「生産性」はどの分野においても使える言葉ですが、ビジネスシーンでは主に「労働力の生産性」について語られることが多いです。
すなわち「どれだけ効率的に働けるか」を指します。今回はビジネスの世界における生産性の上げ方や施策について詳しく解説します。
生産性とは何か。わかりやすくいうと?
ここでは、そもそも生産性とはどういう意味なのか、日本の労働生産性は世界と比較して高いのかどうかなどについて整理していきます。
生産性の意味
生産性は「生産力の度合い」を表す言葉で、「生産性が高い・低い」というような使い方をします。例えば1時間かけて50個のりんごの皮むきをする場合と、1時間かけて100個のりんごの皮むきをする場合では、後者のほうが生産力が高いことになります。
つまりより簡単にいうと、生産性は「同じ時間やお金などのコストに対して、どれくらいの価値を生み出せるか」ということで、「かける費用や時間などを出来るだけおさえつつ、同時にその中で最大限の効果が得られるように工夫する」という考えが、生産性を考える際の大切なベースになっています。
生産性の計算式
生産性を計算する際は「 アウトプット(生産量などの成果 ) ÷ インプット ( 成果を出すためにかけた時間やお金 )」で求めることが出来ます。例えば2時間で200個のクッキーをつくる際の生産性は100、1時間で200個のクッキーをつくる際の生産性は200となり、後者の方が生産性は高くなります。
労働生産性とは
労働生産性は「従業員一人当たりの付加価値」を算出する際に利用される指標です。同じような指標に「人時生産性」というものがありますが、こちらは「従業員1人が1時間あたりに生み出す付加価値」を算出する指標となっていて、後者の指標の方が、よりシビアに生産性をジャッジする仕組みになっています。
日本の労働生産性は?世界との比較
ちなみに日本の労働生産性は、世界と比較しても、決して高いとはいえないのが現状です。ちなみに2018年版の公益財団法人 日本生産性本部の調査によると、日本の労働生産性はそれぞれ以下のような結果になったそうです。
・日本の時間当たりの労働生産性は47.5ドル(OECD加盟国36カ国中で20位)
・日本の一人当たりの労働生産性は84,072ドル(OECD加盟国36カ国中で21位)
公益財団法人 日本生産性本部:
https://www.jpc-net.jp/intl_comparison/ より
生産性を向上させために重要なポイント
この項目では生産性の向上と業務効率化の違いや、生産性を向上させために重要なポイントについて説明していきます。
生産性の向上と業務効率化の違い
生産性向上は「出来るだけ少ないコストで、最大限の効果を発揮できるように工夫すること」で、業務効率化は「コストの無駄を省くために工夫すること」です。つまり、業務効率化は生産性向上を達成するための一つの手段でもあり、業務の効率化を目的にしても意味がありません。何のために業務の効率化を行うか、しっかりと目的を設定した上で行うように注意しましょう。
まずは現状をしっかり把握する事から
業務の効率化を行い、生産性向上を達成するためには、まずは現状をしっかり把握することから始めないといけません。ここがしっかり出来ないと、そもそも本当に改善すべきなのかどうかも判断できませんし、改善した場合に、どれくらいのインパクトがあるかも判断できません。現状把握は、手を抜かずに、しっかりと取り組むようにしましょう。
労働生産性を向上させるには
労働生産性を向上させる方法はひとつだけではなく、たくさんの方法があります。ここでは労働生産性を向上させる方法として4つの方法をピックアップし、それぞれの特徴について説明していきます。
1. IT技術を有効活用する
まず一つ目は、IT技術を有効活用する方法です。社内のコミュニケーションツールを、メールからチャットに移行したり、新しいWEBサービスを導入して、これまで手作業で行っていた仕事を自動化して対応するなど、様々な方法があります。現状を整理した結果、改善した際のインパクトが大きい場合や、そこまでコストが発生しない場合などは、積極的に活用していくほうがいいでしょう。
ただ、効率化の場合と同じで、IT技術の導入それ自体が目的になってしまうと意味がなく、導入して空いた時間を何に使うのか事前に考えておくことが重要なので注意しましょう。
2. 労働環境の見直しと整備
従業が働きやすくなるように、労働環境を整備することも労働生産性の向上につながります。残業が多く発生している原因がわかるような仕組みを構築したり、女性が育児しながらでも仕事をできるように在宅勤務を許可するなど、労働環境をどう整備するかによって、働き方も大きく変わってきます。
