人事異動の際に該当従業員に交付される「辞令」は、会社の慣例で作成される書類の一種です。
従業員との間でトラブルを避けるためにも、人事担当者は辞令の意味や交付の手順について押さえておきましょう。
この記事では、辞令の意味や種類、交付するまでの一連の流れについて詳しく解説します。
辞令とは?
「辞令」とは、会社が該当従業員の採用を認めたり、所属部署や役職の変更を命じるための命令文書です。
会社から従業員に対する業務上の命令行為となりますが、労働基準法においては発行が義務付けられていません。
辞令に法的な拘束力はありませんが、業務命令であるため原則として拒否はできません。
辞令の種類
辞令は、従業員採用、所属部署、役職、給与など、変更を行う度に発行が必要になります。
辞令の種類は以下のものが挙げられます。
- 採用辞令…新たに従業員を採用する時の辞令です。
- 退職辞令…従業員が退職する時
- 配置転換・転勤辞令…従業員の所属部署を配置転換などで変更する時
- 出向辞令・転籍辞令…従業員を他社に出向させる時
- 昇格・降格辞令…従業員の職位(係長、課長、部長など)を上位のものに変更する時
- 昇給辞令・降給(減給)辞令…従業員の給与を上げる時の
- 休職辞令・復職辞令…従業員を休職・復職させる時
- 出張辞令…従業員を休職・出張させる時
辞令交付式とは?
「辞令交付式」とは、辞令交付をセレモニーとして行うこと。
大企業は入社式にならび辞令交付式が開催されることがありますが、中小企業は上司から言い渡されるだけでセレモニーなしの場合も多いです。
辞令書とは?
「辞令書」は辞令の内容や項目を網羅した書類です。
人事部門で辞令書を作成する場合は、簡潔明瞭に短文を心がけて、分かりやすい辞令を作成する必要があります。
辞令書に最小限記載する内容や項目
- 辞令の公布日
- 発令を受ける人物の所属部署、役職、氏名
- 発令を行う側の企業名、役職、場合によっては氏名
- 辞令の内容
- 辞令が実行される日付
辞令の書式・フォーマット
辞令書の基本的な書式・様式・フォーマットはエクセルで作成したもので問題ありません。
ここからは、辞令の種類別に書式・フォーマットをご紹介しましょう。
※辞令書は、法律で交付することが義務づけられている書類ではありません。
採用辞令の場合
採用辞令の文書は、必要事項だけを簡潔に記載します。
試用期間を設ける場合は具体的な期間、採用直後の勤務先などを記載しておきましょう。
異動などの辞令の場合
本人に人事異動を通知するために、会社として職場の異動を命令する役割を果たす文書です。
発令者(代表取締役名)、発令日、異動日、受命者の名前、新たな所属部署、任命される職位を記述します。
昇格や降格の辞令の場合
昇格の場合には理由を記載して、働く者のモチベーションアップ、働く意欲を引き出すことができます。
降格の場合は、受命者の気持ちを考慮した上で降格することになった原因を記載します。
出向の辞令の場合
出向とは、命令で在籍のまま長期間他企業で労働する在籍出向を指しています。
出向辞令の場合は、出向期間を明示しておくことが大切です。
退職辞令の場合
退職辞令は退職日と定めた日に、退職者に手渡します。
辞令交付までの流れ
ここからは、辞令交付までの流れを見ていきましょう。
⑴内示
正式な辞令の1~3か月程度前
経営者や人事部などの責任者、直属の上司などから該当従業員に対して行う
書面あるいは口頭により連絡する
転居を伴う異動は準備期間を伝える
⑵発令
辞令が正式なものになる
転居を伴う異動を命じる場合は発令日から数日後に着任日を設ける(引越し準備などを考慮)
⑶交付
正式な辞令
経営者や人事部などの責任者、直属の上司などから書面により連絡する
交付の時期は発令日の1か月ほど前から当日
辞令と内示の違い
「内示」とは、辞令が交付される前に、直属の上司が本人に辞令の内容を伝えることを意味しています。
内示は辞令のための準備期間として捉え、手続きや引き継ぎなど準備を進めるために行います。
内示は、実際の辞令交付の1カ月から1週間程度前に出されることが多いです。
辞令発令とは?
「辞令発令」とは辞令を公表することで、辞令の正式な発表を意味します。
一般的には、内示→発令→交付→着任という流れになります。
辞令交付とは?
「辞令交付」は、企業が従業員に対して役職を任命、あるいは免職を指示・命令する文書を渡すことです。
辞令交付は、法律で義務付けられておらず、人事に関する重要事項を間違いなく伝達することが目的です。
命令文書のため従業員は方針や意向に従う必要があります。
辞令が出た際の挨拶について
辞令が出た時はお世話になった周囲の方々への挨拶をします。
注意するべきポイント
挨拶で必ず伝えることは、異動することになった部署と日付、名前です。
取引先にも忘れずにメールまたは電話で連絡を入れましょう。
メールで挨拶する際
メールで挨拶をする場合は、下記のフォーマットに従って文章を作成しましょう。
人事・総務に問い合わせをすれば、会社として使用しているテンプレート文章をくれる可能性もあります。
▼挨拶メールの書式
件名:異動のご挨拶
本文:
株式会社〜 〜部
(名前)様
いつもお世話になっております。
株式会社〜 (名前)でございます。
私事ではございますが、〜日付けで〜部へ異動することになりました。
後任は、〜が担当させていただきますので、よろしくお願い致します。
短い間でしたが〜様から多くのご指導、ご相談に乗って頂きましたことを感謝しております。
本当にありがとうございます。
今後とも、変わらぬお付き合いのほど何卒よろしくお願い致します。
電話で挨拶する際
配属先へ電話で挨拶をする際には、明るくハキハキとした声を心がけて、良い印象で仕事をスタートさせましょう。
電話の挨拶の仕方
〜月〜日を持ちまして、〜部に配属になります〜と申します。
本日はご挨拶ということで、お電話をさせていただきました。
今後とも何卒よろしくお願い致します。
辞令を拒否することは可能か?
会社には広範な人事権が認められており、現実問題として辞令を拒否することは困難です。
内示の場合、状況によっては交渉できることも
内示は、辞令の予告として本人やその上司など限られた人にのみ知らされます。
内示段階であっても人事異動すること自体が業務命令であるため、拒否することはできません。
人事異動を拒否できるケース
基本的に人事異動を拒否することはできませんが、「正当な理由がある場合」に限っては、拒否の申し立てが認められる可能性があります。
人事異動を拒否できる正当な3つの理由
- 雇用契約書で限定したエリア外や該当職種以外の異動を求められた場合
- 人事異動が権利の濫用・嫌がらせだと思われる場合
- 育児や介護など、やむを得ない事情がある場合
まとめ
辞令の交付は、法律で義務付けられているものではありませんが、辞令は会社からの大事な命令です。
出向や配置転換の辞令は、就業規則や各規程に会社の命令権の規定に基づいて制作するようにしましょう。