選択と集中の意味とは?成功・失敗事例と本なども紹介

選択と集中の記事
「選択と集中」とは、誰しも聞いたことのある経営学の用語です。自社の強みを見極め、そこに集中的に経営資源を投入することで業績の向上に向ける経営戦略の1つです。日本企業でも多くの成功事例があり「選択と集中」の概念は日本企業の内部に深い影響力を持っています。一方、失敗事例もあります。本記事では「選択と集中」のメリット・デメリット、事例や「選択と集中」の理解を助ける書籍の紹介等をしていきます。
目次

選択と集中とは

選択と集中とは
「選択と集中」は、自社の強みを見極めて経営資源を集中的に投入して業績向上を目指す経営戦略のことです。オーストリア出身で米国の経営思想家ピーター・ドラッカーが提唱しました。「選択と集中」は、実業家ジャック・ウェルチがゼネラルエレクトリック社(GE)で広めたことで広く知られるようになっています。

ちなみに英語ではSelection and ConcentrationやConcentration in Core Competenceと訳されています。Core Competenceは日本語でコア・コンピタンスと呼ばれ、「他者が真似できない独自の技術やスキル」の意味として知られている用語です。

事業における「選択と集中」の意味

事業における「選択と集中」の意味は、経営資源を自社の強みとする分野に投入することで会社を育てていく点にあるでしょう。これまで儲かっていたからといって今後も儲かり続けるとは限りません。従って、自社の強みは何かをしっかりと見極め経営資源を投入し育成していくことで企業の成長が見込めるようになり、「選択と集中」の意味合いはまさにそこにあります。

選択と集中が重要視される背景

「選択と集中」はなぜ重要視されるのでしょうか。日本企業で考えてみると、失われた20年と揶揄されるように、日本企業の成長が鈍化して(GDPの低成長率に現れる)、日本企業がアメリカ・ヨーロッパ、そして新興国であったアジアの企業に勝てなくなったからです。

つまり、これまでの成功体験が通用しなくなったゆえに、日本企業では「選択と集中」が重要視されるようになりました。かつて日本企業は多くのイノベーションを起こしてきたのに、なぜ、イノベーションが起こせなくなったのか。自社の強みが何でありどう育成していけば良いのか分からなくなってきたことが背景にあります。

選択と集中を行うメリット・デメリット

選択と集中を行うメリット・デメリット
「選択と集中」を行うメリット、デメリットを紹介していきます。

選択と集中のメリット

「選択と集中」の3つのメリットを解説します。


1.「選択と集中」がイノベーションに繋がる
2.コストを削減できる
3.業績が向上して安定する

1.「選択と集中」がイノベーションに繋がる
「選択と集中」を行うと、自社の強みが分かり経営資源は強い分野に投資されていきます。強みに投資されていく訳なので優れた商品を生み出せるようになります。また、コア・コンピタンスに象徴されるように他社に負けない自社独自の優れた技術・スキルが磨かれていき、革新的な商品が生み出されることになります。従って「選択と集中」を通じてイノベーションを生み出すことに繋がります。

2.コストを削減できる
自社の強い分野に経営資源を投資していくということは、弱みの分野への投資は必然的に減じられます。結果として、経営資源が効率的に配分されることになり、コストが削減されていきます。

3.業績が安定し、向上していく
自社の強い分野に経営資源を投入して無駄な投資を減じていくということは、業績安定に寄与します。また、イノベーションが生まれていけば業績は安定するだけでなく向上していくことになるでしょう。

選択と集中のデメリット

「選択と集中」の2つのデメリットを紹介します。

1.人材が減少する
「選択と集中」は自社の強みに経営資源を振り分ける代わりに、弱みには振り分ける投資額は減じられていきます。これが無駄を省き経営の安定化を招く訳ですが、同時に不採算分野を見極めることになります。結果的にこのことが人件費削減や希望退職等のリストラへのステップを踏むことになり、人材が減少していきます。不採算分野だからといって中には優秀な人材がいる可能性がありますので人材の減少はデメリットと言えます。

2.倒産リスクがある
「選択と集中」によって企業は業績を安定させイノベーションを起こす原動力を生み出します。しかし、間違った分野を選択して経営資源を集中させてしまうと、経済の変化に対応しきれないことがあります。「選択と集中」を推進する余りリスクヘッジをしておかないと経済環境の変化に対応しきれずに業績が低迷し、結果的に倒産するリスクを負うことになりかねません。

選択と集中の成功事例

選択と集中の成功事例
「選択と集中」の成功事例を紹介していきます。まずは「選択と集中」を広めたゼネラルエレクトリック社(GE)。次に日立、武田薬品という2つの日本企業の事例を紹介していきます。

