代表的な給与体系の一つである「年俸制」は、年間の給与支給額から月額給与を決定するのが最大の特徴です。
この記事では年棒制の仕組みや月給制との違い、そして年棒制での残業代やボーナスの扱いなどについて説明していきます。
年棒制を導入するメリット・デメリットなども整理していきますので、制度導入を考えている労務担当者の人も知識として知っておきましょう。
そもそも年俸制とは
年棒制とは、1ヵ月単位で給与の金額を決めるのではなく、1年単位で給与の支払い額を算出する給与体系のことです。
プロ野球選手の給与体系というイメージが強いかもしれませんが、一般企業で働くサラリーマンの給与も年棒制で支給されるケースがあります。
ただし、1年に1回まとめて給与を支払われるわけではなく、1年間に支払う給与の総額を月ごとに分割して支払う形になっています。
必ずしも12分割で支給されるわけではないため、会社によっては14分割して毎月の給与を支払い、残りの2ヶ月分は賞与として支給する場合などもあるようです。
年俸制は月給制と比べて得なのか
年俸制・月給制どちらが良いかはケースバイケース。
年棒制は得することもあれば、損することもあるというのが答えです。
業績が安定していれば1年間は変動しませんが、業績が悪化すると1年間の給与がガクッと下がってしまうこともあります。たとえ途中で業績回復しても給与を変更できないためです。
給与体系で決まるというよりも、会社のスタンスやその年の業績などによっても変わってくると思っておいたほうが良いでしょう。
年俸制を導入している企業の割合
厚生労働省が発表した平成26年のデータによると、年俸制を導入している企業の割合は全体の9.5パーセント程となっています( 平成22年の段階では13.4 パーセント )。
※ちなみに平成26年の段階だと、月給は94%、時間給は21.7%、日給は16.2%となっています。
参照: 厚生労働省( 平成26年就労条件総合調査結果の概況 )
年俸制と月給制の違い
年俸制と月給制の違いは、1年間に支払われる給与の金額が固定されているかどうかという点です。年棒制の場合、支払われる給与の金額は変動しませんが、月給制の場合は、その年の業績などにより、支給されるボーナスの金額が変わったりすることもあるため、支払われる給与の合計金額が変わってきたりします。
年俸制の場合でも昇給は可能か
年棒制の場合、その年に支給される給与の金額は変わらないので、すぐに昇給するということはありません。
基本的に毎年ごとに給与の見直しが行われるようになっているので、そのタイミングで昇給する可能性はあります。ちなみに年棒制は成果主義型賃金制度の典型例とも言われているようです。
ただ自分がどれだけがんばっても、会社全体の業績が悪かったり、給与の査定を行う上司との相性が悪かったりすると、そこまで大きく昇給しない可能性もあるので注意しましょう。
年俸制を導入するメリット
年棒制のメリットを一言で表すと、月給制よりも給与計算が簡単なことです。
人事・労務・経理担当者の目線からだと給与処理に関してはメリットが多いです。
- 成果に応じた金額の賃金を支払えるため、仕事をサボる人を減らすことができる
- 評価制度などをしっかりと整備すれば、意欲が高い人のモチベーションをさらに上げられる
- 年棒額に残業代を含むことができる場合もある
年俸制を導入するデメリット
年俸制を導入するデメリットとは、端的に言えば変化の幅が大きいことです。
評価や昇級のタイミングが年に一度しかないため、会社が業績不振などになると多大な打撃を受けてしまいます。
- 成果を出した社員を正当に評価するために、会社としてもよりシビアに業績を追求する必要がある
- その年の業績が悪かった場合でも、支払う給与の金額を原則変えることができない
- 協調性が高かったり、サポート役として力を発揮するような社員を評価しにくい
年俸制の場合の賞与(ボーナス)
上でも紹介したように、年棒制の場合でも、しっかりとボーナスを支給してくれる会社はあります。
例えば1年間の給与の総支給額が800万円で、毎月16分割して給与を支払う場合、毎月の給与は800÷16で50万円になります。
そして1年間は12ヶ月なので、総支給額の800万円から、50×12ヶ月分の600万円を引いた200万円を2回などに分けてボーナスとして支給することになります。
ただし上で紹介した例は、あくまでも一例で、会社によってはボーナスがなく、1年間の給与の総支給額を単純に12分割して毎月支払うような会社もあるようです。
年俸制でボーナスがある場合
年俸制でボーナスがある場合、上で紹介したように1年間の総支給額を14や16分割して支給するパターンの他にも、業績に応じた分のボーナスを年棒とは別に支給するパターンなどがあるようです。
年俸制でボーナスがない場合
上でも紹介したように、年棒制の場合、基本的にはボーナスがなく、決められた年棒にボーナスが含まれているパターンが多いようです。
年棒制の会社の試験を受ける場合は、どのような給与形態になっているのか、事前にしっかりと確認するようにしましょう。
年俸制の場合、残業代はどうなるのか
この項目では、年棒制の残業代や、管理職の場合の扱いなどについて紹介していきます。
年俸制でも残業代は出る?
基本的に年棒制でも残業代はしっかりと支給しなければいけないルールになっています。
例外的には年棒額に残業代を含むことができる場合もあるようなので(固定残業代・みなし残業代として)、自分の会社の残業代の計算方法に関しては入社する前にしっかりと確認しておくようにしましょう。
管理職の場合はどうなるのか
中には「管理職には残業代を支払わない」としている会社も中にはありますが、法律的にはかなりグレーなラインです。
労働基準法上の「管理監督者」に該当する場合、労働基準法上は残業代を支払わなくてもいいことになっていますが、課長だから管理職、店長だから管理職というのは、会社が勝手に決めたルールでしかありません。
つまり会社が与えた役職は、あくまでも会社のルール上の話であって、労働基準法上は「管理監督者」には該当していない場合があります。管理職として仕事をしていても、残業代がもらえることになるのです。
参考:ベリーベスト法律事務所
残業代の計算方法
残業代の計算方法は会社によっても異なりますが、大きくは、法定内残業と法定時間外労働の2つを計算するかたちになります。
法定時間外労働分の給料は、「1時間あたりの賃金」×「1.25」で計算することになっている。(1ヶ月の時間外労働が60時間を超えた場合は1.5倍で計算されることも。)
法定内残業分の給料は、残業時間数に就業規則で定められている単価をかけて計算します。
年俸制の場合、退職金はどうなるのか
ボーナスや残業代だけでなく、年棒制の場合の退職金についても確認しておきましょう。
退職金も会社によりけり
結論からいうと、退職金の支払いに関しても、入社する会社によって変わってくるというのが答えです。
年棒制へ移行すると同時に退職金を廃止した会社などがあったり、しっかりと支給される会社もあったりと様々です。
法律上、会社は退職金などを支払う義務はないようですが、就業規則に記載がある場合は、契約上の義務が発生するといわれています。
年俸制の場合は税金にも注意しよう
最後は年棒制の場合の税金の扱いについて解説します。
年棒制の場合、税金は高くなるのか?
結論からいうと、年棒制でも月給制でも、年間の総支給額が変わらない限り税金の額も変わりません。
また14分割や16分割など、会社によって支払い方法や計算方法などが変わったりもしますが、どちらの場合でも負担する金額は変わりません。
年俸制の仕組みをきちんと理解しておこう
年俸制は会社・労働者にとってメリット・デメリットの両方があることが分かりました。
年俸制が制度として優れているかで判断するのではなく、入社を検討している会社の成長性・将来性などを軸に評価するほうが正しいでしょう。
給与については入社後のトラブルを防ぐためにも事前にしっかりと確認してくださいね。