「サーバントリーダーシップ」とは、ビジネスシーンにおけるリーダーシップ哲学の一つです。簡単に説明すると、「リーダーとしての力を発揮するには、まず相手に奉仕をするべき」という考え方が元になっています。今回はサーバントリーダーシップの意味や使い方、様々なタイプについて解説します。
サーバントリーダーシップとは
ここでは支配型リーダーシップとサーバントリーダーシップの違いや、サーバントリーダーシップを導入するメリット・デメリットについて説明していきます。
サーバントリーダーシップと支配型リーダーシップとの違い
サーバント(Servant)は「召使いや使用人」という意味の言葉です。これを受けて、サーバントリーダーシップは「相手に奉仕する形のリーダーシップ」という意味になっています。
一方の支配型リーダーシップは、チームやメンバーの先頭に立ち、影響力を駆使して周りを引っ張っていくスタイルのリーダーシップです。一般的にリーダーシップというと、こちらのスタイルをイメージする人が多いと思いますが、周りをぐいぐい引っ張っていくスタイルになる分、周りに与える義務感が大きくなるといったデメリットもあります。
サーバントリーダーシップを導入するメリット
チームやメンバーをマネジメントするために、サーバントリーダーシップを実践するメリットは以下のようなものです。
・一人一人にあった方法でコミュニケーション出来るのでモチベーションを引き出しやすい。
・やりたい事が明確だったり、仕事に対して意欲が強い人の話をしっかり聞いてあげられるため、上手くいけば大きな効果につながる可能性がある。
・相手のことをより深く知る機会にもつながり、今まで気がつく事が出来なかったメンバーの新しい側面などに気付いてあげられる可能性がある。
サーバントリーダーシップを導入するデメリット
一方のデメリットは以下のようなポイントです。
・それぞれの性格や考え方に合わせて一人一人と向き合う必要があり、リーダーにかかる労力が大きい。
・チーム全体の一体感などは、支配型リーダーシップに比べると弱くなる可能性もある。
・目標や指示を与えられて動くほうが合っている人にとっては効果が弱くなる。
サーバントリーダーシップの10の特性
サーバントリーダーシップの特性は、大きく以下の10個に分けることができます。
1. 傾聴
相手の話をしっかりと聞き、まずは相手の考えている事や望んでいることなどを理解するようにしましょう。特に最初は、話をたくさん引き出して、相手の考えや気持ちを理解することが大切なので、相手の意見を否定せずに、賛成・反対はひとまず抜きにして、相手の話を出来るだけ思い込みや先入観なしに聞くようにしましょう。
2. 共感
相手の気持ちや考えに共感できるように、出来るだけ相手の立場などを考慮することを意識しましょう。当然ですが、相手も自分の考えに共感してもらえていると感じられる方が、よりたくさんのことを話やすくなります。
3. 癒し
サーバントリーダーシップの特性の一つには「癒し」も含まれています。相手がネガティヴな気持ちやマイナスな感情を抱いている状態でコミュニケーションを取っても、その人のいい部分を引き出すのは難しいので、相手の状態を見ながらコミュニケーションをとるようにしましょう。
4. 気づき
相手の話を聞くだけではなく、相手から話を引き出しつつ、そこから相手と自分の両方に、新しい気づきを与えられるようにすることも意識しましょう。新しい発見や気づきは、次の行動につなげるためのタネになります。
5. 納得
相手に自然に納得してもらうことも、サーバントリーダーシップの大切な要素のひとつになっています。権威や服従で無理やり納得させずに、まずは上で紹介した1~4をしっかりと実践して、相手といい関係を築くことが重要です。
6. 概念化
相手の話をしっかり聞いて共感するだけではなく、相手のモチベーションが高まるような大きな夢などを伝えることも、大切なポイントのひとつになっています。
7. 先見力
現在の出来事や過去の出来事をベースにして、未来を予測する先見力も、サーバントリーダーシップを実践するために必要な要素のひとつです。相手の考えや気持ちに寄り添うだけでなく、その人がより満足して働けるようにアドバイスしたりサポートする必要があり、そのためには少し先の将来まで見通す力も必要になります。
