労働保険とは?労働保険の目的と加入方法・労働保険料の計算方法まで解説

労災保険の記事
労働者が業務上のケガや病気をしたり、失業したりした時に労働者を助けてくれるのが労災保険と雇用保険です。労働保険とは、それらを総称した言葉で、保険料の徴収が労災保険・雇用保険が一体となっているために存在しています。労働保険の加入対象者・加入方法、計算方法まで労務担当者向けに分かりやすく解説します。
目次

労働保険とは

労働保険とは何か、労働保険成立の経緯、労災保険・雇用保険について解説します。

労災保険と雇用保険の総称

労働保険とは、労災保険と雇用保険を総称した言葉です。保険給付は労災保険と雇用保険が個別に行われているのですが、保険料の徴収等については、原則的に一体のものとして取り扱われているため労働保険と総称されているのです。ただし労災保険と雇用保険は別物なので、後ほど説明します。

労働保険成立の経緯

労働保険の成立は昭和50年(1975年)まで遡ります。労働保険の適用となった事業者は成立手続きを行って労働保険料を納付する必要があります。仮に成立手続きが行われなかった場合は、事業者は遡って納付するだけでなく追徴金も納めなくてはならなくなります。

労災保険とは

労災保険とは、業務上または通勤途上のケガや病気に対して国が補償する保険のことです。

雇用保険とは

雇用保険とは、失業した時や育児等で休業した時に収入を補償する保険のことです。育児のために会社を休んだ場合、会社から給料が出ないことがあります。そうなると生活が成り立たないので雇用保険によって収入を補償するのです。

労働保険の目的と加入者

労働保険の目的と加入者について、労災保険・雇用保険それぞれを説明します。

労災保険の目的

労災保険の目的は、労働者が業務上・通勤途上にケガ・病気をした際に、労働者の生活を守るためです。日本の会社はノーワークノーペイが原則ですから、働かない人には給料を支払うことができません。しかし労働者が業務上のケガをして仕事ができない時に、毎月の給料がもらえないとなると、生活が成り立たなくなってしまいます。それを防ぐために、労災保険があります。

労災保険では、労働者が働けない時は給付金を支払ったり、通院する時は労働者に支払いを免除したり、あるいは労働者が死亡した場合には遺族に給付金が支払われる等、労働者と遺族の生活を補償してくれます。

労災保険に加入できる人

労働者を1人でも雇用している事業所では労災保険への加入が義務付けられています。労働者とは、正社員・契約社員・パート・アルバイト等の名称を問いません。ということは、労働者を1人でも雇用していれば労災保険に強制加入させなくてはならず加入させていないと違法になります。

特別加入制度によって、事業主が労災保険に加入することもできます。中小企業の事業主であれば労災保険に加入できます。特別加入制度における中小企業の定義は業種別に次の通りになっています。労働者数は企業全体の数をカウントすることができます。

・金融業、保険業、不動産業、小売業:労働者50人以下
・卸売業、サービス業:労働者100人以下
・上記以外の業種:労働者300人以下

雇用保険の目的

雇用保険の目的は、労働者が失業、休業、介護のために働けなくなった場合に労働者の生活を守るためです。労働者が失業すれば給料がなくなり、生活のアテがなくなってしまいます。しかし雇用保険は失業者に失業手当を給付することで、労働者の生活を守るのです。

雇用保険に加入できる人

雇用保険に加入できるのは、所定労働時間が週20時間以上で31日以上継続雇用が見込まれる労働者です。つまりフルタイムで働く正社員は雇用保険に強制加入で、アルバイトやパート等の非正規社員は条件を満たす場合に加入するということになります。

労働保険に加入するには

労働保険への加入は労災保険と雇用保険で加入方法が異なります。必要書類や届け出先が異なりますので注意です。

労災保険の場合

労災保険は管轄の労働基準監督署に対して、次の書類を提出することで手続きが成立します。尚、提出期限は保険関係が設立した日の翌日から10日以内。労働保険概算保険料申告書のみ50日以内です。

・労働保険保険関係設立届
・労働保険概算保険料申告書
・履歴事項全部証明書の写し

雇用保険の場合

雇用保険は所轄の公共職業安定所に対して、次の書類を提出することで手続きが成立します。提出期限は従業員を雇用した日の翌日より10日以内となります。

・雇用保険適用事業所設置届
・雇用保険被保険者資格取得届
・労働保険の保険関係設立届
・労働保険概算保険料申告書
・履歴事項全部証明書の原本
・労働者名簿

中途採用者に対する手続き

年の途中で中途採用者を雇った場合は、雇用日から数えて50日以内に手続きを行います。

労働保険料とは

労働保険料とは、労災保険と雇用保険の保険料を総称したもの。労働者の賃金に労働保険料の割合を乗じることで求められます。

労災保険料の負担者

労災保険料企業が全額を負担します。これは、労災保険は、労働者が業務上のケガ・病気によって働けなくなったことに対する補償であるためです。労働者本人の負担はありません。

雇用保険料の負担者

雇用保険料の負担者は、雇用者と労働者の双方です。単純な労使折半ではなく、雇用二事業率を除いた分となります。

労働保険料の計算方法について

労働保険料の計算方法は、労働保険料・雇用保険料によって異なります。労働者の賃金総額に労災保険率もしくは雇用保険料率を乗じることで求められます。賃金総額は労災保険に加入できる全ての労働者に払った賃金の総額です。ちなみに、労働者の賃金に含められるものとしては、賃金・賞与・各種手当(通勤手当・残業手当・扶養手当・住宅手当)、休業手当等が挙げられます。賃金に含められないものとしては、出張手当・役員報酬・退職金(前払いの退職金は賃金に含む)があります。

労災保険料

労災保険料の計算式は、労働保険料=労働者の賃金総額×労災保険料率です。労災保険料率は55の事業で定められていて、最も低いのは「原油又は天然ガス鉱業」や「金融業、保険業又は不動産業」等の1000分の2.5、最も高いのは「金属鉱業・非金属鉱業又は石炭鉱業」の1000分の88です。

雇用保険料

雇用保険料の計算式は、雇用保険料=労働者の賃金総額×雇用保険料率です。雇用保険料率は、労災保険料率ほどには細分化されていません。一般の事業、農林水産及び清酒製造事業、建設事業の3つの事業に分けて、保険料率が決まっています。

保険料の申告・納付のやり方

労災保険料の申告や納付のやり方を説明します。労働保険は4月1日~3月31日までに支払う予定の賃金を元に、予定額を前払いしています。前払いする時期は6月1日~7月10日までの期間です。予定額ですから、翌年、実際に支払った賃金を元に前年度の労働保険料を確定させる事務処理を行います。ここで不足分は支払い、過剰分は今年の保険料からマイナスされる仕組みなのです。この事務処理を年度更新と言います。

年度更新の時期は6月1日~7月10日までの期間。所轄都道府県労働局か所轄労働基準監督署に対して、労働保険概算・確定保険料申告書と保険料を持って提出し、労働保険料の申告・納付を行うというやり方です。保険料は一括払いが原則ですが、分割納付することもできます。「概算保険料が40万円以上の時」もしくは「労災保険・雇用保険のいずれかに加入していて、保険料が20万円以上の時」が対象です。これらの場合では、一括払いではなく3回に分けて納付することが可能です。

まとめ

労働保険は雇用保険と労災保険を総称したもの。保険給付はそれぞれの保険から行われますが、保険料の徴収は一体的に行われます。労働保険も雇用保険も、どちらも労働者や遺族の生活を守るためのものです。公的機関への届け出を忘れないようにしましょう。

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