変形労働時間制とは、月の合計労働時間の範囲内であれば自由に労働時間を調整できる制度のことです。
この記事では変形労働時間制の仕組みや導入の注意点、メリット・デメリットなどについて、実例を交えつつ解説します。
変形労働時間制とは?
労働基準法で定められている労働時間は「週40時間・1日8時間」となっています。
一方で、繁忙期や閑散期がある会社もあります。例えば今週は忙しくて48時間の労働時間が発生しそうだけれど、来週は閑散期なので32時間で済みそうだというケース。
そういった繁閑期に対応するため、変形労働時間制という制度が労働基準法で定められているのです。
変形労働時間制という制度は、通常1日単位で労働時間を計るところを、年単位・月単位などで調整することできる制度のことをいいます。
この制度を使うと、繁忙期で勤務時間が変動しても時間外労働として扱う必要がありません。つまり残業代を払わなくても良いということになります。
繁閑がはっきりしている企業にとっては、変形労働時間制を採用することで、残業代のコストを低減できる効果が期待できます。
ただし導入にあたっては注意点もあります。
フレックスタイム制との違いは?
労働時間の制度には、「フレックスタイム制」という制度もあります。こちらは労働者自身が出勤・退勤の時間をある程度決められる制度のこと。変形労働時間制よりも柔軟な働き方ができる制度です。
ただしフレックスタイム制が導入されているとしても、いつでも働いて良いとも限りません。コアタイムという「必ず働かなければいけない時間」を設けている企業がありますので、その時間には必ず勤務する必要があります。
コアタイムを除いて柔軟な働き方ができるのがフレックスタイム制ということになります。
裁量労働制との違いは?
変形労働時間制・フレックスタイム制に似た制度として「裁量労働制」という制度もあります。
労働時間が労働者の裁量に委ねられている働き方のこと。つまり、みなし契約時間を7時間に設定した場合、10時間働こうが、4時間しか働かなかろうが7時間働いたものとみなす仕組みです。
変形労働時間制との違いは、労働者に労働時間の裁量が委ねられているところです。
変形労働時間制では働く時間が決まっていましたが、裁量労働制にはそれがありません。それだけ自由な働き方ができる仕組みとなっています。
変形労働時間制の条件
変形労働時間制は繁閑の差がある企業にとって利便性の高い仕組みであることが分かりました。
ではどんな企業でも変形労働時間制を採用できるのかというと、そうとは限りません。1ヶ月単位なのか1年単位なのかによって条件が変わります。詳しく見ていきましょう。
1ヶ月単位の変形労働時間制
まず、1ヶ月単位の変形労働時間制を導入するには、以下の条件を満たす必要があります。1つでも満たしていないと1ヶ月単位の変形労働時間制が無効になってしまうので注意したいところですね。
- 労使協定、就業規則などで変形労働時間制について定めること
- 労使協定、就業規則などで次の内容を定めて届け出ること
- 変形期間を1ヶ月以内として、起算日を定めること
- 1ヶ月以内の一定期間を平均して週40時間を超えないように定めること
- 各日、各週の労働時間を特定すること
1年単位の変形労働時間制
1年単位の変形労働時間制を導入するには以下の条件を満たす必要があります。こちらも1ヶ月単位の変形労働時間同様、1つでも満たしていないと無効になってしまうので注意しましょう。
- 労使協定、就業規則などで変形労働時間制について定めること
- 労使協定で次の内容を定めて届け出ること
- 対象労働者の範囲
- 対象期間と起算日を定めること
- 特定期間(対象期間中、特に繁忙な期間を特定期間として定めることが可能)
- 労働日・労働時間
- 労使協定の有効期間を定めること
変形労働時間制における休日
変形労働時間制において必要な休日は、所定労働時間によって変わります。
例えば所定労働時間が8時間であれば…
31日・30日・29日の月で必要な休日は【9日】、28日の月は【8日】
所定労働時間が7時間であれば…
31日・30日・29日・28日のいずれも休日は【6日】
がそれぞれ必要になります。
変形労働時間制における残業の扱い
変形労働時間制は、年単位・月単位を基準として、1日8時間、週40時間を超える労働をしても残業代を支払わない制度でした。
でも絶対に残業代が支払われないかというと、必ずしもそうではありません。残業代を支払わなくてはいけないケースを、1ヶ月単位の変形労働時間制を元にご紹介したいと思います。
1ヶ月単位の変形労働時間制の場合は、1日・1週間で見ていきます。
例えば1日の所定労働時間が9時間の曜日で、実労働時間が9時間だとします。これは法定労働時間(8時間)でみれば残業代を払うように見えますが、1ヶ月単位の変形労働時間制を導入していますから、残業代を払う必要がないです。
逆に、1日の所定労働時間が6時間の曜日で、実労働時間が9時間だとします。これは法定労働時間(8時間)を超えていますから1時間の残業代を支払わないといけないことになります。
1年単位の変形労働時間制の場合も1日・1週間で残業代を見ていくのは、1ヶ月単位の変形労働時間制と同様。
変形労働時間制を導入する際の手順は?
