労働基準監督署(労基署)とは?
会社で働いている時、会社との間で労働関係のトラブルを抱えることがありますよね。例えば、賃金未払い・長時間労働問題等。そんなトラブルを解決するための国の相談機関が労働基準監督署です。労働基準監督署は労基署とか労基等と略して呼ばれることが多いです。本記事では労働基準監督署の略称を労基署という表記で統一します。
労働者を守る厚生労働省の出先機関
労基署は厚生労働省の出先機関です。全国47都道府県全てにあり、全国321署・4支署があります。会社よりも弱い立場にある労働者にとって、労基署に相談することで自らが解決する時の糸口になったり、会社に対して労基署が是正勧告をしてくれたりする等、労働者を守るための公的機関として存在しています。労基署が持つ権限としては、「会社への是正勧告」「労働基準法を違反した会社への捜査権や逮捕権」があります。
労基署に対する注意点を紹介しておきます。労基署は会社に対して是正勧告をしてくれますが、何らかの命令を下すことはできない点には注意したいところです。つまり、「有給休暇を取れない」問題が発生し労基署に相談した際、労基署が会社に「労働者に有給休暇を取らせて下さい」と指導することはできても、有給休暇の取得を命じることはできないということですね。
また、労基署は民事的なトラブルには介入しない点にも注意が必要。労基署には会社への逮捕権・捜査権があるものの、会社と労働者とのトラブル解決のための対話には介入できないのです。
4つの部署
労基署には4つの部署があります。監督課・安全衛生課・労災課・業務課の4部署です。監督課は労働基準法等の法律に基づく監督指導、36協定や就業規則届出の受付、労働相談等を担います。安全衛生課は労働者の死傷病報告の報告受付、健康診断に関する報告受付等を担います。労災課は労災保険給付の業務を担います。業務課は経理等の事務的業務を行っています。
労基署に相談できること
労基署に相談できることは限られています。労基署は労働基準法に基づいて労働トラブルの相談を受け付ける期間です。従って、労基署に相談できることは労働基準法に基づくトラブル相談に限定されます。以下、相談できることの事例を紹介します。
賃金未払い問題
「会社が給料日に賃金を払ってくれない」「会社が残業代や休日手当を払ってくれない」「管理監督者であるが深夜残業手当を支払われていない」のような賃金未払い問題については、労基署に相談できる事案です。
長時間労働問題
「36協定を上回るほど長時間労働を強いられている」「過労死ラインの80時間を超える長時間がある」「そもそも36協定を締結していないのに残業がある」等の長時間労働問題については、労基署に相談できる事案です。
休日・有休を取得できない問題
「休日の取得が認められず、14日間連続して勤務することが常態化している」「有給休暇を申請しても取得が認められない」等の休日・有休を取得できない問題については、労基署に相談できる事案です。
不当解雇問題
「解雇予告手当が支払われず即日解雇された」のような不当解雇問題については、労基署に相談できる事案です。ただし、労基署は解雇の妥当性・違法性については判断権限を持たないので労基署に相談しても何もしてもらえません。解雇予告手当未払いのような労働基準法違反の事案がない場合は、労基署に相談しても難しいと思った方が良いでしょう。
労働条件問題
「入社時に労働条件を教えてもらえなかった」「就業規則を見たいと言っても見せてもらえなかった」等の労働条件問題については、労基署に相談できる事案です。
労災問題
「業務上または通勤中のケガにもかかわらず、会社が労災申請してくれない」「会社が労災隠しをしている」等の労災問題については、労基署に相談できる事案です。
労基署に相談することのメリットとは?
会社との労働トラブルを抱えた時、労基署に相談することのメリットを紹介します。
相談料が無料
労基署に相談する時の相談料は無料です。弁護士や社会保険労務士に労働トラブルを相談する時は費用が発生しますが、労基署は厚労省の出先機関ですから相談料はかからないのです。
労働基準法に即した相談
労基署には、労働基準法に精通し、労働トラブルの相談に長けた専門家が集まっています。労働基準法の知識を持っているので、相談すれば適切な回答をもらえるケースが多いです。
ケースによっては会社に指導をしてくれることも
労基署が労働者の相談に応じて、どんなアクションを取るのかは労基署の判断によります。労働者が単独でどうやって解決したら良いかについて、解決策を提示してくれることがありますし、会社の労働基準法への違反行為によっては会社に是正勧告(指導)を行ってくれるケースもあります。
労基署が是正勧告に動く場合
労基署が会社に対して是正勧告に動く場合は、大前提として会社が労働基準法に違反していることです。いくら労働トラブルがあったとしても労働基準法と関わりのない問題については労基署が介入することはできないからです。民事トラブルにも労基署が介入できないのはこうした理由があります。ただ、労働基準法違反があることをもって労基署が直ぐに是正勧告に動く訳ではないので、動くケースについて紹介していきます。
労働者から相談があった場合
労働者から労基署に相談があった場合に会社への是正勧告に動く場合があります。労働者から前述の労働トラブルの事例に挙がるような相談内容があった時、労基署は相談内容に応じて是正勧告に動くか否かを決定するのです。相談内容が労働基準法違反であり、是正勧告に動く内容かどうかを判断して動く、という流れです。
定期監督や労災があった場合
労基署は定期監督(計画的に行われる労基署の調査のこと)を行う中で、会社に労働基準法違反がないかを確認しています。その際に違反が見つかれば是正勧告に繋がります。また、大きな労働災害が発生した時は災害時監督という調査が入ることがあります。内容によっては是正勧告に動くことがあります。
労基署に相談する時のポイント
会社との労働トラブルを抱えた労働者が労基署に相談する時のポイントを紹介します。
電話やメールではなく直接訪問すること
労働者からの相談があって、労基署は是正勧告に動くのですが、電話やメールでは労基署を動かすことは難しいです。労基署に相談する時は、労基署に直接訪問して、労働トラブルを相談することがポイントになります。
録音や録画・資料等を用意すること
労基署に直接訪問した時、録音や録画、資料等を用意してから訪問することがポイントです。労働トラブルの根拠となる音声データを録音し、動画を録画したりすれば、労基署は労働基準法違反の根拠として捉えてくれるのです。あるいは、労働者と会社側がやり取りをした時の文書やメールの印刷物、給与明細書や勤怠データの情報等も、労働基準法違反の客観的な根拠として労基署に捉えられます。
労基署に相談する労働トラブルの内容が重ければ重いほど、労働トラブルを解決するために労基署に調査してもらったり、是正勧告に動いてもらったりして欲しいと思います。労基署をいかに動かすかが重要になってきますので、労働トラブルの客観的なデータを残し、相談時には用意できるようにしたいところです。
まとめ
会社との労働トラブルの相談に乗ってくれる労基署。トラブルに遭った時に、労働基準法に精通した専門家に無料で相談できる労基署は労働者の心強い味方です。労基署に相談できる内容は労働基準法に違反する内容に限られていますが、会社に調査・是正勧告に動いてくれることもあります。相談する際は、労働トラブルに関する客観的なデータを用意しておきましょう。