固定残業代とは?導入する際のメリットと注意するべきリスク

固定残業代の記事

固定残業代とは何か?企業側、従業員側にとってのメリットやデメリット、そして企業が固定残業代を導入する時のリスクなどについて解説していきます。

目次

固定残業代とは?

固定残業代とは?
固定残業代とはみなし残業代とも言い、毎月ある時間の残業をしたものとみなして、固定の残業代が支払われる賃金形態のことです。

固定残業代含む?通常の残業代との違いは?

通常の残業代は、例えば30時間の通常残業を行った場合に、30時間分の残業代が支払われます。固定残業代は、一定の通常残業・休日労働・深夜労働などを見込んで、固定の残業代が支払われる賃金形態を言います。固定残業代には、基本給に組み込んで支払う形態と、基本給に上乗せして支払う形態とがあります。

みなし残業代とみなし労働時間制

固定残業代はみなし残業代とも呼ばれるもので、固定残業代を言い換えたものです。一方、みなし労働時間制は名称が似ていますが、固定残業代(みなし残業代)とは似て非なるものです。

固定残業代(みなし残業代)の場合、一定の時間外労働(通常残業20時間、休日労働5時間、深夜労働3時間など)を見越して、残業代を支払います。しかしこれを超える時間外労働をした場合は、企業はその分の残業代を支払わなくてはなりません。それに反してみなし労働時間制は、みなし時間が賃金支払いの対象ですから、残業代は一律で構いません。賃金を支払う企業側としては、固定残業代(みなし残業代)かみなし労働時間制かによって、支払うべき残業代に違いが出てきますので注意が必要です。

固定残業代制度が導入されるようになった背景

企業が賃金制度に固定残業代を導入するようになった背景には、日本経済の鈍化、年功序列制度の崩壊などが挙げられます。右肩上がりに企業が成長しなくなったので、企業は従業員に対して時間に対する報酬ではなく、成果に対して報酬を与えるように、賃金制度を変えるようシフトしていったんですね。そういう背景があって固定残業代を賃金制度に導入するようになりました。

固定残業代について厚生労働省が出した通達とは?

固定残業代を巡っては裁判も発生しています。従業員にとって不利益にならないよう、判例も出ました。これに基づき、厚生労働省が以下の通達を出しています(2017年7月)。

・固定残業代を支払う場合、基本給など通常の労働時間の賃金に値する部分と、割増賃金(つまり固定残業代)とを明確に区別すること

・固定残業代が実際の時間外労働をした場合よりも下回る場合は、超過分を支払うこと

以上、時間外労働等に対する割増賃金の解釈についてでした。これから固定残業代を賃金制度に組み込む企業は、以上の通達をしっかりと意識して運用することを意識して下さい。

企業が固定残業代を導入するメリット

企業が固定残業代を導入するメリット
企業が固定残業代を導入するメリットの紹介や注意点を解説します。

人件費を把握しやすくなる

企業が固定残業代を導入すると、人件費を把握しやすくなります。通達で見たように超過分の残業代は払わなければなりませんが、固定残業代を導入する時は平均的な残業時間を見計らってから導入しますから、固定残業代との乖離は起こりにくくできます。従って、固定残業代を導入すれば企業としては人件費を把握しやすくなるので、経営がしやすくなります。特に会計上、人件費の割合が大きい企業にはメリットが大きいと言えますよ。

労働生産性の向上につながりやすい

固定残業代を導入すれば、残業してもしなくても残業代が発生します。これにより、従業員にはできるだけ早く仕事を終わらせて帰宅しよう、というインセンティブが働きます。すなわち、企業にとっては労働生産性の向上を狙うことができるんです。

固定残業代制度を導入する場合、就業規則の変更も必要

固定残業代制度を導入する場合、就業規則を変更しなければなりません。就業規則には、固定残業代は具体的にどのくらいの時間外労働となるのかを明記すること、また、固定残業代を超過する部分の残業代を支払う旨を、しっかりと記載して下さい。なお就業規則を変えるということは労働基準監督署への提出も必要となりますので、忘れずに提出して下さい。

従業員にとっての固定残業代のメリット・デメリット

従業員にとっての固定残業代のメリット・デメリット
固定残業代を設定することによる従業員のメリット・デメリットを見ていきましょう。

従業員にとってのメリットは?

従業員にとって固定残業代のメリットは、早く仕事を終わらせれば終わらせるだけ得をするということ。通常残業が30時間、休日出勤が8時間の固定残業代を設定している企業の場合、残業が0でも、通常残業30時間・休日出勤8時間でも、従業員がもらえる給料は同じ。ということは、できるだけ早く仕事を終わらせて、毎日定時で帰れば得するような仕組みです。浮いた時間を家族サービスに使ったり、資格取得や副業に使ったりすることも可能です。

従業員にとってのデメリットは?

