学習性無力感とは
学習性無力感とは長期間わたって回避も抵抗もできないストレスにさらされ続けていると、人間はそのストレス状況から逃れようとする行動すら行わなくなるということを言います。
学習性無力感の意味
ビジネスにおける学習性無力感は、上司から強い叱責を受け続けることや能力を上回る仕事の難易度を受け続けること等、様々な状況の中で起こり得ます。1度や2度、例えば上司から強い叱責を受けても自身の中で調整することはできるでしょうが、何度も何度も苦境に遭い続けると「自分は何をやってもダメなんだ」と無力感を味わってしまうということです。
心理学者セリグマンの実験
学習性無力感は心理学者マーティン・セリグマンの実験によって提唱されました。セリグマンは犬を使った実験を行いました。実験は、「電流が流れる部屋」に2匹の犬を入れ、犬Aにはスイッチを押すと電流が止まりますが犬Bには何をしても電流が止まらない仕組みにしたのです。その結果は以下の通りでした。
・何をしても電流が止まらない犬Bの場合:犬は何をやってもダメだと学習し、何の抵抗もしないようになった
この実験結果から分かるように、何をしても結果が変わらないと、人間は抵抗しても意味がないと思い状況から逃れるための行動を起こさなくなる訳ですね。
学習性無力感に陥る原因
学習性無力感に陥る原因にはどんなものが考えられるでしょうか。4つの原因に分けて考えていきたいと思います。
少しのミスも許せない
人間は誰しもミスを侵すものですね。しかし完璧主義的な考えで仕事を進める人は、少しのミスを侵すことも許せません。そういう人が難しい状況に置かれ継続的にミスを侵した時、ストレスを強いられることになります。
例えば難しい仕事を担当することになれば、ルーティン作業に比べれば確実にミスを侵しやすくなるでしょう。少しのミスも許せない人は、「自分は難しい仕事を担当しているからミスはするものだ」と思うことができません。そして、ミスを侵してしまう状況に強いストレスを感じ続け、自分はミスをせずに仕事ができない人間なんだということを学習し、学習性無力感に陥ってしまう訳です。
自分にとっての難問を課され続ける
難しい仕事をこなしたり、難しい問題を解決したりすることは、ビジネスパーソンの能力を高めます。仕事や問題をこなすために勉強したり、「どうすればできるようになるか」と考えたりするからですね。しかし、自分の能力を超える難問を課され続けた人は、自分の力ではどうしても解決できないので学習性無力感に陥りがちになります。
大切にされない
他者から大切にされないことも学習性無力感に陥る原因となります。例えば、「やって当たり前の仕事をしている」ビジネスパーソンが他者から大切にされないと感じます。庶務業務を行っている人は、雑用係と見なされがちです。
庶務業務として、備品を購入したり蛍光灯の交換をしたりする人は、やって当たり前の仕事を受け持っているため、同僚から大切にされない場合があります。そうなると「私の仕事はこの会社にとってどうでも良いものなんだ」と学習するようになり学習性無力感に陥ります。また、正社員ではない非正規労働者も、重要な仕事を任されないため他者から大切にされないと感じ、学習性無力感に陥りがちとなります。
繰り返し否定される
どんなに優れた能力を持っているビジネスパーソンであっても、相手から繰り返し否定されれば、何をしてもダメだと学習して学習性無力感に陥ります。例えば、大手企業出身で、高い能力と実績を持って中小企業に転職した人さんが、中小企業の幅広い業務にうまく対応しきれないことはあります。そこで上司から繰り返し否定されると学習性無力感に陥ることになります。
学習性無力感の事例
学習性無力感のイメージを持ってもらうためにいくつかの事例を紹介しましょう。
合わない仕事をやり続ける新入社員
日本企業は総合職採用をしていますので、新卒入社後どんな部署に配属されるのか分かりません。多くは本人の適性に応じて配属先を決めますが、合わない部署に配属されて合わない仕事をすることになる新入社員もいます。「合わなくても合わせるのが社会人だ」ということもありますが、あまりにも本人の適性と合わない仕事をすると、新入社員は仕事でミスを繰り返すことになりその度ごとに上司から叱責を受けます。
