感情労働とは、感情のコントロールが必要とされる労働のこと。
最近、感情労働が注目されています。第三次産業の発展やSNSなどの発達に伴い、感情労働に携わる人が増加しています。
感情労働にはストレスがつきものです。そのため感情労働に携わる人にとっては潜在的なリスクが生じます。本稿ではリスクや対策についても解説していきます。
感情労働とは
肉体労働や頭脳労働に対して感情労働が注目されています。感情労働とは何か、感情労働が増えている理由について説明していきます。
感情労働とは何か
感情労働とは、感情のコントロールが必要とされる労働のことを言います。感情労働は、肉体労働・頭脳労働と並ぶ労働形態の1つです。例えばフレンチのレストランに行った時、接客スタッフはお客様に失礼がないように極めて丁寧に接客しています。こういった労働が感情労働ということです。その他、ホテルや金融、医療業界など多くの業界において、感情をコントロールすることが求められています。尚、感情労働は、アーリー・R・ホックシールドという社会学者によって提唱された概念です。
感情労働が増えている理由
感情労働が増えている理由はいくつかあります。サービス産業が増えたことが大きな要因です。サービス産業(第三次産業)の割合は67%に近くにまで上昇しています。サービス産業は対人対応を行いますので、それらに従事する労働者が増える分だけ感情労働が増えている訳ですね。
また、最近はSNSやTwitterが発達したことで、消費者がダイレクトにお店や企業に対するコメントを発することができるようになったのも大きいですね。企業は、消費者のネット上のアクションに過敏にならざるを得ず、それゆえに感情労働が増えています。
感情労働がもとめられる職種
次に感情労働が求められる職種について具体的に見ていくことにしましょう。
飲食店などの接客業
飲食店などの接客業は、お客様に飲食物を提供するだけでなく、お店にいる時間を楽しく過ごしてもらうことが求められます。そのため、感情をコントロールして接客する必要があります。接客は、レストランと居酒屋では対応方法が異なります。レストランなら感情を抑制すべきですが、居酒屋なら節度を保ちつつも元気の良さが求められます。働く場に応じて感情をコントロールしていく必要がある訳ですね。
カウンセラー
カウンセラーは心に悩みを抱えた人に対して、心理学的にアドバイスをする仕事です。相手が自分の悩みを打ち明けられるよう、カウンセラーは安心感を付与します。そのためには、カウンセラーは感情をコントロールします。また、相手は真剣に悩んでいますので、恣意的に感情をゆさぶらないよう冷静に言葉を選んで対応する必要があるでしょう。
教師
教師は、生徒が生きていく上で必要な知識・教養や社会性、倫理観などを教えます。教師の教えを生徒が理解するためには、教師への信頼がなければなりません。教師の存在に価値を見出してこそ、生徒は教師の教えから学び習熟していきます。教師が生徒から信頼を得るには教師が感情をコントロールできなければなりません。
看護師
看護師は医師と共に患者の命を救います。看護師が自分の感情を抑えることができないでいたらどうなるでしょうか。例えば、「患者Aは気に入らないから点滴を与えるのが面倒くさい」と思って行動したら、患者の命に関わりますね。ですから、看護師にとって感情をコントロールすることは重要なポイントとなります。
介護士
介護士は介護される人の世話をする立場であり、感情をコントロールする必要があります。看護師同様、介護士のさじ加減で命に危険が及ぶこともあり得ます。介護される人は老人であることが多いので、介護士の言っていることを理解できないこともあるでしょう。そんな時にいちいち怒っていたら介護される人は介護士におびえてしまいます。また、怒りの感情に任せて暴力を振るうことにもなりかねません。
コールセンター
コールセンターには顧客からのクレームの電話が入ることがあります。クレームの電話を受けた担当者にはストレスがかかります。しかし、そこでストレスに負けてしまって逃げていては仕事になりません。コールセンターで働く人は、ストレスに耐え得る安定した心理状態にいる必要があります。コールセンターの仕事が、感情労働の仕事である必要があるゆえんですね。