逆に従業員にとってのデメリットにはどんなものがあるでしょうか?例えば、無理やり働かされるということがデメリットとして挙げられます。上記の例で言うと、通常残業30時間・休出8時間の固定残業代を設定している企業では、「固定残業代を払っているのだから」と、上司から固定残業代で定められている時間分だけ毎月労働させられる場合があります。労働生産性とは逆の思考ですね。

後は、帰りづらいというデメリットもあります。せっかく仕事を早く終わらせたのに、同僚や上司がずっと残っている場合、帰りづらい風土が職場にあると、帰れません。こういったデメリットを解消するためにも、人事労務担当者は固定残業代を職場に浸透させる努力を怠らないようにしたいところです。

最後に挙げるデメリットは、固定残業代を超えた残業代を払われないデメリットです。あってはなりませんが、人事労務担当者なり、経営者なりが固定残業代をきちんと理解しておかないと、「固定残業代は、どれだけ従業員が残業しても残業代を払わなくて良い」と誤解することになりかねません。そうなると従業員は、どれだけ残業してもそれに見合った残業代を払われなくなり、大きなデメリットになります。

企業が固定残業代を導入するリスク

企業が固定残業代を導入するリスク
企業が固定残業代を導入した時のリスクもチェックしていきましょう。

固定残業代制度は違法なのか

固定残業代は違法ではありません。しかし、運用を誤ってしまうと違法になってしまいます。

適切に運用するためのポイント

固定残業代を適切に運用するためのポイントは、まず、厚生労働省の通達を認識することです。従業員が企業に対して不信感を抱かないように、通常の労働時間に支払われる賃金と固定残業代を明確に区別して下さい。そして、固定残業代に設定されている残業時間を超過した場合は、超過分を必ず支払うことを徹底して下さい。

この2点を守らないと従業員から不審の目で見られ、従業員のモチベーションやリテンション(雇用維持)を低下させ離職率が向上したり、訴訟リスクを抱えたりといったリスクにさらされることになります。また超過分を支払わないことは違法となります。

また、労務管理をしっかりすることも求められます。固定残業代があるからといって労務管理がいい加減にならないよう、従業員の勤怠は適切に管理したいところですね。人事労務担当者ばかりでなく、現場の管理職にも徹底して頂く必要がありますよ。

固定残業代の表記について

固定残業代を適切に運用するには、固定残業代の時間・金額を、通常の賃金と区別して記すようにして下さい。労働契約書や給与明細への明記などで、固定残業代の時間・金額を数字で明記することを徹底しましょう。

固定残業代の計算方法

固定残業代の計算方法
固定残業代の計算方法は、次の計算式で求めることができます。

固定残業代=(賃金総額-固定残業代)/月平均所定労働時間*割増率*時間外労働時間数

固定残業代は基本給に含まれるか

固定残業代は、基本給と別に営業手当・業務手当などといった手当で支払ったり、基本給に固定残業代を含めたりといった2パターンの支払い方法があります。どちらを採用するかは企業の裁量に任されています。どの方法にしても固定残業代の時間・金額は区別します。

固定残業代の計算方法を具体的に示すと以下の通りとなります。
例えば、賃金総額25万円の従業員のケース。月平均所定労働時間173時間、割増率1.25、時間外労働時間数20時間の場合は以下のようになります。

固定残業代=(250,000-x)/173*1.25*20

これにより31,600円となります。

想定時間を超えて残業した場合

固定残業代には通常残業20時間などと、残業時間を想定しておきます(想定時間)。この想定時間を超えた場合は、その分を支払います。想定時間を超えた場合の計算をするためには、通常の所定労働時間の賃金(時間単価)を出しておく必要があります。

上記の例でいえば、賃金総額250,000-31,600=218,400円が所定労働時間の賃金です。この賃金を月平均所定労働時間で割ると、時間単価≒1,262円が出てきます。この単価を元に想定時間を超えて残業した場合の計算をして下さい。

法定労働時間を超えた時間外労働の場合

固定残業代について法定労働時間を超えて時間外労働をしても、36協定を締結していれば問題ありません。

固定残業代に上限はある?月45時間 or 60時間?

36協定では45時間が時間外労働の上限となります。従って固定残業代の上限が45時間にしておけば違法ではありません。また、36協定には特別条項を付加することもでき、特別条項にすれば45時間を超えても構いません。しかし特別条項は臨時的措置としての措置ですから、固定残業代を45時間を超える時間に設定するのは不適当だと認識しておきましょう。

まとめ

固定残業代のまとめ
固定残業代についての企業側のメリットやリスク、そして従業員側のメリットやデメリットについて解説してきました。固定残業代を支払えば超過分の残業代を支払わなくて良いということにはならないなど、人事労務担当者が知っておくべき固定残業代への認識は多いです。残業代を支払っておかないと訴訟リスクもあるので、運用には留意しましょう。

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