そうなると、意気揚々と社会人デビューを果たしたはずの新入社員が、「自分は何をやっても失敗してしまう。社会人として落第だ」と思うようになりどうすればうまくできるかを考えることもなくなってしまいます。そうなると、学習性無力感に陥ります。
転職先の仕事の難易度が高い
スキルアップのために自分の能力よりも高い仕事ができる会社に転職した人が、転職先の仕事の難易度が高くて失敗ばかりしてしまうと、学習性無力感に陥る可能性が出てきます。
思うように人材育成が進まない管理職
管理職1人が多くの仕事をこなしている職場があります。メンバーに仕事をこなすための能力が不足しているため、管理職がカバーしている職場です。人材育成が進んで人が育っていれば良いのですが、思うように育成されていないと管理職に仕事が集中します。こういった職場では管理職が学習性無力感に陥る可能性があります。
いくら指導しても人材育成が進まないと、忙しい管理職にとっては教えても無駄なんだと思って指導しなくなります。メンバーに仕事をしてもらうより自分が着手した方が早いと思ってしまうのです。
学習性無力感を克服する方法について
学習性無力感を克服する方法について、紹介します。
ストレスを発散させる
学習性無力感に陥るのはストレスを感じ続けることから起こります。従って、ストレスを発散させることで無力感に陥るのを防ぐことができます。
自分にできることは何かを考え出す
自分は何をやってもうまくいかないという心理状態が継続することで、人間は学習性無力感に陥ります。「何をやってもうまくいかない心理状態」が継続する前に、自分にできることは何かを考え出してみます。そうすると、できない自分もできる自分も同じように、肯定的に見ることができます。
小さな成功体験を積み上げる
自己効力感という心理学の言葉をご存知でしょうか。「自分はできる」「自分には自信がある」といった自己の可能性の認知のことを言います。自己効力感は急には高まりませんから、小さくとも成功体験を積み上げることが大事だと言われています。
成功体験を積み上げることで「自分はできる」という自己効力感を高められれば、学習性無力感の「何をやってもダメだ」という学習から「自分はできる」という学習効果を得ることができます。
完璧主義に余裕を持たせる
学習性無力感に陥る原因として「少しのミスも許せない」を挙げました。このような完璧主義から脱し、「人間なのだから間違えるものだ」という余裕を持たせることが学習性無力感を脱する手段となります。
自分の悩みを聞いてくれる人を職場で探す
学習性無力感は無気力になっている状態ですから、この状態を脱するべく「自分の悩みを聞いてくれる人」を職場に見つけることが学習性無力感を克服する手法の1つとなります。
人は悩んでいる時に誰かに悩みを聞いてもらえれば、リラックスするものです。「自分はダメだ」という学習効果にあるうちは自分1人で全てを解決するのは困難を極めます。従って、悩みを聞いてくれる人に相談して、リラックスし、時にはアドバイスをもらうことで学習性無力感を克服していけます。
学習性無力感を理解するための本の紹介
最後に、学習性無力感を理解するための本を2冊、紹介します。
学習性無力感―パーソナル・コントロールの時代をひらく理論
『学習性無力感』は、学習性無力感についてのまとまった解説を読むことができる専門性の高い本です。本記事でも紹介したセリグマンが著者に名を連ねています。
無気力なのにはワケがある 心理学が導く克服のヒント
日本の心理学者の手になる啓蒙的な書籍です。人間はなぜ無気力になってしまうのかという観点で、分かりやすく無気力になってしまう理由・克服方法が書かれています。
まとめ
学習性無力感は、自分の内面や能力だけに原因があるのではなく、外部環境によっても陥ることがあることが分かったと思います。ということは、誰しも学習性無力感に陥る可能性があるということ。克服する方法についても紹介しましたので参考にして下さい。