360度評価とは?メリット・デメリット・評価項目・運用方法を解説

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360度評価は上司だけでなく、同僚、あるいは部下等から多面的に評価される人事評価制度の手法です。様々な人から多面的に評価されることから、360度評価は多面評価とも呼ばれています。360度評価が必要とされる理由、360度評価を導入するメリット・デメリット、評価項目や運用方法について解説します。
目次

360度評価とは?

人事評価といえば上司から評価されるのが一般的。360度評価とは、上司だけでなく、同僚、あるいは部下等から多面的に評価される人事評価制度の手法を言います。

360度評価の目的

360度評価の目的は、上司からの一面的な見方ではなく、普段一緒に仕事をしている部下や同僚からの評価を通じて、評価される対象者の客観的な能力の把握、人材育成に繋げることにあります。

360度評価がなぜ必要とされるのか?

360度評価が必要とされる理由を説明します。

年功序列制度の限界

日本企業で幅広く採用されていた年功序列制度は、年齢・キャリアが上がるごとに賃金を上昇させていく人事制度です。人事制度として年功序列制度を使っていなくても、年功的な賃金制度が残る企業は多いですね。

例えば能力主義の人事制度を導入している企業の管理職でも、部下がどれくらい能力を発揮しているか見定めず、「能力は下がることはないのだから無難に評価をしよう!」とする評価をしてしまいがちなのです。これでは、能力主義の仮面をかぶった年功序列制度と言わざるを得ないでしょう。

しかし、このような年功序列制度では社員をしっかりと評価できていません。人事評価を通じて人材価値を見定め、人材育成に繋げるためには年功序列制度が限界にきており360度評価のように様々な人から評価してもらうやり方が求められています。

上司のマネジメント力の低下

人事評価をするのは上司です。しかし、上司は管理職でありながら実務を多く抱えるプレイングマネジャー。また、企業を取り巻くマクロ環境の変化に対応するためたくさんの複雑な課題を解決しなくてはなりません。経営学者ヘンリー・ミンツバーグは『マネジャーの実像』の中で、管理職の行動の特徴を「いつも時間に追われている」「さまざまな活動を短時間ずつ行う」等と述べています。

つまり管理職は、仕事を小間切れに行わざるを得ない程に忙しいのですが、しかも、マクロ環境の変化に対応するための複雑な課題に対応しなくてはなりません。職場は人手不足ですから管理職の肩に乗る責任も多いです。結果、上司のマネジメント力は低下し、部下の能力や成果を正しく評価して人材育成を行うことが困難を極めます。マネジメント力の低下は、360度評価によって多面的な評価が求められる理由となります。

人事評価の客観性の担保

人事評価が正しく、公平に行われているかどうかにより、部下のパフォーマンスや成長に関わってきます。人事評価をブラックボックスにせず、人事評価の客観性の担保するためにも360度評価が求められてきています。

360度評価のメリット

360度評価のメリットを紹介します。

人材を正しく評価できる

多忙な管理職は、業務中の部下の重要な行動を見落としてしまうことがあります。もし見落としてしまうと、人事評価した時に歪な評価となってしまうでしょう。その点、様々な人から評価される360度評価は正しく評価できます。正しく評価するとは、人事評価制度に対する適切な理解、そしてそれに基づき被評価者(評価される人)の行動や成果を正しく評価するということです。

客観的な人事評価ができる

客観的な人事評価ができるのも360度評価のメリットです。客観的な人事評価ができるのは、上司の主観に捉われず、部下や同僚等といった、日常的に仕事をしている人から見た評価を統合して人事評価するからです。

自身の能力に気付ける

客観的な人事評価ができることと繋がりますが、上司だけが評価していた頃と違い、360度評価は評価する人が部下や同僚なので、着眼点が違います。そのため、360度評価の方が改善点や伸ばすべき長所に気付けることがあります。360度評価により自身の客観的な能力に気付けることがメリットです。

人材育成に活用できる

人事評価は人材価値の評価だけではなく、人材育成に繋げることを目的としています。様々な人から評価される360度評価なら、客観的な自身の能力や全体像が明らかになります。そのため、評価後に上司からフィードバックされることで、人材育成に活用できるのです。

