「企業」と聞いてイメージするのは、社長をトップとして、その下に各部署があり、社員はいずれかの部署に所属するのが一般的でしょう。しかし近年では、社内の所属先が複数あるケースが出てきました。
こういった形の組織をマトリクス組織と言います。会社によっては事業区分が分かりやすくなる反面、フローが煩雑になりやすいデメリットもあります。
今回はマトリクス組織の概要からメリット・デメリット、具体的な事例などについて解説します。
マトリクス組織について詳しく解説
マトリクス組織という言葉の意味について簡単に解説します。
まず「マトリクス」というものは、行と列の格子状の配列のことを指します。マトリクス組織とは、網の目のような格子状の部門編成をしている組織のことを指します。
例えば「職能×エリア」「事業×エリア」といった具合に、様々な要素によって組み合わせが作られます。
「職能×エリア」の場合、職能別の仕事をしながらエリア別の仕事をするということになります。そのため、社員は職能別の部門に所属しながらエリア別の部門にも所属する形をとることになります。
このように様々な要素を組み合わせることで作られる組織形態をマトリックス組織と言うのです。
マトリクス組織が注目されている理由
今や日本企業がグローバルなフィールドで活動することは当たり前のような時代になっています。
グローバル企業の場合、商品を作るための資材調達や管理の統括はグローバル視点で行うことになります。しかし実際に各国で商品を展開するときは、その国の実態に即したマーケティング活動を行う必要があるため、ローカル視点で行うことになります。
ビジネスがより高度化し、グローバルとローカルといったような2つの視点が必要になる際に役立つのがマトリクス組織です。
マトリクス組織とプロジェクト型組織との違い
ビジネスにおける組織形態の1つにプロジェクト組織というものがあります。
これは、プロジェクトが発生するたびにプロジェクト専門チームを作り、チーム単位でプロジェクトに取り組むといった形の組織になります。全国的な展開を行っている企業や規模の大きい組織において用いられる組織形態です。
マトリクス組織と似ているように思うかもしれませんが、プロジェクト組織はあくまでもプロジェクトのためにチームが組まれているだけであり、所属先は元の部門や部署のみです。そういった点で複数の組織に所属することになるマトリクス組織とは異なると言えます。
マトリクス組織と機能型組織との違い
同じく組織形態の1つに機能型組織というものがあります。
機能型組織とは、組織の持つ機能を部門別に分類し、プロジェクトが発生した際に各部門から適切な人材を送り込むという形の組織形態です。
プロジェクト組織がプロジェクト専門のチームを作っていたのに対して機能型組織では、専門チームを作るわけではありません。また、マトリクス組織のように所属先が複数あるわけでもありません。
マトリクス組織の種類
マトリクス組織には、大きく分けて「バランス型」「ストロング型」「ウィーク型」という3種類が存在します。
続いては、この3種類について、それぞれがどういったものなのか解説します。
バランス型
バランス型は、プロジェクトチームのマネージャーをチーム内から選出する形になります。
チーム内からマネージャーが選ばれるため、プロジェクトの進捗状況などの全体把握が可能となります。そのため、バランス型はシステム開発を手掛ける企業などプロジェクトを多数抱える企業などで主に取り入れられています。
ただし、プロジェクトチームのマネージャーとは別に自分が所属する部門ごとのマネージャーも存在することになるため、上司が2人存在することになります。そうなると、複数の人から指示を受けることになるため、混乱が起こる可能性もゼロではありません。
ストロング型
ストロング型は、プロジェクトチーム専門のマネージャーを配置する形になります。
専門のマネージャーなので、プロジェクト寄りの組織運営が可能となります。専門のマネージャーを置くことで指示系統がはっきりとするため、プロジェクトチームのメンバーも仕事に取り組みやすくなります。
一方で、ストロング型では、プロジェクトチームの独立性が高いため、プロジェクトの数が少ない企業や小規模の企業となると行うことが難しいと言えます。
ウィーク型
ウィーク型では、プロジェクトにマネージャーを配置しません。