客室乗務員
客室乗務員は華やかな仕事ですが、乗客の安全を守る職業でもあります。不測の事態に備えて感情を抑制しておかなければなりません。また、客室乗務員は、日常の仕事の中でも乗客をもてなすために品格を保っておく必要があります。そのため、客室乗務員は感情をコントロールする必要があります。
感情労働者がさらされるリスクや問題点
感情労働者は感情をコントロールすることを求められます。感情をコントロールするゆえに、彼ら彼女らがさらされるリスク・問題点について解説していきます。
悪質なクレーマーへの対応
ホテルのスタッフ、レストランの給仕、客室乗務員など、感情労働に携わる人(感情労働者)は、顧客への対応力が求められるでしょう。時には、クレーマーに対応することも求められます。
注意したいのは、クレーマーには悪質なクレーマーもいるということです。悪質なクレーマーは、カスタマーハラスメントとも呼ばれる過度な迷惑行為や、時には暴力行為に移ることもあります。危険にさらされるのは現場の感情労働者です。悪質なクレーマーから感情労働者を守る必要があります。
燃え尽きてしまい、仕事に対してのやる気を失う
感情労働者には、顧客に対して過剰に丁寧なサービスを施すことを求められることもあります。おもてなしやサービスの考え方は、顧客にとっては快適です。でも、サービスを過剰に提供することは、感情労働者が燃え尽きてしまい、仕事へのやる気を失うことにもなりかねません。
精力的に仕事に臨んでいた人でも、ある日突然無気力な状態に陥ってしまうことがあります。それをバーンアウト(燃え尽き)と言います。感情労働者は常に感情をコントロールしているので燃え尽きやすいリスクにさらされているんですね。バーンアウトしてしまうと、うつ病に罹ったり離職したりします。バーンアウトにならないように、ストレスに対しては早めに手を打つ必要があります。
ストレスが原因で身体や精神を壊す
感情労働者が1人で顧客に対応していると強いストレスがかかり、心身を壊してしまうこともあり得ます。特に、顧客が悪質なクレーマーだったり、接客態度に細かい人だったりすると、感情労働者にとって強いストレスがかかります。そして、感情を発散したい時に抑制しなければならないことは、心身を破壊するリスクを抱えていることになります。
感情労働問題への対策
感情労働者はストレスが原因でリスクにさらされることが分かりました。ここからは、問題への対策を見ていくことにしましょう。
業務内容の見直しと整理
1人に対して業務の負荷が偏り過ぎないよう、個々の従業員の業務内容を洗い出し、負荷が掛っていれば見直すようにします。
労働環境の見直しと整理
労働環境が悪いとストレスの原因になり得ます。従って、個々の従業員の労働環境をチェックし、他の人のサポートが得られない労働環境は見直すことが必要です。
従業員のストレス状況などをチェックできる仕組みを用意する
感情労働者を抱える企業は、ストレスチェックを使って従業員のストレス状況をチェックできる仕組みを用意しましょう。従業員もストレスチェックによって自分のストレスに対する耐性を知ることができるので有用ですね。
自分に合ったストレス解消法を用意する
ストレスにさらされがちな感情労働者は、自分なりのストレス解消法を用意しておくと良いでしょう。そして、仕事がオフの日は、自分の好きなことに没頭したり人と会ったりして、ストレスを解消していきましょう。
レジリエンスを鍛える
レジリエンスとは逆境・困難に直面した時に立ち向かい、回復していける力のことを言います。感情を常にコントロールすることを求められている感情労働者だからこそレジリエンスの考え方が有用です。
まとめ
肉体労働・頭脳労働と共に感情労働という労働形態があることが分かりました。サービス業の増加に伴い、感情労働に携わる人が増えているのも事実。
感情労働者はストレスにさらされやすいので、何もしないと感情労働者はうつ病になったり離職したりするリスクがあります。
そうならないように、感情労働者を雇用する企業には対策を立てることが求められています。