メタ認知とは?
メタ認知を向上させると学習能力が高まり、仕事にも活用できるといわれます。メタ認知の意味や起源について確認しましょう。
メタ認知の意味と効果
メタ認知とは自分の認知している状態を客観的に認知していることを意味する心理学用語です。
学生時代に期末試験を学習している姿を思い浮かべて下さい。あなたは試験までに100の英単語を覚える必要があるとします。70の単語を覚えたら、「自分が覚えた英単語は70で残りは30である。試験にパスするにはまだ不十分だ」と客観的に認知できます。このように、自分が認知している状態を客観的に認知していることをメタ認知といいます。
学習に役立つメタ認知は、仕事の能力向上にも活用できます。例えば工場で働く生産スタッフが覚える工程にAがあるとします。スタッフは工程Aを覚えたと考えていましたが、あるとき緊急事態に対応しきれず不良品を発生させてしまいました。メタ認知を使ってスタッフの工程Aの認知の程度を見てみると以下のようになります。
・工程Aで緊急事態が発生すると対応できない
今後、スタッフが緊急事態への対応方法を習得すれば、工程Aを完璧に習得したと認知することができます。メタ認知を活用すると、自分がどの程度まで仕事を把握できているのか、足りない点はどんなところにあるのかが分かります。
メタ認知の起源と発展
メタ認知の起源はギリシアの哲学者ソクラテスです。無知の知という言葉で、ソクラテスは「自分が知らないことを知る」ことを概念化しました。自分が知らないことを知っている無知の知は、自分が認知している状態を客観的に認知するメタ認知に通じる考えです。
メタ認知は、心理学者のジョン・H・フラベルが定義しました。教育心理学や脳科学で用いられたメタ認知は、仕事の能力向上や問題解決にも活用できるようになりました。
メタ認知の分類
メタ認知は、メタ認知的知識とメタ認知的技能に分類することができます。両者の違いを確認します。
メタ認知的知識
メタ認知的知識とはメタ認知に関わる知識のことで、課題、人、方略の3つに分けて考えます。
課題
メタ認知的知識の「課題」は、課題そのものに関する知識をいいます。「考えることは得意だがプレゼンが苦手だ」「単純作業に比べると、複雑なプロセスがからむ仕事を習得するには時間がかかる」といった課題そのものに関する知識がメタ認知的知識の課題です。
人
メタ認知的知識の「人」は、人に関する知識をいいます。自分だけでなく他者についても使えます。例えば「私は計算や暗記が得意だ」といった個人内の認知や「AさんはITスキルが高い」といった個人間の比較に基づく認知についての知識を指します。
方略
メタ認知的知識の「方略」は、課題を解決するための方略に関する知識をいいます。例えば「プレゼンがうまくなるためには練習が効果的だ」「ITエンジニアとして評価されるにはヒューマンスキルも重要である」といった課題解決のための方略についての知識です。
メタ認知的技能
メタ認知的技能とは、メタ認知的知識を把握した上で確認したり課題の解決策を講じたりする能力をいいます。メタ認知的技能はメタ認知的モニタリングおよびメタ認知的コントロールの2種類に分けられます。
メタ認知的モニタリングは、現在の自分の認知状態を監視し、正常な認知状態かどうかを確認することです。メタ認知的コントロールは、モニタリングによって確認できたこと、およびメタ認知的知識から行動を改善することです。
メタ認知が高い人の特徴は?
メタ認知が高いとビジネスで活用できます。メタ認知が高い人にはどんな特徴があるでしょうか?