マネージャーがいないので、プロジェクトメンバーは各自が自分の考えで判断を下し、行動することになります。
指示系統がないため、進行スピードが遅かったり、非効率な業務が行われたりする恐れがありますが、状況に応じた柔軟な対応を取ることが可能です。
マトリクス組織のメリット・デメリット
マトリクス組織を導入するときに覚えておきたいメリット・デメリットについて解説します。
マトリクス組織のメリット
マトリクス組織においては、社員が複数の部門やチームに所属することで、部門間の障壁がなくなるというメリットがあります。
領域が複雑かつ細かく分かれている場合、業務に携わる場合もそれに合わせたミクロなチーム選定が必要になります。マトリクス組織を編成しておけば、チームの役割や目指すべき目標が明確化されます。
また、障壁がなくなることで、会社の風通しが良くなり、同じ目標を持って業務に取り組むことが可能です。部門を超えたコミュニケーションの機会も増えるので、密な関係性を築くこともできます。
マトリクス組織のデメリットや問題点
マトリクス組織のデメリットとしてあげられるのが、複数の組織に所属することによる業務の複雑化です。
所属する組織・チームが多くなってくると、優先順位や担当すべき業務の線引きが曖昧になってきます。優秀なマネージャーがいれば、明確な規定を設定されている可能性もありますが、結局は運次第なところがあるでしょう。
成長速度重視のベンチャー企業タイプであれば、線引きが曖昧なままプロジェクトがスタートしてしまうこともあり得ます。
また、上司が複数人存在することになるため、指示系統が複数できて、混乱を招く恐れがあります。
マトリクス組織の成功事例を企業別に紹介
最後に、マトリクス組織を導入した企業の事例を3つ紹介します。
トヨタ自動車
日本を代用するグローバル企業であるトヨタは2016年3月にマトリクス組織を導入することを発表しました。
組織の構造としては、第1トヨタ、第2トヨタといった形の地域別の組織と小型車、乗用車、商用車、高級車といった車のタイプ、先進技術、パワートレーン、コネクティッドといった技術分野の組織でマトリクスを構成しています。
以下のような形をイメージしてください。
分類 | 第1トヨタ | 第2トヨタ |
小型車 | ||
乗用車 | ||
商用車 | ||
高級車 | ||
先進技術 | ||
パワートレーン | ||
コネクティッド |
この組織構造によって、よりローカルな市場の動向が把握しやすくなり、地域に応じた販売戦略の立案に専念できるようになりました。
村田製作所
主に電子部品の製造を手がける村田製作所では、以下の形でマトリクス組織が構成されています。
分類 | 調合 | 成形 |
コンデンサー | ||
圧電部品 |
同社では、これを本社の社員が横断する形で担当することになっています。そのため、縦・横+横断ということで「3次元マトリクス組織」と言われています。
この組織形態によって、事業別の組織間で効率的な連携が取れるようになり、業務における無駄を省くことが可能になりました。
株式会社トライフォート
スマートフォン向けのアプリやゲームの開発を手掛ける株式会社トライフォートでは、組織を技術とプロジェクトで区切り、その両方に社員を所属させる形を取っています。
アプリやゲームの開発においては、技術別にもプロジェクト別にも組織を区切ることができますが、どちらが正しいというわけではありません。そのため、技術とプロジェクトの両方の組織に所属する形を取っているというわけです。
この組織形態を導入したことによって、エンジニアのやりたいことに応えやすい環境が構築されました。エンジニアが自身のパフォーマンスを最大限に発揮できる仕組みができているのです。
2つの組織に所属することで、評価もしやすくなっています。例えば「プロジェクトチーム内では活躍していなくても、技術を部門においては高い技術力を発揮して活躍している」といった具合に、複数の視点から評価を下すことが可能になっています。
マトリクス組織で業務を明確化しよう
今回は、マトリクス組織の概要からメリット・デメリット、具体的な事例などについて解説しました。
マトリクス組織の導入は決して簡単にできるものではありません。また、すべての企業に向いているものでもありません。
しかし、うまく導入することができれば、社員の可能性を広げることができ、会社としてもより効率的な企業活動ができるようになるでしょう。