製造業で使われ発展してきた多能工。
多能工とは何か、多能工を進めた時のメリット・デメリットを説明していきたいと思います。多能工化を進めるにあたっての3つの育成ポイントを紹介。
また、国土交通省が多能工の育成を推進していますので、事例では建築・建設業界で多能工が推進し、どのような成果をあげていったかを紹介します。
多能工とは
多能工とは複数の業務をこなせる人材のことを言います。元々はトヨタ自動車から始まり多くの製造業で使われてきた言葉ですが、最近では製造業に留まらず建築・建設業でも多能工が求められるようになりました。
多能工の意味は?英語でいうと?
多能工は複数の業務をこなせる人材のことです。英語ではマルチスキルと呼ばれます。多能工は主に製造業で求められてきた人材です。また、多能工の対義語は単能工です。多品種少量生産が求められる昨今の経済環境にあっては、単能工よりも多能工が求められるようになっています。
多能工と建築・建設業界
多能工は製造業で求められる人材でした。しかし建築・建設業界においても多能工が求められるようになってきています。建築・建設業界は高年齢化や労働環境の不整備などから人手不足が続いています。そのため、建築・建設業界で働く従業員に対して複数の業務を経験できる多能工が求められている訳ですね。また、国土交通省においては多能工をマルチクラフターと呼んで、国をあげて建築・建設業界の多能工を育成しようとしています。本記事の事例では、建築・建設業界の事例を多数紹介します。
多能工の給料
多能工は複数の業務をこなせる人材ですが、1人の人間が複数の業務をこなせるようになるためには時間も労力もかかります。そのため、多能工化が給料に反映される制度にしないと、「多能工化しても給料に反映されないんじゃ単能工のままで良いや」と従業員が不満に思ってしまうかもしれません。そうなると従業員のモチベーションが上がりませんよね。ですから、多能工を導入する企業では、多能工化した人材の給料を昇給させたり、賞与に反映させたりしています。
多能工化するメリット・デメリット
多能工化するとどういうメリットがあるのか、また、デメリットは何かを具体的に見ていきましょう。
多能工化するメリット
多能工化すると次の3つのメリットがあります。
1.業務の属人化を防ぐ
仕事を1人でやっていると、当然、その業務については習熟します。しかしその人以外の誰も分からない業務があると、その人に急に休まれたり場合によっては退職されたりしてしまった時に大変困ります。その人がいる時は現場は回っているのですが、不在になった途端に回らなくなります。多能工化は、こうした業務の属人化を防ぎます。
多能工化しておけば、仮にその人が欠勤や退職となっても他の人も業務を分かっていますから、現場は混乱しません。マンパワーの減少は現場の力を弱めますが、属人化されない分、多能工化された人材が代わりにできますので生産性を落とさずに業務を推進することができるでしょう。
2.業務が「見える化」される
業務の属人化を防ぐためには、業務を複数の人材で共有します。共有するためには業務を「見える化」します。業務を「見える化」するとは、単に「私の仕事はこれです」と言うことではありません。他者と共有できるように、誰が見ても分かるように標準化しておく必要があります。「見える化」のプロセスにおいて、自分の業務とは何かが改めて分かるようになりますし、業務の問題点・改善点なども知ることができます。
3.少数精鋭で業務を推進できる
多能工化を進めると、特定の業務を複数の人材でできるようになります。それも高いレベルでこなすことができるようになりますね。そうなると少ない人材でも業務が回ることになり、少数精鋭で業務を推進できるようになりますよ。
多能工化するデメリット
多能工化することのデメリットには次の2つがありますので、考慮したいところです。
1.適正な賃金・評価制度が必要である
多能工化するには適正な賃金制度もしくは人事評価制度を再構築する必要があります。仕事だけ忙しくなって給料も賞与も変わらないなら、従業員も率先して多能工化に取り組みませんよね。多能工化を進めるには従業員のモチベーション向上が求められます。モチベーション低下を招かないように多能工化したら昇給させたり賞与に反映させたりする必要がありますが、制度改定に対する人事労務担当者の負荷は大きくなります。制度改定するにも時間がかかるので、多能工化がなかなか進まないという事態を招きかねません。