自分の強み・弱みを分析できる
メタ認知が高い人は自分の強み・弱みを分析できます。管理者として仕事に励むBさんは、部下をとりまとめて目標に方向づける強みがある一方、他者を説得することが苦手な点に弱みがあると自分を認知しています。自分の強み・弱みを認知しているBさんは、強みを伸ばし弱みを克服することができます。
高い目標を達成できる
メタ認知が高い人は高い目標を達成できる人です。自分の認知状態を把握し、高い目標を達成するために必要な情報、スキル、人材を考えます。自身のスキルが不足すれば鍛えます。
また、メタ認知が高い人は他者の認知状態についても認知しますから、目標達成のために、メンバーに必要な知識・スキルを習得させます。自分とメンバーの認知状態を把握することで、高い目標を達成できるわけです。
チームワークを大切にできる
メタ認知が高い人は人間関係に価値を置いているためチームワークを大切にできます。他者との距離感を保ちながら、配慮し、サポートを行い、リーダーシップを発揮することができます。メタ認知が高い人は、チームワークを形成するため、他者に優しく接し、ときには厳しい態度・指導を取ることもあります。
失敗から学ぶことができる
メタ認知が高い人は失敗したら終わりではありません。失敗から学ぶことができます。失敗したら、自分には何が足りなかったのか、不足している状態から必要なものは何かを考えます。つまりメタ認知が高い人は、失敗から何らかの気づきを得るのです。次は失敗しないように学習します。
問題解決力が高い
メタ認知が高い人は問題解決力が高い人です。営業担当者Cさんは、なかなか受注を取れないことに悩んでいました。Cさんは転職者で前職ではトップセールスを誇っていましたが、現職は業界が違うこともあり受注に結びつきません。
メタ認知が高いCさんは、自分のセールストークを振り返りました。すると自社の強みばかりを強調していることに気づきます。現職は業界トップ企業なので、強みをいえば訴求できると考えていたのです。そこでCさんは顧客の言い分を傾聴するように営業スタイルを変更。「話を聞いてくれる営業だ」と顧客の評価を得て、徐々に受注を得られるようになったのです。
Cさんの事例における問題は「受注を取れないこと」ではなく「傾聴できないこと」にありました。メタ認知が高い人は自身の問題に気づき、問題解決策を講じて、解決のために行動できる人です。
人材育成にメタ認知向上が必要な理由
メタ認知を向上させることは、企業にとっても必要な課題です。人材育成にメタ認知向上が必要な理由を2点、解説します。
環境変化に対応する人材の必要性
企業を取り巻く環境変化は不確実で将来を予測できません。2020年から感染が拡大した新型コロナウイルスに象徴されるように、環境変化に対応できる人材を企業は育てなくてはならないのです。
環境変化に対して、自分たちは従来通りで良いと考える社員ばかりでは企業の組織力は低下します。環境変化に柔軟に対応するためには何が必要か、自分に求められるスキルは何かといったことを考え、実行できる人材を企業は育成する必要があります。
プロフェッショナル人材の必要性
環境変化に対応する人材として、プロフェッショナルな人材の必要性も挙げられます。何でもできる人材ではなく、専門性を活かせるプロフェッショナル人材が期待されます。働き方改革やリモートワークの推進により、従来のメンバーシップ型雇用から仕事に対して人を割り当てるジョブ型雇用が注目されています。メンバーシップ型ではジェネラリストを育てますが、ジョブ型ではスペシャリストを育成するのです。
トヨタ自動車は、23年ぶりの2019年に基幹職(課長に相当)以上の人事制度を改革し、プロ人材が活躍できる組織づくりを目指しています。トヨタ自動車はプロ人材を「会社の方向性を理解し、自ら動き、メンバーを動かし、会社の戦略をスピーディーに実行することができる人材」と定義し、企業戦略をスピーディーに実行できるプロ集団の形成を図っているのです(労政時報本誌3989号)。
トヨタ自動車がプロ人材の輩出、育成を強化した背景には、「自動化(自動運転)」「つながる化(ネット、スマホ接続)」「共有化(カーシェアリング)」「電動化(HV、EV)」といった自動車産業の大変革の時代に突入したことが挙げられます。環境変化に対応する人材としてプロ人材が活きる組織づくりを考えています。
メタ認知の鍛え方
メタ認知を鍛えるには、メタ認知技能のセルフモニタリングとコントロールを使った鍛え方があります。
セルフモニタリング
メタ認知を鍛えるには、自分が置かれた状態を客観的に把握することが大切です。自分の弱みや苦手な点と向き合うことが必要。セルフモニタリングは、自分の行動を振り返り、弱みや欠点、課題を抽出することです。ある場面で取った行動に関して、なぜ自分は行動したのか、理由を分析していきましょう。
コントロール
セルフモニタリングで自分の弱みや欠点を分析した後は、どうやって克服するかを考えます。コントロールは、弱み、欠点、課題を乗り越えるためにどうしたら良いのかを考え、行動することです。
まとめ
メタ認知は「認知を認知する」ともいわれ、自分が認知している状態を客観的に認知することを意味します。メタ認知を高めれば、仕事にもメタ認知を活用できます。メタ認知が高い人の特徴や鍛え方を参考にしてみて下さい。