360度評価のデメリット

360度評価のデメリットを紹介します。

評価者が主観で評価してしまう

360度評価では評価に不慣れな部下、同僚が評価します。運用を間違うと評価者が主観で評価することになりがち。上司の主観による評価を改善するために360度評価を取り入れたはずが、360度評価でも評価者の主観で評価されては意味がありません。これを改善するには、新しく評価者になった人に対して人事評価研修を実施し、評価ができることを確実にしなくてはなりません。

フィードバックしないと効果が出ない

360度評価では部下、同僚から評価されます。評価内容について、上司から対象者にフィードバックしないと効果が出ません。フィードバックの段階で上司のフィードバックしかないようでは、従来の人事評価と何ら変わりません。対象者が部下や同僚からどう見られているかが分からないと、人事評価後に行動変容することは難しいでしょう。

部下指導が甘くなる

360度評価の最大のデメリットは部下指導が甘くなること。部下、同僚から良い評価をされたいために、厳しい指導をしなくなりがちなのですね。そうなると、360度評価を導入したことで組織のマネジメント力が低下することになるでしょう。それを防ぐには、360度評価の意義を経営層や人事から社員に伝え、評価者の人事評価研修の実施と効果に力を入れる必要があります。

360度評価の運用方法

最後に、360度評価の運用方法を解説します。

360度評価の目的の設定

人事部内において、なぜ360度評価を行うのか、360度評価の目的を設定して下さい。目的設定のためには、人事評価の課題を洗い出すことが大切です。課題の例として「人事評価では上司の主観が強い」「上司のマネジメント力が不足している」等があります。このような課題を洗い出し、課題を解決することを目的として360度評価を行うのです。

質問項目・質問文の作成

360度評価を行う際、評価者が評価しやすいように質問文を作成します。評価者は質問文に回答していく形で評価します。質問項目は評価項目ごとに設定します。質問文の例としては、例えば「対象者は管理職として、部下指導に力を注いでいるか?」という部下指導に関する質問文を作ります。それに対して評価者が回答し、評価するという流れです。

評価項目の設定

評価項目は、360度評価の対象者の階層によって設定されます。管理職ならマネジメント、問題解決、部下指導、リーダーシップといった項目に分けられます。

評価の決め方の設定

360度評価の評価基準としては、5段階もしくは4段階による評価基準が妥当です。あまり評価基準の数が多いと評価の違いが分からなくなり、評価者が困惑し正しい評価ができなくなります。質問文の

全社員への周知

評価の決め方の設定まで完了すれば、360度評価の制度設計は完了です。次は人事評価制度が変わったことを全社員に周知して下さい。周知する際は、360度評価の目的、既存の人事評価制度との違い、360度評価を導入するとどんなメリットがあるかといったことについて分かりやすく説明します。また、部下指導が甘くならないよう、360度評価の意義を丁寧に伝えて下さい。

評価者への教育

360度評価の評価者は人事評価に慣れていない部下、同僚等がいます。評価者に教育することで、評価者がうまく評価できるようになります。教育では人事評価の一般的な内容から丁寧に解説します。人事評価に慣れていない評価者のための教育ですから、テキストもかみ砕いた内容にするよう配慮します。

フィードバックの徹底

360度評価ではフィードバックしないと効果が出ません。フィードバックを伝えるのは対象者の上司なので、上司が部下や同僚から見た対象者の姿を伝えるのです。部下や同僚からの評価は質問文への評価を通じて書面に書かれてはいますが、それを読むだけではフィードバックになりません。

上司は、上司・部下・同僚からの評価を総合的に伝えて、対象者に対して「どこが良い」「どこを改善する」ということをフィードバックするのです。フィードバックによって、対象者は、自分の客観的な能力に気付くことができます。

まとめ

360度評価は、上司が人事評価するといったこれまでの人事評価とは違い、上司・部下・同僚からの評価により、多面的に評価する方法です。360度評価により、上司の評価だけでは見えてこない対象者の能力、仕事ぶり、部下指導のやり方が客観的に見えてくるようになります。

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