仕事をする上で報酬とか他者からの評価といった外的なものによって仕事へのモチベーションが上がるのではなく、仕事そのものが面白くてモチベーションを上げていくことができる状態です。本書はセルフ・エフィカシーそのものを扱った書籍ではありませんが、大いに関連する書籍です。
まとめ
セルフ・エフィカシーは成果を求められるビジネスの世界にあって必要な心理状態です。現在セルフ・エフィカシーが高くなくても焦ることはないので、セルフ・エフィカシーを高める方法を学びつつ、ビジネスに活かしていくことが大切です。