ベースアップとは?定期昇給との違いや課題・基本給との関わりを解説

新聞やメディアで目にすることが多いベースアップ。春闘で「ベースアップは〇〇%上がった」というニュースを目にすることもあります。ベースアップとは全社員の基本給を一律に上げることを言います。同じく賃金を上げることでも定期昇給とベースアップは違います。ベースアップと定期昇給の違い、課題、基本給との関わりを解説します。
目次

ベースアップとは?

ベースアップとは、全社員の基本給を一律に上げること。ベースは基本給、アップは上昇です。ベースアップはベアとも略されます。ニュースでベースアップを目にする機会は春闘が行われる2月頃からが多いと思います。春闘は労働運動の1つで、ベースアップのような労働環境の改善を目的に行われるものです。

全社員に対する基本給が上がる仕組みのこと

ベースアップは全社員に対する基本給が上がる仕組みのことです。社員の年齢、キャリア、部署、役職、職務内容に関わらず全社員に対する基本給を上げることを言います。

労使間の交渉で決まることが多い

春闘について報道される時、ベースアップについて触れられることが多いですが、ベースアップは労使間の交渉で決まることが多いです。労使間の交渉は企業と労働組合で行われることが一般的。ベースアップが行われると全社員の基本給が底上げされます。

ベースアップは中小企業でも実施される

ベースアップは労働組合がある大企業のみで行われると思いがちですが、中小企業でも実施されます。「中小企業の雇用状況に関する調査集計結果」によると、ベースアップを行った中小企業は2016年度で19.9%、2017年度で22.1%になっています。

ベースアップと定期昇給の違い

基本給の昇給としては、ベースアップの他に定期昇給もあります。両者はどう違うのかを見ていきましょう。

1年ごとに賃金水準を上げるのが定期昇給

定期昇給は、1年ごとに基本給を上げ、社員の賃金水準を上げていくことを言います。毎年基本給が上がるのが通常ですので、年齢(勤続年数)が上がれば上がる程、社員の基本給が上がる仕組みです。定期昇給の上げ幅は企業によって異なり、上げ幅を企業が決める場合もあれば、人事評価に基づいて上げ幅が機械的に決める場合もあります。とはいえ、1年ごとに基本給が上がるのですから、定期昇給を実施している企業はどうしても年功賃金に陥りがちとなります。

ベースアップは賃金カーブとは無関係に賃金が上がる

定期昇給を採用している企業は、1年ごとに基本給を上げます。従って、賃金カーブは右肩上がりとなります。例えば基本給が25万円のAさんが定期昇給により2,500円上がると昇給後は25万2,500円となります。以降、毎年2,500円ずつ上がるとすれば10年後には27万5,000円の基本給となる訳です。このように賃金カーブは右肩上がりとなります。

ベースアップと定期昇給の違いは、定期昇給が1年ごとに基本給が上がり賃金カーブを形成するのに対し、ベースアップは右肩上がりの賃金カーブとは無関係に賃金が上がるということです。例えばベースアップ2%となると、先ほどのAさんは25万円の基本給から25万5,000となりますが、基本給18万円のBさんも28万円のCさんも一律的に2%の昇給になることを意味します。これが賃金カーブとは無関係に賃金が上がるベースアップの仕組みです。

企業の負担増になるベースアップ

ベースアップは全社員の基本給を一律的に上げることです。前述の通りベースアップ2%と決定すれば、年齢、キャリア、部署、役職、職務内容に関わらず2%上がるのです。社員にとって賃金カーブに関係なく基本給が上がるのは喜ばしいことですが、企業にとっては負担増となります。具体的に説明しましょう。

ベースアップをすると固定費の増額になる

ベースアップをすると固定費の増額になります。降格制度を採用している企業でない限り、一度上げた基本給を企業の裁量で容易に下げることはできません。従って、ベースアップ2%とした場合、上がった賃金増はずっと企業の固定費としてのしかかってくるのです。企業にとってベースアップが負担増となるのはこのような意味合いです。

