ゆでガエル現象とは?
ゆでガエル現象とは、ゆっくりと進行していく危機に対して手段を講じず、対処することができない程に手遅れになってしまう状態を言います。
ゆでガエル現象に科学的な根拠はない
ゆでガエル現象というネーミングですが、科学的な根拠はありません。このネーミングが付いたのは、カエルを水に入れておき、カエルが分からない程に徐々に水温を上げていくと、いつの間にか熱湯になって出るタイミングを逃して死んでしまう(ゆでガエルになって死ぬ)という寓話に基づいています。実際には、ゆっくり水温を上げたところで、カエルは死ぬ前に水から出ていきます。ゆでガエル現象は科学的には誤りなのですが、危機に対処しない行為を警告する意味で、ビジネスでは使われる多い寓話です。
ベイトソンのゆでガエル寓話
ゆでガエル現象が日本で知られるようになったのは、アメリカの精神医学者グレゴリー・ベイトソンのゆでガエル寓話によります。経営学者の桑田耕太郎と社会心理学者の田尾雅夫による98年の共著『組織論』の中でベイトソンのゆでガエル寓話が紹介され、世に広まりました。
ゆでガエル現象がビジネスで説得力を持つ理由
科学的な根拠はないゆでガエル現象。危機に対処しない行為を警告する意味で、ビジネスでは使われています。それでは、なぜゆでガエル現象がビジネスで説得力を持つのでしょうか?説得力を持つ理由を考察していきます。
現状維持バイアスに左右される
ビジネスパーソンに限らず、人間は変わりたくない生き物です。変化を恐れ、できることなら現状のままで良いと思っているのです。この心理状態を行動経済学では現状維持バイアスと説明しています。例えば、古くなった洗濯機を買おうか悩んでいる人がいるとします。店に行くと次のような洗濯機がありました。
・ドラム式洗濯機
ドラム式洗濯機の方が家事にかかる時間が短縮されることは分かっていたものの、新しい洗濯機に変えることにリスクを感じて、既存の洗濯機のリニューアル版を買ってしまうのです。現状維持バイアスが働いているゆえんです。
これがショッピングなら良いのですが、ビジネスで現状維持を選択したことによるリスクは問題です。危機があることが分かっても、対処しないことで手痛いしっぺ返しを食らってしまうケースがあるからです。
緩い変化には対応できない
危機が眼前に迫っていても、その危機がゆっくりとしたものであると人は簡単に対応できないものです。今すぐ対処しないと問題が大きくなる変化に対しては、人材を総動員してでも何とかしようと思うのですが、緩い変化には対応できないのです。緩い変化といっても危機であることに変わりありませんから、ゆでガエルのように、いつの間にか瀕死の状態に陥って手遅れになってしまいます。
過去のやり方から抜け出すことができない
「前職のやり方を踏襲すれば転職先でも受注が取れるはず」というような、過去のやり方から抜け出すことができない思考も、ゆでガエル現象の警告が説得力を持つでしょう。過去のやり方が通用しなければやり方を変更しなければならないのに、変更できずに失敗するのです。
難しい課題を後回しにしてしまう
簡単な課題であれば、ゆっくりとした危機であっても対処しやすいですね。しかし、いくら危機的であっても、人間は難しい課題を後回しにしてしまうのです。その理由は、難しい課題を解決するには自分だけでは解決できないから。ヒト・モノ・カネといった資源を使わないと解決できません。その面倒さがあるので、「後でいいや」と後回しにすることで、いつの間にか手遅れのゆでガエル状態になってしまいます。
ゆでガエル現象の具体例
具体例を元に、ゆでガエル現象を分かりやすく解説していきます。
少子化・財政赤字対策に取り組まない日本政府
一向に解決しない日本の少子化や財政赤字。ちなみに少子化は50年前には統計的に推定できたと言われ、1989年には社会問題化しました。その間にもどんどん少子高齢化は進み、合計特殊出生率は1.4台を推移しています。財政赤字も同様で、以前から問題視されていましたが解消の糸口は見えません。日本政府も問題に対して無策だった訳ではありませんが、経済や社会保障等が優先されがちとなり、問題は悪化。ゆでガエル現象に近付いてきています。
成功体験から抜け出せない経営者
過去の成功体験から抜け出せない経営者もゆでガエル現象に陥っていると言えます。現在成功している企業であっても、その成功がいつまでも続く訳ではありません。顧客が「もうこの商品には飽きた」と言っているのに、経営者が成功体験からリニューアルを重ねても、そっぽを向かれます。そして、いずれは見向きもされなくなるでしょう。そうなったら企業は瀕死のゆでガエル状態となってしまいます。
