廃業とは?
事業主が自主的に事業を辞めることを廃業といいます。自主的に事業を辞めれば廃業となるので、特に理由は問われません。例えば運転資金に余裕があるにもかかわらず、後継者不在のために事業を辞めることも廃業です。
倒産との違い
廃業に関連する言葉に倒産という用語があります。倒産とは資金が底をついて銀行からも融資を受けられなくなり、事業を継続できなくなることをいいます。倒産は、廃業のように自主的に事業を辞めることではなく事業を続けようにも継続できないことをいうのです。
休業との違い
休業は企業の判断で事業を停止させること。事業を継続しない廃業や倒産とは違い、休業は、将来に事業を再開させることを見越しています。
廃業件数の現状
直近のデータから廃業件数はどのくらいあるのかを確認してみます。東京商工リサーチの2019年「休廃業・解散企業」動向調査によると、2019年に休廃業した企業は4万3,348件でした。前年より7.2%減となりました。休廃業した企業の代表者の4割の年齢が70歳代であり、代表者が高齢化し後継者もいないことから廃業に踏み切っていることが推測されます。
廃業企業の経営状態
東京商工リサーチの調査から、廃業企業の経営状態について見てみることにしましょう。
業歴別の調査で見てみると業歴10年未満の企業の廃業は全体の27.4%を占め、企業が事業を長く持たせることに苦労している様子がうかがえます。
また、廃業する企業の業績を見ると61.4%の企業が黒字でした。休廃業する企業の代表者の年齢の4割が70歳代であることからすると、黒字でも後継者がいなければ廃業せざるを得ないということが読み取れますね。
廃業が多い業種と理由
廃業が多い業種にも注目してみましょう。同じ東京商工リサーチの調査から解説します。
産業別で見ると、廃業が最も多い産業は飲食店、宿泊業等のサービス業で1万3,245件でした。飲食店、宿泊業等のサービス業の廃業は全産業の30%を占めます。2番目に廃業が多い産業は建設業で7,027件の廃業がありました。建設業の廃業の割合は16.2%なので、飲食店、宿泊業等のサービス業と建設業だけで46%以上の割合を占めることになります。
廃業する理由
廃業の実態を見てきたところで、次は企業が廃業する理由を解説します。
・経営状態の悪化
・自分の代で廃業するつもり
・資金力の不足
後継者不在
業績が好調な企業であっても後継者がいなければ事業を継続することができません。後継者不在であれば廃業を選択することになります。子どもや従業員の中から後継者を育てることができずに、黒字でも廃業する企業があるのです。
経営状態の悪化
経営状態が悪化して廃業するケースもあります。何期にもわたって赤字が続くと事業を継続できないと考え、廃業を選択することになります。あるいは急激な景気後退のために、経営状態が急激に悪化して廃業を選択することもあるでしょう。
自分の代で廃業するつもり
経営してきた事業を誰かに継承せず自分の代で廃業するつもりでいた場合もあります。子どもや従業員の中に後継者がいたとしても、経営者である自分の代で事業を終了したい時は廃業となります。飲食店や美容室のような業界では競争も激しいので、次の世代に継承しないつもりの経営者もいるのです。
資金力の不足
経営状態が悪化して手元資金がなくなり、金融機関からの融資も受けられずに廃業を選択することもあります。資金力の不足は倒産とも近いですが、資金が不足すれば取引先への支払いもできず従業員への支払いも滞ります。資金を回すことができなければ、廃業することになります。
企業の廃業手続きについて
企業が廃業する時にはどんな手続きが必要になるか解説します。
株主総会で解散の決議を行う
株式会社が廃業するには、「企業が解散する」旨を従業員や取引先、そして株主に通知しなくてはなりません。取引先に対しては、関係の深さに応じて対面で廃業する旨を説明したり、書面で通知したりする必要があります。
関係者に解散することを伝えた後、株主総会における解散の決議を行います。解散の決議を行うには、議決権を有する株主のうち過半数が総会に出席する必要があります。株主総会での決議には以下の2点が必要になります。
2.清算人の選出
株主総会の決議が済んだら企業の営業は停止し、株主総会の日が解散日となります。
登記
株主総会において解散の決議が済んだ後、2週間以内に管轄の法務局で解散の登記と清算人の登記を行う必要があります。登記が済んだら、企業は清算会社という名目で清算手続きに入ります。
届出の提出
法務局において解散登記を行った後、解散の届出を提出します。時期は登記後、遅滞なく行うこととされています。解散の届出の提出先は管轄税務署、都道府県税事務所、市町村役場です。解散の届出には解散登記後の登記を添付することが求められます。
清算を行う
株主総会で解散の決議が認められたら企業は清算を行います。企業の債務を弁済し、債権については取り立てる必要があり、これを清算といいます。清算手続きについても時間を要する場合があり、うまく手続きが進まない時は清算完了までに1~2年の期間を要することもあります。
尚、企業に対する債権者を保護するため、清算人は官報へ解散公告を掲載することが義務づけられています。官報への掲載期間は2か月以内が一般的です。また、解散公告を掲載するだけでなく、把握している債権者に対しては個別に連絡する必要があります。清算人は、財産を精査し換金できるものは金銭化します。株主には残余財産の分配を済ませます。
さらに、清算人は決算報告書を作成し、株主総会において普通決議を得る必要があります。株主総会で普通決議の承認がおりた日から2週間以内に、清算人は法務局に清算結了登記を行わなくてはなりません。清算結了登記を行った後は、遅滞なく、管轄税務署、都道府県税事務所、市町村役場に対して清算結了登記の届出を行います。
社員の解雇
企業の廃業は社員の解雇を意味します。解散の経緯や再就職支援策、賃金の支払いについて丁寧に説明する必要があります。労働組合がある時は組合への説明も必要です。
また、労働基準法には、解雇する場合には30日前に解雇予告をしなくてはならないことが定められており、廃業の時も例外ではありません。仮に解雇予告が間に合わない時は解雇予告手当を従業員に支払う必要が生じます。
個人事業主の廃業手続きについて
個人事業主が廃業する時の手続きについて解説します。
行政への届出
個人事業主が廃業する時は行政への届出が必要です。税務署には次の届出を行います。
・消費税の事業廃止届出書(消費税の課税事業者である時)
・給与支払事務所等の開設・移転・廃止届出書(従業員がいる時)
・所得税の青色申告の取りやめ届出書(青色申告を行った時)
個人事業の開業・廃業等届出書は、廃業する個人事業主が届け出なくてはならないもので、廃業の事実があった日から1か月以内に届け出る必要があります。
税務署以外にも、個人事業主が廃業する時は都道府県税事務所・市町村役場に届け出なくてはなりません。
まとめ
事業主が自主的に事業を辞めることを廃業といいます。年齢、後継者不在、経営状態の悪化等、どんな理由であれ自主的に事業を辞めれば廃業となります。株式会社が廃業手続きを行うには株主総会による決議、取引先・株主・従業員への丁寧な説明を要します。解雇する従業員に対してはより丁寧な説明が必要となるでしょう。廃業には清算手続きが必要になり、清算に難航すれば清算完了まで1~2年の期間がかかることもあります。