変形労働時間制を導入する際の手順について説明します。導入の手順は、就業規則に「変形労働時間制」について明記することから始めます。
制度として導入する場合は、明記は必ずしなければなりません。
1ヶ月単位の変形労働時間制であれば、就業規則もしくは労使協定、1年単位の変形労働時間制であれば労使協定の締結が必要となります。
変形労働時間制を採用したい場合に届出は必要?
変形労働時間制を採用したい場合、届出は必要なのでしょうか?届け出る必要があるケースが多いです。
1ヶ月単位の変形労働時間制を導入している企業で、就業規則に定め、かつ、従業員が10人未満の企業に限り届出の必要はありません。
しかし、10人未満の従業員の企業でも労使協定を締結する場合は届け出なければなりません。
また、1年単位の変形労働時間制を導入する場合は、労使協定を締結しなければならないので届出は必須となります。
変形労働時間制の就業規則
続いては変形労働時間制を就業規則に明記する場合の事例や作り方を紹介しましょう。
就業規則の例は?
就業規則の例は次の通りです。例えば1ヶ月単位の変形労働時間制(年間休日カレンダー方式)については次のように書いてみて下さい。
第〇〇条 (1ヶ月単位の変形労働時間制)
従業員の所定労働時間は、1ヶ月単位の変形労働時間制による。起算日は毎月1日として、1ヶ月を平均して1週間40時間以内とする。
各日の始業時刻、終業時刻及び休憩時間は次の通りとする。
・始業時刻:午前8時
・終業時刻:午後5時
・休憩時間:正午から午後1時まで
第△△条 (休日)
休日は1ヶ月につき少なくとも9日間とする。年間休日カレンダーの通りとする。尚、毎週日曜日、第1・第3土曜日は休日とする。
就業規則の作り方は?
就業規則の例を確認できましたので、実際に作ってみて下さい。変形労働時間制の条文を新たに作りましょう。
前の見出しの通り、変形労働時間制による労働時間、始業・終業時刻、休憩時間、休日までしっかり書いて下さい。
就業規則を変更したら労働基準監督署に変更届を届け出るのを忘れないようにしましょう。
変形労働時間制導入の注意点
繁閑期がある企業にお勤めの人事の方で「変形労働時間制を導入したいなぁ」と思った方もおられるかもしれません。
確かにうまく運用すれば変形労働時間制を導入することで残業代を抑えることもできます。
しかし、変形労働時間制には導入のデメリットもあるので、注意点をしっかり押さえてから導入を検討しましょう。
変形労働時間制のデメリットとは
変形労働時間制は、残業の項で見たように時間外労働の把握が難しく、変形労働時間制のデメリットもその観点で生じます。
労務担当者の負担が増す
勤怠管理をエクセルやタイムカードなど、手動で管理している企業にあっては、労務担当者の負担が増します。
給与計算に間違いが生じやすい
変形労働時間制によって勤怠管理が複雑になります。ということは、給与計算に間違いが起きるリスクが生じます。そうならないように労務担当者の負担が増してしまいます。
従業員が制度を理解しにくい
労務のプロではない従業員自身が変形労働時間制を正しく理解することが難しくなります。結果、今月はどれくらい残業したのかが従業員が分からなくなってしまいます。
変形労働時間制における就業規則
変形労働時間制を導入するには、就業規則への明記が必要でした。
しかし、明記がないままに変形労働時間制を運用してしまうと、後で従業員から莫大な額の残業代を請求されることがあり得ます。
就業規則への明記を忘れずにしておくようにしておきましょう。
変形労働時間制 シフト変更
変形労働時間制を導入すれば、月曜日は6時間、火曜日は9時間というように、曜日ごとに勤務時間を変更することも可能です。
こちらは便利な反面、シフト管理の複雑化を招くリスクもあります。シフトのパターン化をしておく必要があります。
変形労働時間制を有効に活用しよう
変形労働時間制は、繁閑期がある企業にとっては残業代の抑制になることで便利な仕組みです。
ただ、活用の方法が複雑で注意点も多いことを理解しておきましょう。残業代の抑制になるからといった安易な考えで飛びつくと、給与計算の間違いや残業代の請求などといったリスクが生じかねません。
変形労働時間制の概要、メリット、デメリットをしっかりと把握した上で導入して頂きたいと思います。