アクティブリスニングとは?
アクティブリスニングとは、積極的傾聴と訳されるビジネススキルです。アクティブリスニングは心理学者カール・ロジャースによって提唱され、元々はカウンセリング技法の1つとして取り入れられ、ビジネスでは管理職やリーダーに求められるスキルとして注目されています。
アクティブリスニングには傾聴と言う単語が入っていますが、相手の話を受動的に聞けば良いというものではありません。アクティブリスニングとは相手の話を積極的に聞き入れ、共感性を醸成することです。アクティブリスニングは、話を聞く間に相づちを打ったり、相手の感情を受け止めたりする会話の技法が求められるのです。
アクティブリスニングの重要性
アクティブリスニングの重要性を説明するために、1つの事例を紹介します。アクティブリスニングは相手の話を積極的に聞き受け、共感的に聞くことで、相手の行動を前向きに動かせるメリットがあります。
定時後の夕方、営業の桃井さんは思い詰めた表情で、上司の山井課長に相談しました。課長は会議室に案内しました。桃井さんが言うには、彼女は大口顧客の杉田部長と商談を進めていましたが、杉田部長が多忙になったので会田課長と個別に話を進めました。しかし、桃井さんが杉田部長に一切情報共有しなかったため、杉田部長に激怒されたというのです。桃井さんは、受注を急ぐあまり杉田部長への連絡を飛ばしてしまったのでした。
山井課長は、アクティブリスニングを使って、桃井さんの相談を相づちを打ちながら真剣に聞きました。そして、事情を丁寧に把握しつつ、課長は話の要点を桃井さんに繰り返し確認しました。課長は桃井さんから解決方法を求められたので、相談の最後に、課長は解決方法を桃井さんに一緒に考えることで話を終えました。
桃井さんは課長に真剣に聞いてもらえ、しかも解決方法を一緒に考える案を提示されたため、相談する前とは打って変わって明るい表情で会議室を出ていきました。課長のアクティブリスニングによって、桃井さんの前向きな行動に促されました。
アクティブリスニングの実践方法
アクティブリスニングの実践方法を説明しましょう。アクティブリスニングの実践方法は次の2つを使い分けることになります。
・ノンバーバルコミュニケーション
バーバルコミュニケーション
バーバルコミュニケーションは、言語的コミュニケーションと言い、言葉を使った傾聴の方法です。例えば、部下の桃井さんの相談を聞いた時、課長は相づちを打っていたと思います。相づちを打って聞いてもらえることで、桃井さんは「聞いてもらえる」と感じます。ただ、相づちにもバリエーションが必要ですね。「なるほど」「そうだね」等の相づちの変化を付けましょう。
課長は話の要点を繰り返し桃井さんに確認していましたよね。課長が繰り返し確認することで、相手は「山井課長は私の要点を理解してくれた」と信頼してくれるのです。また、解決方法を一緒に考えることを課長は提案していますが、「桃井さんはどうしたら良いと思う?」とYes/Noで答えられない質問(オープンクエスチョン)をすることで、相手の内省を引き出すこともできますよ。
ノンバーバルコミュニケーション
ノンバーバルコミュニケーションは、非言語的コミュニケーションと言います。言葉を使わずにコミュニケーションするアクティブリスニングの技法です。山井課長と桃井さんの例で、ノンバーバルコミュニケーションを説明しましょう。
ノンバーバルコミュニケーションでは視線の位置に気を付けて下さい。山井課長が桃井さんの話を聞く時、じっと見つめ過ぎると相手は緊張します。しかも異性であればなおさら。そうかといって、視線を外し続けてしまうと相手には「上の空なのかしら?」と不審がられます。相手の目を見続けるのではなく、適度に外して、しかし相手が感情を込めて話している時はしっかり視線を合わせてあげる配慮が必要です。
課長は桃井さんから相談を持ち掛けられた時、会議室に移動しました。話を聞くには落ち着いた場所に移動することが適切。聞いている時も、基本は真剣な表情を崩さずに聞くようにします。また、人間は自分と似た者に共感を抱きますから、相手の態度を真似する(ミラーリング)も効果的。桃井さんが腕を組めば課長も組み、桃井さんがお茶を飲めば課長も飲むというような方法です。
バーバルコミュニケーションとノンバーバルコミュニケーションを説明しましたが、どちらか一方だけ使えば良いというのではありません。アクティブリスニングでは、これらのコミュニケーションをうまく組み合わせて活用することで効果を発揮します。
アクティブリスニングの効果について
アクティブリスニングにはどんな効果があるか説明します。
人間関係の構築に役立つ
