職務分掌とは、組織において職務ごとの役割・責任を明確に定めることを意味します。
組織運営をする上で職務分掌が注目される理由は、職務ごとの役割・責任が曖昧だと部門間で軋轢が生じたり、個人に職務が集中することで不正が起こったりするためです。
こうしたリスクを防ぐために職務分掌をきちんと決めておくことが大切になるのです。今回は職務分掌の意味・職務分掌表・職務分掌規程の作り方などを詳しく解説していきます。
職務分掌とは
職務分掌とは前述の通り、組織において職務ごとの役割・責任を明確に定めることを指します。この章では、職務分掌と業務分掌との違い、職務分掌が必要な理由などについて詳しく説明します。
職務分掌と業務分掌の違い
職務分掌と似たような言葉に業務分掌があります。業務分掌とは、組織において各部門が果たす責任・権限を明確化するために、部門ごとの業務範囲を整理することを指します。
職務分掌は、代表取締役、専務取締役、各個人の職制など個人の職務についても役割を明確化したものという違いがあると認識しておきましょう。
職務分掌が必要な理由
なぜ職務分掌が必要なのかというと、組織を運営するにあたって、部門が担う業務や個人の職務を定めておかなければ、「この仕事は誰の仕事か?」など、各部門間で軋轢や混乱が生じるリスクがあります。
巨大な組織になればなるほど、各部門の職務の区分けは複雑化します。本来は規模の拡大に伴ってマネージャーを置くなどの対策が必要になりますが、組織が大きくなるごとに管理コストが発生します。
また、特定の個人に職務が集中すると、不正が起こるリスクもゼロではありません。こうした問題を防ぐためにも、業務内容・職務権限を明確化しておく必要があるのです。
職務分掌を行うメリット・デメリット
職務分掌を設定するメリット・デメリットについて詳しく解説します。
職務分掌のメリット
職務分掌のメリットとしては、以下の3つがあります。
- 合理的な組織運営が可能
- 人材育成をしやすい
- 内部統制とリスクマネジメント
1:円滑な組織運営が可能
組織の規模が大きくなればなるほど、職務の権限があいまいになると軋轢や混乱が生じやすくなるもの。職務分掌によって職務の権限や役割を明確に定めることで、「部門がやるべきこと」「個人がやるべきこと」が明確化されます。
適切なマネジメントを遂行すれば、軋轢や混乱は生じにくくなります。個人がどんな職務を遂行すべきかが明確化され、従業員の間でも職務分掌の認識が浸透すれば、円滑な組織運営を図れるようになるでしょう。
2:人材育成をしやすい
職務分掌は個人の人材育成にも役立ちます。個人がどんな職務を遂行すべきかが明確化されれば、業務の効率化を図れます。効率的に仕事ができるようになれば、従業員は自分の職務に集中できるというもの。上司も部下に対して明確な目標設定を行うよう指示できるでしょう。
部下は自分の職務の役割・権限が明確になっているので、目標の達成に向けてモチベーションを持って主体的に取り組むことができるようになります。職務分掌が、個人の人材育成に役立つゆえんといえるでしょう。
3:内部統制とリスクマネジメント
職務分掌を行うことでしっかりとした内部統制を敷くことができます。職務の責任範囲が明確なので、誰が何をやれば良いのかがわかりやすく開示されることになります。
チーム・個人の役割が明確になることで、業務重複による軋轢やトラブル、不正などが起こりにくくなるもの。組織で起こるあらゆる不正へのリスクマネジメントになるのです。
職務分掌のデメリット
職務分掌のデメリットとしては、以下の2つが挙げられます。
- 硬直化した組織
- 責任の押し付け
1:硬直化した組織
職務分掌によって個人の責任・役割が規定されることで、指揮命令系統も明確化します。確かにメリットもありますが、命令を下す側のアクションが行われるまで、個人が動かない硬直化した組織になってしまうリスクが生じます。このリスクを防ぐには、職務分掌を定めるだけでなく従業員の主体性を高めるための施策が必要になります。
例えば、目標設定理論に基づいた目標管理を行うことで、従業員は職務分掌に規定された責任・役割の中で主体的に仕事に取り組むようになるでしょう。
2:責任の押し付け
職務分掌によって職務の責任・役割が明確化されることで、「これはあなたの仕事だから私はやらない」といった責任の押し付けにつながるリスクがあります。本来、職務分掌によって主体的な行動を促し人材育成につながるはずが、職務分掌への認識の共有がしっかりなされていないことによってトラブルが生じてしまいます。そうならないためには、職務分掌を定める際に、部門間で綿密な意見のすり合わせを行う必要があります。
職務分掌規程とは
職務分掌を定める社内規程として職務分掌規程があります。作成する際のポイント、テンプレートなどについて解説していきます。
職務分掌表を作成するときのポイントは?
職務分掌表を作成するときのコツは、職務分掌に関して経営層との意見を聞いておくことです。
経営層は自分の会社の職務分掌について具体的なビジョンを持っています。特に職務分掌は内部統制やリスクマネジメントとの関わりを持つので、経営層のビジョンを把握することで、内部統制・リスクマネジメントを具体的に構築する際に役立ちます。
また、職務分掌表を作成するポイントとして、各部門の管理職から仕事内容を提出してもらう必要があります。これは、各部門の仕事の種類をまとめて職務分掌表を作成していくからです。職務分掌表は作成者個人の主観に依存しがちとなるので、作成後は各部門の管理職に確認してもらうようにしましょう。
尚、職務分掌表を確認してもらう時には、「本来あなたの部門でやるべき仕事か否か」を銘々の管理職にチェックしてもらうようにして下さい。職務分掌表は職務分掌規程の骨格となるものなので、妥協せずに各部門とのすりあわせを綿密に行います。
職務分掌表を作成したらいよいよ職務分掌規程の作成にとりかかります。職務分掌のメリットに「円滑な組織運営」「人材育成」がありますが、そのためには規程の成否が鍵を握ります。
規程を作成することで職務の責任と権限を明確化しますが、職務にある程度の裁量を持たせるようにして下さい。
職務分掌表のテンプレートも
職務分掌表のテンプレートは、PDF形式のものであれば無料で入手することができます。
テンプレートはそのまま流用せずに、あくまでも参考程度に使用するのが良いでしょう。社内の規則や経営陣の意見を反映させた職務分掌表を作成してください。
職務分掌規程の作り方について
最後に、職務分掌規程の作り方について具体的に見ていきましょう。
会社全体の組織図を作成する
職務分掌を作成するためには、全社の組織を把握する必要があります。把握するためには会社全体の組織図を作成します。本社・支社・営業所ごと、そして各部門・部署についての詳細な組織図を作ります。
職務単位での組織図を作成
組織図は職務単位でも作成する必要があります。本社・支社・営業所ごと、部門・部署ごとにどんな役職があり、どんな職務を担っているか、細分化して具体的に記述します。
2つの図をもとに職務分掌規程を整理する
会社全体および職務単位での組織図を元に職務分掌表を作成、さらに職務分掌規程に落とし込んで下さい。
職務分掌で快適な職場環境を作ろう
職務分掌は内部統制、リスクマネジメントを始め、業務の効率化や人材育成に役立ちます。
一方で硬直化した組織になったり、責任の押し付け合いになるリスクもあります。曖昧な職務分掌で留めず組織内で充分に意見交換を行い、ある程度の自由度を担保した職務分掌を構築していきましょう。