破壊的イノベーションを軽視する経営者・マーケッター
経営学者のクレイトン・クリステンセンは業界構造を劇的に変化させるイノベーションを破壊的イノベーションと呼びました。例えばAppleが発売したiPhone。日本メーカーの携帯電話は機能性を高めていましたが、直観的な操作とデザイン性に優れたスマホiPhoneに市場を席巻され退場を余儀なくされました。経営者・マーケッターが破壊的イノベーションを軽視し、自社の製品を高機能にすることばかり考えていると、いつの間にか危機が会社の命を奪う程に膨れ上がり、ゆでガエル現象に陥ってしまうのです。
自分たちには問題がないと考えている組織
自分たちには問題がないと考えている組織もゆでガエル現象に陥っています。社員から賃金や人事制度、人間関係等に問題があるという声が少しずつ上がっているのに、吸い上げようとしないで「自分たちの組織には問題がないと考えている」と、いつの間にか組織が崩壊していることがあり得ます。
いつか働き方改革に取り組めば良いと考える人事担当者
2019年4月から始まった働き方改革関連法の施行。制度が始まっても尚、いつか働き方改革に取り組めば良いと考える人事担当者はいませんでしょうか?罰則のあるものは取り組むにしても、「生産性の向上を図る」というような息が長い課題に対しては難題なので手をこまねいてしまいがち。しかし、この課題を放っておくと、いつの間にか生産性の低迷が手のつけられない状態まで落ち込むことがあり得ます。こうなってしまうとゆでガエル現象であり、解決の糸口が見えにくくなってしまいます。
脱年功序列に危機感を覚えない中高年労働者
脱年功序列に危機感を覚えない中高年労働者もゆでガエル現象に陥っています。「どうせウチの会社は大丈夫だ」とスキルアップもロクにしないでいると、いつの間にかリストラの対象になり、転職するにしても働き口がないことになります。
企業ができるゆでガエル現象に陥らないための対策
ゆでガエル現象の具体例について、企業もしくはビジネスパーソンの立場から概観してきました。次は、企業ができるゆでガエル現象に陥らないための対策を「変革ビジョンの浸透」の観点から見ていきます。
変革ビジョンを浸透させる
経営者が企業をゆでガエル現象に陥らないためには、社内に変革ビジョンを浸透させることが重要。変革ビジョンとは「会社と従業員の意識を変える」というものです。破壊的イノベーションの項目で説明した通り、自社製品を高機能化することにばかり目がいっていると、市場の変化にもニーズの掘り起こしにも配慮ができません。従って、イノベーションを打ち出せるような組織づくりを経営者自らが謳い、実行していくことが肝要です。
変革ビジョンの浸透には、経営者の言葉が重要になります。言葉は、経営者が社員に語る言葉もあれば、人事制度を活用することで経営者の言葉を社員に伝えることもできます。あるいは組織体制を変えることでも、経営者の言葉を社員に伝えることが可能。あらゆる手を打って、ゆでガエル現象にならない策を講じます。
自律型組織を目指す
変革ビジョンを浸透させるには、上司に依存してばかりの組織では浸透しません。社員が自ら考え、チャレンジし、実行できる自律型組織を目指すことが重要です。
危機意識を植えつける
経営者やマネジャーが社員に危機意識を植えつけることも変革ビジョンを浸透させることに効果を発揮します。マネジャーであれば、イノベーティブな発想力を高めるために「これまでにない製品を開発する」ように危機意識を植え付けるのです。
批判的思考を身につけさせる
既存のやり方が正しいと思っていると、危機に気付かないことは前述した通りです。では、その発想から脱却するにはどうしたら良いかというと、やり方を疑ってみることが大切です。疑うための思考を批判的思考(クリティカルシンキング)と言います。本当にこれで良いだろうか?と立ち止まって考えてみるのです。社員に、批判的思考を身につけさせることも、変革ビジョンを浸透させるのに有効です。
まとめ
ビジネスでは、ゆでガエル現象に陥りやすい状況が往々にしてあります。それは、人が現状維持バイアスになりやすかったり、緩い変化には対応できなかったりといった心理状態から来ています。ゆっくりとした危機は、いずれ企業やビジネスパーソンを瀕死の状態に陥らせかねません。従って企業はゆでガエル現象に太刀打ちできる対策を講じることが必要です。