「同一労働・同一賃金」とは、雇用形態や賃金などの指標をガイドライン化したものです。
平成28年12月20に実施された「働き方改革実現会議」にて、同一労働・同一賃金ガイドラインの案が政府より発表されました。
今後の働き方においてガイドラインは重要視されるため、概要や企業の対応事例を知っておくことが重要になります。
今回は同一労働・同一賃金の基本的な概要や、メリット・デメリットについて詳しく解説します。
同一労働・同一賃金ガイドラインの概要
「同一労働・同一賃金のガイドライン」は、雇用形態に関係なく賃金や待遇の均等化を目指したものです。
企業または団体では、正規雇用と非正規雇用で明確な待遇差が存在するのが事実。その差を埋めるために同一労働・同一賃金が確定されたというわけです。
どんな雇用形態でも適切な待遇を受けられるようになり、働き方を自由に選べるようになります。
同一労働・同一賃金のガイドラインを定める目的
日本では非正規雇用の労働者の割合が増えており、悪い言い方をすれば使い捨てのように扱われる労働者が多くなっている傾向があります。上記で述べたように、労働者間の不平等を解消することが大きな目的です。
厚生労働省のHPでもガイドラインについて載っており、賃金だけでなくボーナスや各種手当についても該当します。正社員と同様に福利厚生や教育訓練も与えられ、事業種に向けた支援も行われます。
同一労働・同一賃金制度のメリット・デメリット
同一労働・同一賃金は、ドイツやフランスでも実施されており、働き方改革の一つとして期待されています。
メリットとしては、社員のやる気が向上することですね。待遇の格差が原因となるモチベーション低下を防ぎ、多様な働き方が可能となれば満足度も上がります。定着すれば、優秀な社員も長く働いてくれます。
一方、すべての社員の賃金を上げれば、その分だけ人件費も上がります。人件費が上がればその他の費用に影響を与え、投資または機材購入が困難になります。
他にも、これまでの報酬差が生じていた理由を説明する義務も出てきて、企業の責任がより大きくなります。
同一労働・同一賃金制度が広まっても、必ずしもメリットをもたらす訳ではありません。優れた業績を残さなければ、賃金向上や社員の環境改善までの道のりは遠いです。
同一労働・同一賃金制度はいつから導入されるのか
日本で同一労働・同一賃金が導入されるのは、大企業では2020年4月から、中小企業では2021年4月より施行が決定されています。
賃金や就業規則の見直しが求められていますが、期限は限られているため、企業によっては実際の導入が遅れる可能性もあります。
同一労働・同一賃金制度と派遣社員
同一労働・同一賃金制度は派遣社員も対象になっています。
派遣社員の待遇改善が求められており、また派遣に関するあらゆる情報を提供する義務が生じます。昇給や退職手当、あるいはボーナスの有無など、通常の社員と同等の待遇がうけられるようになります。
派遣の最大のデメリットは、短期間で職場が変わる可能性が高いことです。派遣先によっては給与が不安定になることが問題となっており、キャリアアップも困難になります。そうした状況を改善するためにも、派遣元事業主にも派遣社員の待遇改善が義務化されるようになりました。
同一労働・同一賃金制度に賛成している派遣社員は多い
すべての人が正規雇用で働けるわけではなく、何らかの都合で派遣社員として働かざるを得ない人もいます。そうした人が派遣社員のまま、これまでの給与体系で続ける状態が続けば、環境改善も困難です。
日本で最大級の規模を誇る派遣のお仕事サイトのエン派遣でも、派遣社員を対象にアンケート調査を行って、70%もの人が同一労働・同一賃金制度に賛成したというデータがあります。
引用:派遣社員300人に聞いた! 「同一労働同一賃金」意識調査 ー『エン派遣』ユーザーアンケートー
派遣社員が制度に期待していること
同一労働・同一賃金制度に期待されていることは、主にボーナスの支給や給与アップについての項目がほとんどです。
派遣社員は正規雇用と異なり、ボーナスの支給がされるとは限らず、また給与アップの額も少ないです。他にも交通費の支給や評価が明確になることも期待されており、この制度によって待遇改善されることが派遣社員に期待されています。
同一労働・同一賃金は正社員にとってメリットはあるの?