2.人材育成に時間がかかる
賃金・評価制度が整備された当初は、多能工化へ向けた意欲は高まるでしょう。しかし、多能工化には人材育成のための時間がかかります。日常業務が忙しい中での人材育成は、やらされ感があるといくら教わっても意欲が薄れたり疲弊したりします。そうならないためには、従業員が複数の業務を習得することで、仕事そのものを面白いと思えるような内発的動機付けを促進させるOJTが必要になります。
しかし、言うは易しで、内発的動機付けを促進させるOJTの技術を、現場のOJTリーダーは容易に習得できません。そうなると多能工化を始めたいのにOJTリーダーに人材育成の技術を教えないといけないことになり、多能工化を進めるために、更に時間がかかってしまいます。
多能工化の進め方や育成する際のポイント
多能工化の進め方、育成する際の3つのポイントを説明しましょう。
1. まずは現状をしっかりと認識して整理する
人材を多能工化するには、共有したい業務の現状をしっかりと認識する必要があります。「この業務はこういう仕事内容で、納期はこういう頻度で」などと、業務の現状認識が先決です。まず、これをしておかないと「見える化」ができません。
2. あるべき姿や必要なスキルなどを整理する
業務の現状認識が終わったら、多能工化するとどういう人材を目指せるのか、また、多能工化するにはどんなスキルが必要なのか、そういった点を整理しましょう。
3. 目標を達成するために必要なことを整理する(課題と、環境や教育内容など)
多能工化を進めるために、習得したい業務について「こんな課題がある」またが「環境はこうだ」「こういう風に教育される」という、目標を達成するために必要なことを整理しておきましょう。
多能工化を進めた事例
多能工化のメリット・デメリット、推進フローなどを見てきました。では、最後に多能工化を進めた建築・建設業界の事例を確認していきたいと思います。
1. アールエヌゴトー
株式会社アールエヌゴトーは、川崎市にあるエンジニアリング会社。前工程の下地補修工や防水工の不足のため、現場への乗り込み時期の遅延、手待ち時間が発生していました。そのため同社は、多能工化に取り組み問題を解決しようとします。結果、多能工化を進めたことで下地補修・防水・塗装の仕事を1つの班で行うことができるようになりました。成果として、現場の顧客対応力の向上、手待ち時間の減少、乗り込み時期の遅延の減少などを図ることができました。
2. 株式会社昭和造園
株式会社昭和造園は、造園業を営む会社。公共機関からの発注が単価契約で行われるケースが増加したことで、多能工化を推進しました。造園工事では外注するほどのボリュームのある作業がないこともあり、多能工化は適していると考えたようです。多能工化を通じた成果は、生産性向上・経費節減です。
3. 株式会社マルチビルダー
株式会社マルチビルダーは、埼玉県にあるエンジニアリング会社。多能工化を進めるため、マルチビルダーの従業員は、入社後1年間にわたり職業訓練校で学び多能工として活動することができるようになります。建築・建設業界は人手不足が深刻ですが、同社のように教育体制を整えることで若手人材の確保に至っています。
4. 水谷工業
水谷工業株式会社は、愛知県にあるエンジニアリング会社。同社に求められる多能工は難易度が高く、あと施工アンカー、鉄筋工、グラウト工、ひび割れ補修工など多岐に渡ります。OJTによって先輩から丁寧に教わりますが、それだけではなく外部研修会に参加して知識の習得に励んでいます。成果として、顧客にとって使いやすい会社として認知されるに至りました。
5. リアル建設(株)
リアル建設株式会社は、世田谷区にある水道・ガスのエンジニアリング会社。多能工化を進めたことで生産性が向上するとともに、メディアへの出演が増えたことから人材不足の解消も試みてきました。また、多能工を進めたことで更なる事業展開を目指しています。
まとめ
多能工は複数の業務をこなせる人材として、トヨタ自動車を始め製造業を中心に発展してきました。
多能工には3つのメリットがあり、業務の属人化を防ぎ、業務を「見える化」し、少数精鋭で業務ができるようになります。
デメリットを考慮した上で多能工化を進めるヒントにして欲しいと思います。
製造業で始まった多能工ですが、現在は人手不足に悩む建築・建設業にも浸透しつつあり、事例では多能工を進めたことで生産性向上や若手人材の確保に成功した企業を紹介しました。