アクティブリスニングは相手との信頼関係を醸成することができます。ビジネスは人間関係で成り立っているので、信頼関係を築くことは重要なポイント。アクティブリスニングを活用することで、人間関係の構築に役立つ効果があるのです。事例のように、管理職が部下から相談を持ち掛けられる時にアクティブリスニングを使えば、部下は上司に誠実さを感じるようになると思います。
マネジメント力が向上する
アクティブリスニングを活用すればマネジメント力が向上します。アクティブリスニングは単純な傾聴ではありません。言語と非言語のコミュニケーションを使い分けることで、相手の行動を前向きに動かすことができるのですが、相手は人間です。「こうやればうまくいく」というマニュアルはありません。個々の部下に応じて対応方法を変えなくてはならないので、マネジメント力が向上するのですね。
ファシリテーションスキルが向上する
アクティブリスニングを活用すればファシリテーションスキルが向上します。ファシリテーションスキルとは集団や会議の場面において、お互いの合意形成や納得性を担保することで組織の活性化や問題解決に繋げられるスキルのことです。山井課長の例では、前向きな行動を促す結果を生みました。
しかし、組織には色々な人材がいますよね。素直な人もいれば、勝ち気で上司にも強く自己主張する人もいます。どんな人材も束ねていくためには、アクティブリスニングの傾聴が必要です。アクティブリスニングを通じて組織が一体化するため、ファシリテーションスキルの向上に繋がるのです。
成果達成しやすくなる
アクティブリスニングによって部下の悩みや問題を傾聴することで、組織は活性化していきます。組織がまとまりやすくもなります。アクティブリスニングを通じて成果達成しやすくなるのです。
アクティブリスニングをトレーニングするには?
アクティブリスニングのトレーニング方法を紹介します。
自己主張を我慢して傾聴する
仕事のできる管理職ほど、自分の意見を言いたくなるものです。しかし、アクティブリスニングは傾聴です。自己主張を我慢して傾聴することを心掛けて下さい。最初は違和感があるかもしれませんが、我慢して傾聴し、バーバルコミュニケーションとノンバーバルコミュニケーションを実践することで、相手からの信頼を獲得できることが分かってくるでしょう。
会話の目的を明瞭にして聞く
アクティブリスニングのトレーニングでは、会話の目的を明瞭にして聞く訓練を積みましょう。「話の要点を繰り返し確認すること」を続ければ、目的が明らかとなります。
研修に参加する
日常業務におけるアクティブリスニングの実践を深めるためには、研修に参加することも有用です。研修に参加することの有用性は、研修転移という考え方が参考になります。『研修開発入門 「研修転移」の理論と実践』では、「研修で学んだことを企業の実践現場で活かし、成果を上げること」を研修転移と説明しています。
アクティブリスニングを学べる実践的な研修に参加することで、管理職の実務に活かすことができるのです。研修は実務と離れた場なので、「現場に戻りたい」と考える参加者もいるでしょう。しかし、人材開発担当者が参加者に研修の重要性と効果をしっかりと説くことで、研修転移も起きやすくなります。
管理職研修におけるアクティブリスニングの学習項目
管理職研修にアクティブリスニングを取り入れる時の学習項目を簡潔に説明します。外部講師による研修を委託する際の学習項目作成にも、役立つと思います。
会話の本質を掴むためのアクティブリスニング
研修では、アクティブリスニングの概要を講義する項目を入れて下さい。研修では、次に説明するように演習がメインである方が研修転移が起きやすいです。最低限のアクティブリスニングの理論だけは、外さないようにしましょう。理論的背景が分からずに、何となく演習の記憶だけでアクティブリスニングを実践してもうまくいかないからです。
顧客の信頼を得るためのアクティブリスニング
アクティブリスニングを管理職研修に取り入れる時は、演習がメインです。顧客の信頼を得るためのアクティブリスニングとして、「顧客が怒っている」「顧客が困っている」等の営業のシチュエーションを演習し、信頼を得るにはどうしたら良いかを学習します。顧客を傾聴するのは難しいため、実務でも活きてきます。
部下指導のためのアクティブリスニング
管理職には部下がいます。部下を想定したアクティブリスニングの演習が効果的です。本記事の山井課長の事例で述べたような部下指導のためのアクティブリスニングを演習に取り入れることで、すぐにでも使えるアクティブリスニングができます。
まとめ
アクティブリスニングの重要性は大きく、個人の悩みや問題を解決するだけでなく、組織活性化や集団の問題解決にも繋がるスキルです。管理職はアクティブリスニングを活用していきましょう。