賃金の格差是正は派遣社員に期待されていますが、正社員とのバランスをどのようにして取るかも課題になっています。
正社員の待遇を下げることで同一労働・同一賃金制度を実現させる企業が増えるという懸念もあり、厚労省も望ましくないと述べています。
また、派遣社員と正社員では知識や経験も異なっており、そこに同一労働を実施してはトラブル防止に多大な負担となります。労働の内容に差があるため、同一労働・同一賃金を実施する必要がないと考える企業もあります。
実現のためには正社員と派遣社員の仕事の違いを明確にしながら、労働環境の整備が企業には求められます。
同一労働・同一賃金のガイドライン案の項目とポイント
同一労働・同一賃金のガイドラインには、重要視される項目とポイントがいくつかあります。
正規雇用と非正規及び派遣では待遇が異なりますが、具体的な違いについて紹介します。
1:基本給
社員の経験や能力に応じて基本給が決まります。
非正規の労働者が企業の求めるスキルを持っていれば、正規と同様の給与が得られます。反対に、今のスキルが企業が求める条件を満たせていなければ、基本給は変わります。
また、経験も業務との関係次第で基本給が変動し、勤務年数も昇給に影響します。基本給の差を埋めたい場合、まずはスキルを見直してみましょう。
2:賞与・手当
同一労働・同一賃金において、賞与と手当についても社員のスキルが左右されます。
役職や特別作業はもちろんのこと、休日や深夜の出勤手当も支払われることになりますが、支給条件を満たすことが大事です。企業に対する貢献に応じて賞与・手当も変わると考えましょう。
過去には、株式会社ハマキョウレックスと有期雇用契約を締結している契約社員の間で、正社員に支給されている手当てが契約社員に支給されないのは不当という訴えが出ました。
最高裁にまで至るまでの裁判になり、最終的には手当の格差が不合理との判断が出ています。
同様に、長澤運輸においても手当の支給についての裁判が行われて、正社員以外に手当が支払われないことを不合理と判断されました。
これら二つの裁判によって、今後は非正規社員でも賞与・手当の支給が行われる企業の増加が期待されます。
3:複利厚生
福利厚生は企業に設置された食堂や休憩室、更には更衣室や社宅の利用が許可されることです。他にも病気または慶弔など、特別な事情による休暇や有休の保証も該当します。
労働基準法ではアルバイトでも有給休暇が保障されているように、非正規社員でも福利厚生が義務付けられています。安全に働けるようになるためにも、充実した福利厚生が非正規社員にも必要です。
4:その他
上記で紹介した項目の他にも、非正規社員に対する教育訓練も該当します。
同一労働・同一賃金の実現には、社員一人一人のスキルアップが必要となり、生産性の上昇に繋げることが大事です。不足したスキルは企業側からもある程度のサポートが必要となります。
他にも、安全管理に関係する措置も正社員と同等に用意する義務があります。建築業は命にかかわるため、非正規雇用でも徹底した安全管理が必要で、労働内容に応じた給与も必要です。
同一労働同一賃金に対して企業が準備すべきことは
同一労働・同一賃金のガイドラインはあくまでも方針であって、その通りに運用されるとは限りません。正規と非正規に問わず待遇の均等化を起こすのであれば、客観性と正当性の二つが求められます。
同一労働・同一賃金を導入するのであれば、事前に準備するべきことを知っておきましょう。必要なポイントについて解説します。
見直しが必要になるポイントをまずはしっかり把握する
まずは同一労働・同一賃金の導入のため、見直しが必要となるポイントを把握しましょう。
社員一人一人の職務の違いを明確に、範囲を決めておくことで給与も決まります。
正規と非正規で仕事内容を明確に区分にすれば、賃金体系も維持できるというもの。個人の能力ではなく、職務によって給与を変えていけば、支払いも構成になります。
他にも、評価制度を誰にでもわかるように設定すれば、仕事におけるやる気も引き出しやすくなります。法改正が実施される前に、仕事の状況を把握した上で問題解決に向けた取り組みを始めてみましょう。
人事制度や就業規則を点検して課題を整理する
既存の人事制度や就業規則を点検し、課題を整理することも同一労働・同一賃金の導入には必要です。
例え法律が変わっても、企業の制度や規則を変えなければ働き方改革は実施されません。待遇の改善はゴールではなく、継続させることで多様な働き方と生き方を実現させることが本質です。
人事制度と就業規則を整理して、何か改善できる個所があれば尽力し、そして同一労働・同一賃金を実現させた企業の事例も知ってみましょう。
イケアジャパンの事例
イケア・ジャパン株式会社では2014年9月から新しい制度が運用されるようになり、すべての社員に同一労働・同一賃金が適応されるようになりました。
正社員と同様の待遇を保証した上で多様な働き方を認めて、パートタイムで働いた社員を短時間正社員として契約可能となりました。フルタイムの正社員になることも可能であり、安定した働き方によって社員一人一人のやる気と責任感が向上しました。
当然ながら、業績も向上しており、イケアの社員全員がスキルアップの機会が得られています。同一賃金よりも、働き方の選択肢を増やすことを目的にしており、時間に関係なく仕事を効率よく進められるようになりました。
イケアは社員数も多いため、人を大事にすることが求められています。そのため、今後の取り組みにも期待できるでしょう。
りそな銀行の事例
りそな銀行では2003年に行った厳しいリストラによって、残った社員の力を活かすための策として選ばれたのが同一労働・同一賃金でした。
仕事による責任の違いによって正規と非正規によって給与格差がありますが、イケアのように多様な働き方を提供し、人材確保に取り組んでいます。
2015年10月よりスマートシャインという制度が導入されて、育児や介護などの都合に合わせて時間と業務内容を選べるようになりました。
スマート社員のほとんどが女性であり、正社員からスマート社員になることができれば、反対に正社員として雇用される場合もあります。柔軟な働き方によって、退職するケースも減らせるようになりました。
エフコープ生協労働組合の事例
エフコープ生協労働組合でも同一労働・同一賃金の実施によって、非正規社員でも正社員を超える月給を得られるようになり、ニュースでも取り上げられています。
一方で、勤続年数が増える年齢給が廃止されたことで、一部の正社員に戸惑いが生じました。年数による昇給が保障されなくなり、安定がなくなることが大きなデメリットになっています。
同時に、中途採用でも貢献度によって評価される「職能給」が導入されたため、中途採用でもチャンスを掴めるようになりました。正規と中途で採用された人の差を後の努力で埋められることで、やる気が上がった社員もいます。
調査では賛否両論になっていますが、今後はどんな人でも自由に働ける環境が広がっていくことが期待されます。
同一労働・同一賃金で労働の不満解消を目指す
賃金格差の解消に向けた取り組みは進んでいますが、同一労働・同一賃金の実現には課題が多いのも事実です。同一労働・同一賃金ガイドラインは誰でも確認しやすくなっているため、まずは全員が概要を把握することが大事です。
ガイドラインで重要視されている項目やポイントをチェックして、どうすればクリアできるのかを考えてみましょう。企業と社員、双方の努力があってこそ同一労働・同一賃金による多様な働き方が実現できます。
同一労働・同一賃金に期待する社員や、既に実施している企業も多いため、今後の広がりも期待できます。