8. 執事役
語源の「サーバント(Servant):召使いや使用人」からも分かるように、相手に利益を与えることに喜びを感じられる献身性は、サーバントリーダーシップを実践する際に、特に大切なポイントのひとつです。相手を成長させたり満足させることが、自分の満足にそのままつながるような考え方をすることが必要になります。
9. 人々の成長への関与
なんのためにサーバントリーダーシップを導入してマネジメントを行うかというと、チームメンバーが、仕事にやりがいや面白みを見出したり、仕事を通して成長できるようにするためです。仕事が面白ければより成長しやすくなりますし、成長することができれば、自信がついてさらに仕事が面白くなるなど、いい循環がうまれて成長スピードも早くなります。
10. コミュニティづくり
成長を促すためには、愛情と癒しに満ちたコミュニティづくりも大切になります。個人だけでなく、チームやコミュニティーをどうマネジメントしていくかも一緒に考える必要がでてきます。
サーバントリーダーシップとは? / NPO法人 日本サーバントリーダーシップ協会 より
サーバントリーダーシップの事例
実際にサーバントリーダーシップを導入して成功につながった事例を3つ紹介します。
資生堂
資生堂の社長を務めた池田守男さんは、サーバントリーダーシップを取り入れて業務改善にあたった有名な経営者の1人です。営業職やビューティーコンサルタントの会議に直接顔を出して、現場スタッフの声をしっかり聞くなど、そういった地道な行動を通してチームに奉仕し、組織の活性化と経営改善につなげたといわれれています。
スターバックス
コーヒーチェーン店のスターバックスもサーバントリーダーシップを実践している会社のひとつで、これまでに
「人がすべて」「私たちはコーヒーを売っているのではなく、コーヒーを提供しながら人を喜ばせるという仕事をしている」「すべての人に尽くす人間こそが最も有能なリーダーである」
という考えのもとで、サーバントリーダーシップを推進してきたとされています。
サーバントリーダーシップによるプロジェクトリーダーシップの強化より
P&Gジャパン
P&Gジャパンの、ボブ・マクドナルド元社長もサーバントリーダーシップを実践したひとりとされています。
「一番偉いのはお客さんで、その次に偉いのはお客さんとコミュニケーションを取る若い営業マン」「管理職は若い営業マンが高いモチベーションで仕事できるようにサポートするのが仕事で、管理職がいっぱいて、いばっているような会社はよくない」
などとこちらでコメントしています。
サーバントリーダーシップにまつわる本
最後にAmazonで星4つ以上の評価を得ているサーバントリーダーシップにまつわる本を3つ紹介します。
1. サーバントリーダーシップ 単行本(ロバート・K・グリーンリーフ)
1977年に発売された歴史のあるサーバントリーダーシップの本です。600ページ近くもある分厚い本ですが、星4.3と高評価(22件のレビュー)の人が多く、人気があります。
2. サーバントであれ — 奉仕して働く、リーダーの生き方
こちらは先ほどのサーバントリーダーシップと同じ著者の、ロバート・K・グリーンリーフが執筆した本です。ビジネスマンや管理職だけでなく、大学生や大学教員など幅広いにおすすめと評価されています。
3. 人を幸せにする生き方: 生きがいと喜びを見つけた32人のストーリー
こちらも19件のレビュー・星4.6と高評価の一冊で、Kindle版は0円で購入可能です。サーバントが大切にする10の考え方や、具体的なストーリーなどが掲載されているようです。
人を幸せにする生き方: 生きがいと喜びを見つけた32人のストーリー Kindle版より
まとめ
普段マネジメント業務にあたっている人は、サーバントリーダーシップの特性や考え方の中で、自分に不足しているものや新しく取り入れられるものがないか、これを機会に参考にしてみてください。
サーバントリーダーシップを実践した結果、それがすぐ直接的に売り上げにいい影響を与えることはなくても、メンバーとしっかりコミュニケーションを取ることで仕事が進めやすくなるなど、間接的な効果は少なからず期待できるはずです。