GEの事例

GEの「選択と集中」は1981年~2001年にかけて経営者を務めたジャック・ウェルチによって実行されました。ウェルチが率いた頃のGEは350の事業を抱えていましたが、その中で15の事業が収益の90%を稼いでいることが分かります。そこでウェルチはピーター・ドラッカーのコンサルティングを通じて「選択と集中」を実行しました。そこで、GEが世界で1位か2位を取れる事業のみを残し業績を大きく向上させています。

日立の事例

日立製作所はリーマンショック後に約7,800億円もの巨額の赤字を計上しました(2009年)。当時社長に就任した川村隆は、「選択と集中」を行い日立の強みを情報通信事業や社会インフラ事業に設定して経営資源を投入しました。結果、日立製作所は2年後の2011年に過去最高の当期純利益を確保しました。「選択と集中」が成功した結果です。

武田薬品工業の事例

武田薬品工業は、2014年にクリストフ・ウェバーを社長に迎え「選択と集中」を進めてきました。同社は創薬研究や新薬開発を「選択と集中」に定めて経営資源を投入しています。「選択と集中」の一環で海外の企業を買収し、2018年にはアイルランドの製薬会社シャイアーを買収する等、事業規模を拡大させています。武田薬品企業は買収を進めるだけでなくノンコア事業を売却することも進めています。

選択と集中の失敗事例

選択と集中の失敗事例
「選択と集中」は成功例ばかりではありません。失敗事例もあります。「選択と集中」の失敗事例として引き合いに出されるのがシャープの事例です。

シャープの事例

シャープの液晶テレビは高品質なテレビと評価され、特に三重県亀山市で生産していたテレビは「世界の亀山モデル」と呼ばれていました。シャープは液晶事業を「選択と集中」の中核として掲げることで成功してきたのですが、リーマンショックやアジアの低価格商品に対抗し切れずに失敗し、大手電機メーカーとして初の外資系傘下に下ることになります。このように、「選択と集中」が失敗すると、デメリット2で述べた倒産リスクにさらされる結果となる訳ですね。

自社の強みを整理するためのフレームワーク

自社の強みを整理するためのフレームワーク
「選択と集中」は自社の強みを見極め、経営資源を投入して企業価値を高め業績を向上させていくこと。自社の強みを整理するためのフレームワークを3つ紹介します。

3C分析

3C分析はCustomer(市場・顧客)、Competitor(競合)、Company(自社)の3つのCを分析するマーケティング手法の1つ。市場・顧客、競合、自社の3つの環境で分析していくことで最終的に自社の強みが見えてきます。

SWOT分析

SWOT分析は強み・弱み・機会・脅威の4つの頭文字から生まれたフレームワークです。外部環境・内部環境を分析して、自社のマーケティング戦略を決定していきます。自社の強みは機会と脅威の2つとクロス分析することで整理されます。

PEST分析

PEST分析は、マクロ環境分析を行うフレームワークです。PESTとは、政治・経済・社会・技術の頭文字です。マクロ環境によって自社はどんな位置あるのか、そして自社の強みはどこにあるのかが整理されます。

選択と集中にまつわる本

選択と集中にまつわる本
「選択と集中」をさらによく知るための書籍を3冊、紹介します。

選択と集中の意思決定

『選択と集中の意思決定 事業価値最大化へのディシジョン・マネジメント』は、経営コンサルタントによる「選択と集中」を学ぶための本。多くのケーススタディを交えて戦略的意思決定のエッセンスを知ることができます。

選択と集中の戦略

『選択と集中の戦略』は、ハーバードビジネスレビュー編集部による「選択と集中」の論文集です。パッチング、共進化、シンプル・ルール等独自の理論を知ることができます。理論的な本であり論文集なのでケーススタディは少な目。

仕事は8割捨てていい

『仕事は8割捨てていい インバスケット式「選択と集中」の技術』は、インバスケット式で「選択と集中」思考を鍛える本です。ストーリー仕立てで面白く書かれています。そのため、読後に自分の周りにある要るもの、要らないものの整理、そして自身の強みが分かるようになります。これを会社にあてはめれば「選択と集中」のイメージができるでしょう。

まとめ

選択と集中のまとめ
「選択と集中」は、GEのジャック・ウェルチの実践によって世界に名を轟かせました。日本企業にも日立製作所、武田薬品工業等の成功事例があります。実業家はもちろん、マーケテイング担当者、上級管理職は「選択と集中」を学習し自社の強みはどこか、どこに経営資源を投入すべきかを考えるきっかけにしてみてはいかがでしょうか。

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