ベースアップは「賃金の上方硬直性」を促す

ベースアップによって企業の固定費増となると、どういうことが起こるでしょうか?実は賃金が上がりにくくなるのです。行動経済学では、人間は既存の賃金より下がることを忌避すると言われており、企業もそれを知っているので賃金を下げて社員のモチベーションを下げる施策を取りません。そこでベースアップを実行すると、全社員の賃金が一律的に上がり固定費増となります。

賃金を下げれば社員のモチベーションが下がるため、企業は賃金を下げられません。といってベースアップで固定費増となっていますから、いざ不況になった時には、企業は社員の賃金を下げずに賃金が上げない施策を取るのです。この施策が企業に染み付いてくるとベースアップは、賃金の上方硬直性を促すことになります。

基本給の構成とベースアップの関係

ベースアップは、全社員の基本給を一律に上げることと説明しましたが、基本給の構成とベースアップの関係について見ていくことにします。

基本給の構成

基本給の構成は企業によってまちまちです。年齢給・職能給・職務給・役割給の組み合わせによって構成されます。企業によっては基本給一本とする場合もあります。

年齢給や職能給は賃金総額を押し上げるリスクがある

年齢給とは、その名の通り年齢や勤続年数基準の賃金です。職能給は能力基準の賃金、職務給や職務基準、役割給は役割基準の賃金となります。年齢給や職能給は賃金総額を押し上げるリスクがあると言われます。年齢給は1年ごとに賃金が上がり、職能給は「能力が下がらないことを前提」としているため、勤続年数が長い方が賃金が上がる仕組みなので、いずれも賃金総額を押し上げるリスクになり得るのです。

ベースアップするなら基本給の構成を変えるべき

基本給の構成が分かったところで、ベースアップとの関係を確認します。企業がベースアップするなら、基本給の構成を変えた方が良いです。ベースアップは固定費増となるのですから、賃金総額を押し上げるリスクがある年齢給や職能給ではなく、職務給・役割給のように年功的になりにくい基本給にした方が企業の負担が軽く済むからです。

日本企業におけるベースアップのあるべき姿

ベースアップは高度経済成長期における物価上昇に合わせて行ってきた背景があります。しかしデフレの時代にあってベースアップの役割は徐々に薄れつつあると言えます。日本企業におけるベースアップのあるべき姿を考えてみます。

ベースアップはローパフォーマーの賃金も上げることに

ベースアップは全社員に対する基本給が上がる仕組みです。人事評価との関わりで考えれば、仕事ができる社員もできない社員も一律的に賃金を上げることになります。つまり、業務遂行するにあたっての能力が低く、成果を上げられないローパフォーマーの賃金も一律的に上げることになる訳です。社員の能力を活かし、労働生産性の向上に繋げる人材マネジメントの観点から考えると、こういうやり方はどうなのでしょうか。ベースアップのあるべき姿を再考する必要があると思います。

個人の職務や成果に基づいた給与体系に改める必要がある

ベースアップを続けるのであれば、個人の職務や成果に基づいた給与体系に改める必要があるでしょう。基本給の構成で言うなら、職務給・役割給に改めることが1つのやり方ですね。例えば職務給なら、Aよりもレベルが高いBを遂行していないと賃金が上がりません。年齢や勤続年数が上がっても賃金の上昇には繋がらないのです。

更に人事評価も職務給・役割給に連動した仕組みに変えれば、年功的に賃金が上がる事態を招かずに職務や成果次第で社員を評価するように運用できます。そうすれば、一律的に全社員の基本給を上げるベースアップを実行しても、社員のパフォーマンスを上げつつ、モチベーションを高めることになります。

まとめ

ベースアップは全社員の賃金を一律的に上げること。定期昇給とは違い、賃金カーブに関係なく上がっていきます。ベースアップによる会社の負担は軽くなく、固定費増となります。しかし基本給の構成や人事評価との連動を行うことで、ベースアップもうまく運用することができます。

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