終身雇用とは
終身雇用とは企業が労働者を入社から定年まで雇用し続けることをいい、終身雇用制度と呼ばれます。日本企業に特有の人事制度と言われますが、歴史や海外の終身雇用の事情、そして終身雇用の崩壊について解説します。
終身雇用制度の歴史と年功序列との関係
終身雇用制度の歴史は、戦前・戦中にも原型がありましたが本格的には第二次大戦後にさかのぼります。戦後(1945年以降)、米GHQの主導で財閥企業が解体・再編され、また、労働三法(労働組合法、労働関係調整法、労働基準法)も制定。労働者の労働環境が整備されてきました。
1950年代以降の高度経済成長期の推移と共に、年功序列型の賃金制度が主流を占めるようになり、終身雇用制度は日本企業に定着していきます。また、労働契約法には解雇権濫用の法理があり、解雇は、客観的にみて合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、企業が解雇権を乱用したものとして無効となることになっています。
終身雇用の崩壊
トヨタ自動車の豊田章男社長が「終身雇用を維持することが難しくなってきた」と語ったことに象徴されるように、日本企業の終身雇用は崩壊の域に入っています。しかし終身雇用の実態を調査してみると、今になって初めて終身雇用が崩壊の域に入った訳ではありませんでした。
実態は、日本企業の終身雇用とは大企業に特有の人事制度であって、中堅・中小企業は終身雇用制度を採用しているとは言い難いのが現状です。厚生労働省が公表した平成30年度「賃金構造基本統計調査」によると、労働者数1,000人以上の大企業の男性社員55~59歳の勤続年数が28年であるのに対し、中堅企業では21.6年、小企業になると20年を割り込んでいます。また、女性社員では大企業でも勤続年数が20年を割り込んでおり、規模が小さくなるごとに勤続年数が短くなっています。
終身雇用は海外ではどうなのか
海外、特に欧米の労働市場は、日本と異なって転職することが一般的です。転職が一般的なので、海外(欧米)では終身雇用制度は根付いていません。1つの企業に入社して定年まで勤続し続けるよりは、より良い条件を目指して転職してキャリアアップを重ねていきます。日本企業はゼネラリストを育成しようとしますが、海外(欧米)の人材の目指すべき方向性はプロフェッショナルな人材です。
終身雇用のメリット・デメリット
終身雇用のメリット・デメリットについて解説します。
終身雇用のメリット
終身雇用のメリットは以下の2つに分けられます。
- 労働者の生活が安定する
- 長期的視点で人材を育成できる
まず、(1)の「労働者の生活が安定する」から解説します。終身雇用制度は、日本企業の雇用慣行であると同時に労働契約法の「解雇権濫用の法理」にも支えられた労働者保護の制度でもあります。従って、労働者は企業側の好き嫌いによって解雇されることはありません。そのため、労働者は定年まで働くことができるので生活が安定します。
次に(2)の「長期的視点で人材を育成できる」ですが、定年まで労働者を雇用し続けるということは、企業が労働者を育成する際にも長期的視点をもって育てることができます。教育には費用がかかりますから、終身雇用の方が企業にとっては教育投資を回収しやすいと言えるでしょう。定年まで勤続したいと考える労働者にとっても、自らの長いキャリアの要所で階層別の人材育成の機会があった方が自分にとってプラスになります。
終身雇用のデメリット
次に終身雇用のデメリットを解説します。
- 解雇がしにくくなる
- 労働者の士気が下がる
(1)の「解雇がしにくくなる」は、一旦正社員として雇用された労働者を、企業が解雇権濫用の法理のために容易に解雇できないということです。景気が悪くなり不況になっても、企業は労働者を簡単には解雇できません。たとえ人事評価が低い労働者であっても解雇するのではなく、企業は、人事評価を高めるための施策を採る必要がある訳です。そのために、人件費が膨れ上がる中で企業は経営をすることになります。
(2)の「労働者のモティベーションが下がる」は、評価が低い労働者であっても解雇されないので、真面目に働いている労働者のモティベーションが低下するということです。
外資系企業の特徴
続いて、終身雇用制度がない外資系企業で働くメリット・デメリットを解説していきます。
外資系企業で働くメリット
欧米の外資系企業には「解雇権濫用の法理」という労働者保護の仕組みは法制化されていませんので、景気が悪くなれば企業から解雇される可能性があります。しかし外資系企業において労働者が転職することはメジャーであり、むしろ良い待遇を求めて転職することは、労働者・企業間において共通の価値観となっています。ですから、企業は労働市場から優秀な人材を採用し、労働者は転職を通じてステップアップできるメリットがあります。
