フリーライダー問題とは?
フリーライダーとは「ただ乗り」を意味する経済学の用語です。フリーライダー問題を理解するには公共財を知る必要があります。
フリーライダー問題と公共財
消費者Aさんがレストランに行って2,000円のランチを食べたとします。店は2,000円を払ったAさんにしかランチを売ることができません。お金を払わずに窓の外で眺めているだけのBさんには売れないのです。また、ランチは、2,000円を払ったAさんしか食べられません。ランチをAさん・Bさんの2人が食べることはできないのです。ランチのような財を経済学では私的財と呼んでいます。
私的財の特性は、排除可能であり消費の競合性があります。レストランは、2,000円を払った消費者Aさんにしかランチを売れない(排除可能)し、Aさんしかランチを食べることができないのです(消費の競合性)。
私的財に反して、下水道システムや国防等は公共財と呼ばれます。公共財は排除不可能で消費の競合性がありません。例えば下水道システムを考えてみましょう。アパートで下水道をきれいに使うCさんは、毎週遊びに来ては下水道を汚く使う自分の恋人を排除することができません。また、同じアパートに住んでいれば、Cさんも恋人も同一の下水道を等しく使うことができるのです。
経済学では、下水道システムの事例で明らかなように、お金を支払う誰かにただ乗りする問題、すなわちフリーライダー問題が生じています。公共財とフリーライダー問題はそこかしこに見られます。いくつかの事例を見てみましょう。
公園
公園は国や市区町村等の行政が管理している公共財の例です。夜、公園のベンチに座って仲間とお酒を酌み交わしたグループは、お酒の缶やつまみの袋を捨てるのが面倒になり、公園に捨ててしまいました。ゴミを放置したグループに、お金を請求することはできません。グループは行政に清掃費をただ乗りしているのです。
花火大会
花火大会を見に行って、あまりの混雑ぶりにうんざりした経験はないでしょうか?一方で花火大会の近くに住む住民たちは、混雑を気にすることなく花火大会をただで見ることができます。混雑した中で花火を見ている人からすればうらやましいですが、花火大会の主催者は、ただで花火を見る住民を排除できません。
公共のテレビ電波
日本でテレビを見るには、NHKに受信料を払わなくてはなりません。しかし、日本国内には受信料を払わずにテレビを見ている人がいます。受信料の未払い率は減少傾向にあるものの、受信料は税金ではないので強制徴収ができません。ただでテレビを見ている視聴者をNHKは完全には排除できないのです。
非排除性がフリーライダー問題を生む
なぜ、フリーライダー問題は起こるのでしょうか?それは、公共財の持つ非排除性という性質がフリーライダー問題を引き起こすのです。公園にしても花火大会にしても、ただで消費する消費者を排除することができません。それゆえ、公共財の持つ非排除的な性質がフリーライダー問題を生む原因となっています。
フリーライダー社員とは
フリーライダー問題に関連して、フリーライダー社員の問題もビジネスの現場では解決すべきこととして注目されています。次章で詳しく説明します。
フリーライダー社員の5つの具体例
フリーライダー社員とは、ただ乗りする社員のこと。5つの具体例で説明しましょう。
仕事をしない社員
フリーライダー社員の事例として、仕事をしない社員がいます。あるメーカーで若手社員5人が集まり、製品の企画案を考えることになりました。翌週、4人は真面目に考えて案を出しましたが、1人だけ「仕事が忙しい」という理由をつけて考えてきませんでした。最後の1人のような社員は4人にただ乗りしているので、フリーライダー社員と呼ばれます。
他者の成果を横取りする社員
顧客への教育用テキストを書き上げたコンサルタントのDさん。彼女は、不眠不休で書いたテキストにより顧客に満足を得てもらいましたが、1か月後、先輩に同行して他の顧客を訪問した際、自分が作ったテキストが許可なく使われているのを発見しました。このように他者の成果を横取りするフリーライダー社員がいます。
他者のモチベーションを下げる社員
