企業においては正社員の他にも契約社員や派遣社員といった非正規雇用など様々な雇用形態の社員が存在します。この非正規雇用の社員に対する「2018年問題」と呼ばれる問題が2018年に発生したことをご存知でしょうか?今回は、この2018年問題についてその概要から企業が実際に行った対応例について解説します。
2018年は過ぎていますが、2019年以降も引き続き企業に大きく関わってくる問題なのでぜひ参考にしてみてください。
2018年問題とは
まずは、2018年問題がどのような問題なのか、その概要を確認しましょう。
2018年問題とは、簡単にいうと労働契約法改正、労働者派遣法改正に伴う、有期雇用契約者の雇用形態や契約に関する問題です。
詳しくは後述しますが、これらの法改正によって企業で一定期間働いた有期雇用契約者は無期雇用に切り替えることができるようになります。ただ、無期雇用者が多くなると企業のコストが増大してしまう恐れがあるため、一定期間に達する前に雇い止めをする恐れがあります。これが大まかな問題の概要です。
2018年問題が契約社員・契約社員に与える影響
本来であれば、一定期間有期雇用契約で働いた後に、無期雇用へと転換できるはずが、直前になって契約を切られる可能性があるため、失業者が増えてしまう恐れがあります。
無期雇用になれば安定した状態で働き続けることができるため、そこを目指して数年間に渡って勤務した人の努力も一瞬で水の泡となってしまうのです。
労働契約法・労働者派遣法の何が変わったのか
2018年問題の原因とも言える労働契約法、労働者派遣法の改正ですが、具体的に何が変わって問題につながったのでしょうか。ここでは、法改正によって何が変わったのか解説します。
5年で無期雇用への転換が可能に
労働契約法の改正によって、従業員は有期雇用契約の締結、もしくは更新をしてから5年経過すると、無期雇用契約に転換することができるようになりました。
もし5年働いた社員から無期雇用への転換の申し入れがあった場合、企業はこれを断ることはできません。
5年のカウントがスタートする契約の締結、更新は2013年の4月1日からだったため、ちょうど2018年4月1日以降に有期雇用契約者の無期雇用への転換が始まることになります。
派遣社員を同じ部署に派遣できる期間が3年に変更
次に、労働者派遣法の改正によって、同一の派遣社員を同一の部署へ派遣できる期間が3年までとなりました。
一部例外もありますが、基本的には3年が経つと他の派遣社員に切り替える必要があります。それまで、その部署で長年にわたって働き、欠かせない存在になっている人でも3年以上はその部署に派遣されません。
これによって、新しい派遣社員に仕事を教える手間や時間、新しい派遣社員を雇用するリスクなどが伴うことになります。
派遣の受け入れ可能期間が3年に変更
企業が派遣会社から派遣社員を受け入れることができるのは原則として3年までになります。つまり、企業に対しても受け入れの制限がかかるということです。
ただし、派遣社員を受け入れる企業側が3年以上の受け入れを希望する場合は、その企業の労働組合(過半数を占めていること)などから意見を聞き、問題なければ3年以上の受け入れも可能になります。
ただし、先ほど紹介しているように、同じ部署への3年以上の派遣は不可となっているので注意してください。
無期労働契約への転換に企業はどう対応したか
すでに2018年問題は起こっていますが、各企業はどのように対応しているのでしょうか。続いては、企業による無期労働契約への具体的な対応を紹介します。
事例1:大同生命保険株式会社
大同生命では、2017年4月から有期雇用契約で働いている社員のうち、勤続年数が3〜5年の人を対象に一定の要件を達成し、本人も希望しているのであれば、無期雇用契約に転換できる制度を作りました。
無期雇用=正社員ではありませんが、無期雇用になることで、再雇用制度の対象になったり、賞与が増えたりといったメリットを享受することができます。
事例2:高島屋
高島屋では2017年5月から有期雇用契約の社員のうち入社から1年を経過した人を対象に無期雇用契約への転換を行う制度を始めました。
また待遇に関しても、休暇制度や再雇用制度など正社員と同レベルにまで引き上げるなどしています。
事例3:生活共同組合コープさっぽろ
コープさっぽろでは2014年6月に、これまでなかったエリア限定の正職員の区分を作り、有期雇用契約からの転換をできるようにしました。
エリア限定なので、異動は決められた範囲内にとどまる点が総合職の職員とは異なりますが、このポストができたことで正規の職員として働きたい人の受け入れが可能となりました。
事例4:有限会社COCO-LO
有限会社COCO-LOでは、全ての雇用区分の社員を対象に、契約を結ぶ最初の時点から無期雇用契約を結んでいます。つまり、会社として有期雇用契約の人が存在しないのです。また、雇用区分に関しては、自身の生活に合わせて正社員、時短勤務の正社員、準社員、パートの中から任意で選ぶことができるため、家庭と仕事の両立も可能になっています。
事例5:株式会社伊予銀行
伊予銀行では、勤続4年を超える専従行員、いよぎんスタッフと呼ばれる人たちを全員無期雇用契約に転換する制度を作りました。
法律の上では無期雇用への転換は5年ですが、その前に一律で無期雇用に転換します。転換にあたっては特に申し出などは必要ありません。
雇い止めから裁判に発展した例も
2018年問題に会社として適切に対応している企業がある一方で、中には無期契約に転換できる5年を前に契約を解除したり、契約更新の回数に上限を設けるルールを新たに作るようなケースもあります。
このような雇い止めに対して、有期雇用の社員が裁判を起こしているのも事実です。
裁判となると、企業のイメージダウンに繋がるほか、時間も費用もかかるなど、会社にとってのメリットはないため、急な雇い止めなどはしないように注意しなければいけません。
有期雇用契約者との契約を更新しない場合も、相手が納得できるようにしっかりと話し合うといった対応が必要です。
実は他にも2018年問題はある
ここまでは、有期雇用契約者と企業が関係している2018年問題を紹介しましたが、他にも2018年問題は存在します。続いては、大学と不動産に関連した2018年問題を紹介します。
大学に関連した2018年問題
大学における2018年問題とは、18歳の人口が2018年から減少し始めることです。これによっては、大学の経営難や学生獲得に向けた激しい競争が行われることが予想されます。
これまでも18歳の人口は減少していましたが、進学率がアップしていたこともあり、大学側に大きな問題が起こることはありませんでした。しかし、進学率もいつまでも伸びるわけではなく、頭打ちを迎えます。さらに、近年4年制大学の数も増えているとされているため、競争激化は避けられず、場合によっては定員割れや閉校に追いやられる学校も出てくるでしょう。
不動産に関連した2018年問題
不動産における2018年問題とは、オフィスビルの飽和によって需要と供給のバランスが崩れることです。需要と供給が逆転するのが2018年だとされていました。
また、先ほどの大学の2018年問題同様、少子化による人口減少によって、将来的には住宅も売れなくなると予想されています。
まとめ
今回は、2018年問題についてその概要や企業の取り組みについて解説しました。有期雇用契約の社員にとっては、無期雇用契約への転換ができるため、大きなメリットとなりますが、企業にとっては人件費がかかってくるため、難しい問題だと言えます。また、派遣社員の扱いについても同様です。対応の仕方を間違うと裁判になる可能性もあるので、企業は注意しなければいけません。