外資系企業で働くデメリット
外資系企業で働くデメリットとしては、終身雇用ではないので日本企業よりも解雇されやすい点です。人事評価が高かったとしても、景気が悪くなれば解雇される可能性はあります。労働者保護の観点で法制化されている日本企業とは大きく違います。解雇によって転職できれば良いですが、できない場合は将来設計が大きく狂うこともあり得ます。
終身雇用の崩壊に備えて
終身雇用は、一部の大企業の男性社員に特有であることを前述しました。いずれ終身雇用は崩壊する可能性がありますが、来るべき崩壊に備えて対策を練っておきたいところです。3つの視点で終身雇用の崩壊にそなえたリスク回避策を紹介します。
長期的な視点で生活やキャリアプランの見直しを行う
企業に定年まで終身雇用される時代であれば、労働者は自らの生活やキャリアプランについて思い悩むこともありませんでした。しかし終身雇用の崩壊に備えるためには、自身の生活の安定やどんなキャリアを描いていきたいかについて、しっかりと考えておかなければなりません。
生活については後述しますが、キャリアプランについては「自分のスキルの強み」を認識した上でスキルを磨いていくことがキャリアアップに繋がります。終身雇用が崩壊すれば、企業が労働者のために手厚く人材開発してくれるとは限りません。成長するために、自分でキャリアプランを描いて成長していく必要があります。そのためには自分で考えたり他者からフィードバックを受けたりして、自分のスキルの強みをしっかり認識しておきましょう。
資産運用などで蓄えをつくっておく
労働者が働いて稼ぐ収入には限界があります。しかし、終身雇用の崩壊が訪れれば、ある日突然、会社から「来なくて良い」と言われることがあるかもしれません。そうならないように、日頃から金融の知識をつけておき資産運用を行うと良いです。資産運用を通じて、生活の安定を図ります。少額から始められる投資やリスクを分散できる投資信託など、資産運用のビギナーでも始められる金融商品がありますので、始めやすいところから手をつけていくと資産運用が軌道に乗るでしょう。
副業などでスキルアップを図る
生活の安定とキャリアプランの両方に関わることですが、副業を通じてスキルアップを図ることも終身雇用の崩壊に備えることになります。クラウドソーシングサービスを2つ紹介しますので参考にしてみて下さい。クラウドソーシングサービスは、基本的には受注・納品・支払いまでネットで完結し、現在ランサーズとクラウドワークスの2強があります。
ランサーズ
ランサーズは、「採用やめよう」のCMでおなじみのクラウドソーシングサービスです。ライティングや軽作業の他にプログラミングまで多様な仕事があります。ランサーズ株式会社が運営しています。子会社にパラフトがあります。
クラウドワークス
クラウドワークスはクラウドソーシングサービスで、マザーズ上場の株式会社クラウドワークスが運営。ランサーズ同様にライティング、軽作業、プログラミングなど多様な仕事があります。ビズアシ、ブレーンパートナーなどがグループ企業です。
より成長できる職場に転職を検討する
終身雇用の崩壊に備えるためには、労働者のキャリアアップおよびスキルアップが重要な観点となります。現在働いている職場でキャリア・スキルアップが望めないようであれば、より成長できる職場への転職も考えたいところです。転職を検討するなら、労働市場で自分の価値を高めるために特定の業種・職種・時代背景に捉われないポータブルスキルを磨いておくと良いです。ポータブルスキルについてはもう少し詳しく説明します。
ポータブルスキルとは
ポータブルスキルは、特定の業種・職種・時代背景に捉われない能力のことを言います。ポータブルスキルの構成要素、ポータブルスキルを育成するためのポイントについて解説します。
ポータブルスキルの構成要素
ポータブルスキルの構成要素は、「専門知識・技術」「仕事の仕方(対課題)」「人との関わり方(対人)」の3つに分かれています(人材サービス産業協議会より)。
ポータブルスキルを育成するためのポイント
キャリアコンサルタントの末永雄大氏によると、ポータブルスキルを育成するためのポイントは「定義づけ」です。自分にはどんなスキルが必要か、ポータブルスキルはどんな仕事・経験から得られるのかを定義しておきます。そうすることで、労働者が自らの市場価値を知ることができるようになる訳ですね。
まとめ
終身雇用は日本企業に特有の雇用慣行です。労働契約法がある限り経営者による無暗な解雇はできませんが、トヨタ自動車の豊田章男社長が言及したように、終身雇用制度はいずれ崩壊に面する可能性がある制度です。記事では終身雇用の崩壊に備える方法、ポータブルスキルなどについても記述しました。「自分の会社は安泰だ」と終身雇用の崩壊を軽視することなく、キャリア・スキルアップに余念なく取り組んで頂きたいと思います。