年次有給休暇管理簿とは?
2019年4月より、働き方改革関連法が施行され年10日以上の年次有給休暇を付与される労働者については、5日を取得させることが義務化されました。有給休暇の取得義務を時季指定義務と言い、5日を取得させることができなければ企業には罰則規定が科されます。
企業の年次有給休暇の時季指定を適切に管理するために、企業には年次有給休暇管理簿を作成させることが義務づけられることとなりました。年次有給休暇管理簿とは、企業が労働者の有給休暇取得状況を把握し適切に管理するための帳票なのです。ちなみに管理簿を作成しなかったことについての罰則規定はありません。
年次有給休暇管理簿作成の義務
年次有給休暇管理簿作成の義務は、大企業・中堅・中小企業の規模、または業界の種別を問わず、全ての企業に課せられることになりました。年次有給休暇の消化率が低いまま推移してきた企業にとって、年次有給休暇の時季指定義務、管理簿作成義務は喫緊の課題です。年次有給休暇管理簿の対象者は、有休を付与されている労働者全てです。そのため、有休の対象外となる役員等については作成する必要がありません。
年次有給休暇管理簿導入の背景
年次有給休暇管理簿が導入される背景には、どんなものがあるか解説します。
有給休暇取得率の低迷
日本の有給休暇取得率は低迷しています。エクスペディアの「世界19か国 有給休暇・国際比較調査2018」によると、日本の年次有給休暇の取得率は19か国中最下位の50%でした。2018年に限ったことではなく、3年連続最下位に甘んじています。取得期間も短く、世界最小の10日間に留まっていました。
働き過ぎと言われがちな日本の実態が浮き彫りとなっています。有給休暇は労働者にリフレッシュしてもらうことが目的ですから、取得率の低下は労働者の心身のバランスにも関わってきます。有給休暇取得率の向上が有休の時季指定義務と管理簿導入へと繋がっているのです。
労働生産性の低迷
日本は労働生産性が低迷しています。日本生産性本部の調査によると、日本の時間当たりの労働生産性は46.8ドルと、米国のわずか6割に留まっています。OECD加盟国36か国中21位でした。
長時間労働が当たり前で、労働者が残業代込みで生活設計をしがちな日本にとって、労働生産性の低迷は避けられないところです。しかし、年次有給休暇の時季指定義務が企業に課せられれば、限られた時間の中で労働者は成果を上げ、労働生産性を高めるよう努めざるを得ません。生産性を高めるためにも有休の時季指定義務・管理簿導入は必須となります。
働き方改革関連法案の施行
年次有給休暇管理簿導入の背景として極めつけなのが働き方改革関連法案の施行です。実際に年次有給休暇管理簿作成が企業に義務づけられたので、企業は有休の時季指定義務に向け、管理簿導入を進めることとなりました。
年次有給休暇管理簿に何を記載するのか
年次有給休暇管理簿には何を記載するのか、項目ごとに解説します。
有給休暇の時季
有給休暇の時季とは、年次有給休暇を取得した日付のこと。具体的には、6月1日、10月20日等と記載することです。尚、6月1日から6月3日まで、6月1日から3日間等と、連続して有休を取得した場合にはそのように記載します。
有給休暇の基準日
有給休暇の基準日とは、年次有給休暇を取得する権利が与えられた日のことです。労働基準法においては、有給休暇は入社後6か月、1年6か月という単位で付与されていきます。入社後6か月を第一基準日、1年6か月を第二基準日と言います。
有給休暇の日数
有給休暇の日数とは、労働者の実際の有給休暇を取得した日数を言います。ただし、この有給休暇の日数には時季指定義務の日数だけでなく、労働者が希望した有給休暇等、全てを含みます。
年次有給休暇管理簿作成の注意点
年次有給休暇管理簿作成にあたっての注意点を整理します。
作成の時期
年次有給休暇管理簿の作成時期は労働者が有給休暇を取得した時です。ただ、実際に労働者が有給休暇を取得した時から管理簿を作成し始めるのは非効率です。有給休暇の時季指定義務もあり、必ず有給休暇取得が発生することになるのですから、年度初め等に予め管理簿を作成しておくのが効率的なやり方です。
保管義務
年次有給休暇管理簿の保管義務は、3年間となっています。企業には、労働者に有給休暇を与えた期間、有給休暇満了後の3年間にわたり保管義務が課せられます。保管方法としては、紙による方法の他にデータによる保管も可能ですが、データの場合は直ぐに印刷できる状態にしておく必要があります。労働基準監督署の立ち入りがあった際には直ぐに相手に見せられるようにしておきます。
記載事項の注意点
年次有給休暇管理簿の記載事項の注意点として、有給休暇の時季に気を付けます。勤続後6か月で有給休暇が発生すると前述しましたが、あくまでもこれは法律の規定です。企業によっては6か月よりも前倒しで有休が発生する場合もあります。自社の有給休暇の発生時期はいつなのか、就業規則を確認しておき自社のルールに基づいて管理する記載する必要があります。第一基準日、第二基準日にも注意して記載します。
年次有給休暇管理簿はエクセルで作成できる
年次有給休暇管理簿はエクセルで作成するのが容易です。管理簿をエクセルで作成する際の項目の一例は以下の通りです。尚、一覧にある有給休暇取得日数とは、記載事項である「有給休暇の日数」のことです。
・入社日
・勤続年月
・基準日
・有給休暇付与日数
・有給休暇取得日数
・有給休暇残日数
・有給休暇の時季
関数だけで作成できる
年次有給休暇管理簿をエクセルで作成・管理するには、関数だけで十分です。マクロを組まなくてもできます。SUM、IF、VLOOKUP、IFERROR等の関数を組み合わせることで対応できます。
年次有給休暇管理簿をエクセルで作成する時のポイント3選
有給休暇管理簿をエクセルで作成する時のポイントを3つ、紹介します。
1枚のシートで管理する
年次有給休暇管理簿は1枚のシートで管理するようにしましょう。複数のシートにわたって作成すると管理する時に漏れが生じることがあります。VLOOKUPを使って労働者の名前・入社日・勤続年数を持ってくるための情報を別シートに作成するのは良いのですが、管理簿自体は1枚のシートで管理することを心がけます。
勤続年数に基づいた有給休暇付与日数で管理する
「有給休暇の基準日」の見出しで第一基準日・第二基準日について触れた通り、管理簿にて有給休暇取得状況を把握するには勤続年数に基づいた有給休暇付与日数で管理します。適切な有給休暇の取得がなされているかを管理簿において管理することができます。
半休取得やパート労働者にも対応する
年次有給休暇の時季指定義務は、10日以上の有給休暇を付与される全ての労働者です。従って、管理簿を作成するにあたっては、対象者の漏れがないかを確認することが大切です。管理監督者やパート労働者についても管理簿の対象者に含めます。また、有給休暇は、1日に留まらず半休を取得することもできますから半休取得にも対応する管理簿を作成していくことが必要です。
まとめ
有給休暇取得率や生産性の低迷、働き方改革法の施行により、企業には年次有給休暇の取得率を向上させることが求められるようになりました。有給休暇の時季指定義務はその一環で、有休を管理するために企業は管理簿作成をしっかりと行う必要があるのです。名簿の作成・管理はシステムを使う必要はなく、関数さえ使えばエクセルで作成することができます。