例えばリモート勤務制度の導入などは、抵抗を感じる会社も多いかもしれませんが、極論、それで会社の業績や生産性があがるのであれば拒否する理由はありません。これまでの働き方や常識にとらわれず、労働生産性を高めるにはどうすればいいかゼロベースで考え、環境を整備していきましょう。
3. 従業員のやりがいや満足度の向上
2のポイントに少し関連しますが、従業員が仕事に対してしっかりとやりがいを感じられる環境を用意することも大切です。どんなに頑張ってもそれが給与に反映されなければ、当然人は頑張るモチベーションが湧きませんし、どうやって手を抜くか考えてしまうようになりますから、当然やりがいや満足度は小さくなります。
後は給料だけではなく、やりたい仕事内容や部署移動などの希望を尊重するなど、本人の希望を踏まえて人員配置することも大切です。出来るだけ働く人が主体的に仕事できる環境のほうが、当然パフォーマンスはUPするので、そういった仕組みや環境を整備するべきです。
4. お客さんのニーズにしっかりと向き合う
従業員や労働環境だけでなく、お客さんが何を求めているのか、そして自分たちが提供しているものとお客さんのニーズにずれはないかなど、定期的に見直すことも大切です。お客さんのニーズとしっかりと向き合うことによって、サービスを提供する方法などに関して、新しい発見ができる可能性もあります。
あと企業である以上、最終的には、売り上げをUPさせることも考えなくてはいけません。お客さんのニーズからずれたことをしていたり、何のために生産性をあげようとしているのか見えにくくなると、その分だけ無駄が多く発生して、結局損をしてしまい生産性も低くなります。
労働生産性の向上につながった事例
最後に、実際に労働生産性の向上につながった企業の事例を5つ紹介します。大手企業から中小企業まで様々な事例を紹介しますので、自社に応用できるポイントはないか参考にしてみてください。
事例1:京都府 京の宿 綿善旅館(従業員数35名、創業187年の料理が自慢の老舗旅館)
・客室係とフロントの間のコミュニケーションに、タブレット端末とLINEを導入し、スムーズな業務連絡を実現(導入以前は客室係がフロントまで階段をつかって往復していた)。→ 結果2%(146時間/年)の労働時間削減に成功。
・スキルマップを作成して従業員の保有スキルを可視化。それをもとに人手不足を補うために、一人三役化を進めて繁忙時の応援体制を構築。(以前までは特定の人だけに業務が集中していてうまく仕事が回っていなかった。)→ 結果14%(310時間/年)の労働時間削減に成功。
京都府 京の宿 綿善旅館の事例より抜粋
事例2:居酒屋「秋田乃瀧」(秋田市内にある個人経営の居酒屋)
・注文票の結果をパソコンに入力してデータを分析した結果、顧客の半数以上が県外からの非常連客だとわかった。そこから郷土料理が目立つようにメニュー表の見直しを行ったところ、一人当たりのフードの注文金額が23パーセントUPした(1695円→2081円)。
居酒屋「秋田乃瀧」の事例より抜粋
事例3:三井住友海上
・働き方改革の推進やロボットによる業務の自動化によって、生産性向上を実現
→ 退社時間宣言ツールの導入や1800名以上が在宅勤務制度を利用。
→ AIやロボットによる業務効率化で約1200時間/月の労働時間削減に成功。
三井住友海上の事例より抜粋
事例4:株式会社KMユナイテッド (2013年創立、従業員数33名の塗装会社)
・全員正社員、週休2日制、短時間勤務可能などの制度を導入。
・水性塗料と先端機器の導入によって3倍近く作業効率がUP(休日・夜間出勤などが減少)し、結果60パーセントのコストカットにもつながった。
株式会社KMユナイテッドより抜粋
事例5:株式会社さえき(スーパーマーケット)
・ バックヤード商品の停滞をなくすために、商品を種類ごとに分けて整理したり、売り場にストック棚を追加した結果、生産性が5%UPした(150時間/年)
・ キャベツなどのカット方法をまとめ加工から一個ずつの加工に変更。結果年間あたり20時間の削減に成功した。
まとめ
生産性を向上させる際に大切なことは、生産性を改善する目的などを、しっかりと明確にすることです。目的がないまま効率化をはかっても意味がないので「残業時間を減らして社員のワークライフバランスを保つために生産性をUPさせる」「空いた時間をつかって新しい取り組みにチャレンジする」など、事前に目的をもったうえで取り組むようにしましょう。