Eさんの会社はゆったりした社風で、営業パーソンもあくせく受注しなくてもクビになることはありません。しかしEさんだけは一所懸命に仕事をして、数年後には会社の売上に大きく貢献しました。ある時、上司から「そんなにがんばっても俺より年収が低いのにな」とからかわれ、一気にモチベーションが下がってしまいました。他社のモチベーションを下げるフリーライダー社員の例です。
他者の言動に攻撃的に接する社員
日本は労働者が保護されており、容易なことでは解雇できません。Fさんの会社では他者の言動に攻撃的に接するフリーライダー社員がいました。彼は他社での能力を買われて1年前に入社し、Fさんの上司にあたる存在です。確かに彼は仕事はできるもののFさんを含め部下を罵倒する日々。何人も退職し、社長も彼が原因で離職率が上がっていることを知っていますが解雇に二の足を踏んでいます。組織風土を維持しようと努める他者にただ乗りするフリーライダー社員の例です。
自分は仕事ができると誤解する社員
Gさんの会社では自分は仕事ができると誤解するフリーライダー社員がいます。彼女は昔から会社のお荷物的な存在で、自分の実力を過信していました。過信する余りチェックがおざなりになり、ミスを連発します。彼女のただ乗りのために、同僚が彼女のミスをカバーしています。
フリーライダー社員を放っておいてはいけない
フリーライダー社員の事例を見ると分かるように、フリーライダー社員は組織風土を乱したり、生産性を下げたりします。彼ら彼女らを放っておいてはいけません。
フリーライダー社員の増幅
フリーライダー社員を放置すると、フリーライダー社員は増幅していきます。仕事をしないフリーライダー社員の存在が認められたら、「あの人は仕事をしなくても存在を認められている。だったら私も仕事を怠けよう」と思う人が増えていきます。自然発生的にフリーライダー社員は増えるのです。フリーライダー社員は放置せずに対策を講じる必要があります。
企業の成長に壁を作る
フリーライダー社員は生産性を低下させます。組織風土を悪化させます。従って、企業の成長に壁を作るのです。次章で、フリーライダー社員に対して企業としてどう対策を練るべきか説明します。
フリーライダー対策
フリーライダー社員に対する対策として考えられるのは大きく分けて4つ。
人事評価制度の再構築
フリーライダー社員はただ乗りをしますが、ただ乗りする社員に対しては人事評価制度で見極めるべきです。他者の成果を横取りする社員で言えば、自分の成果物でないものを使って、顧客から評価されている社員に対しては業務遂行に対するパフォーマンスを出せていないとして、人事評価で見極めるのです。そうすればフリーライダー社員も行動を改めないと評価されないことに気づき、自分の行動を改めることでしょう。
逆に、ただ乗りせずにパフォーマンスを上げている社員はきちんと評価してあげます。他者のモチベーションを下げる社員の事例で触れたように、会社の売上に大きく貢献したような優秀人材については、昇格・昇進や昇給等の面で正当に評価すべきです。
組織風土の改革
人事評価制度の再構築を進めると共に、組織風土の改革にも着手します。ピリピリした職場にする必要はありません。ただ、フリーライダー社員を許さない程度の緊張感のある組織風土にすべきです。
平等な組織への再編
人事評価、組織風土と進めたら平等な組織への再編を行います。組織再編はフリーライダー社員を人事異動させることが主眼ではなく、適材適所の人員配置を進めることを意味します。マネジメント層にもフリーライダー社員はいますから、人材アセスメントを通してマネジメント適性に優れた人材に管理者を担ってもらい、適性に欠ける人材は専門性のある仕事に就いてもらう等、平等な組織への再編を目指すのです。そうすれば、フリーライダー社員が入り込む余地はありません。
個人で抱え込まないこと
フリーライダー社員に出くわしたら、1人で抱え込んではいけません。上司や同僚、あるいは人事部に相談して着実な対処を講じてもらいましょう。
まとめ
フリーライダー問題は公共財のただ乗りを意味する経済学の用語でした。これをビジネスの世界に応用したのがフリーライダー社員問題です。フリーライダー社員の事例を読めば分かる通り、フリーライダー社員は増殖したり組織風土を悪化させたりと処置を誤ると大変な事態を招きます。フリーライダー社員の増殖は会社のマネジメントが揺らいでいることを示すことでもありますので、人事評価制度や組織風土改革等に着手して、早めに芽を摘み取るようにしたいものですね。