ディーセントワークとは?
ディーセントワークとは、働きがいのある人間らしい仕事を意味する言葉です。ディーセントワークを英語で書くと、decent workとなります。decentとは、「きちんとした」「礼儀正しい」という意味です。ディーセントワークはILO(国際労働機関)で定義されたことが始まりとされます。
ILOによる定義と4つの戦略
1999年の第87回ILO総会において、ILOのファン・ソマビア事務局長がレポートした中で使われたのがディーセントワークの始まりです。ILOにおいてディーセントワークは、働きがいのある人間らしい仕事と定義されました。ILOによる働きがいのある人間らしい仕事とは、働く人の権利が保障され、十分な収入を生み出し、適切な社会的保護が与えられる生産的な仕事であると定義されました。
つまりディーセントワークとは、貧困に陥らず十分な収入が得られ、性別や国籍で差別されることなく、人間の尊厳が保たれる生産的な仕事であることが求められます。また、ILOはディーセントワークを社会に定着するために4つの戦略を掲げました。
・社会的保護の拡充
・社会対話の推進
・仕事における権利の保障
ディーセントワークの目的
貧困や非自発的失業、性別・年齢・国籍による差別、収入が不安定な仕事、病気や障害による社会的保護の欠如等、ディーセントワークが不足している労働環境が見られます。企業はディーセントワークへの意識を高め、企業がディーセントワークに配慮することで、労働者が人間らしい尊厳を保護された状態で働ける労働環境を形成することを目的としています。
ディーセントワークが注目される背景
ディーセントワークが重要であることについては、定義や目的を知っていくことで理解できたと思います。次にディーセントワークが注目される背景について解説します。
グローバル化
グローバル化によって安い労働力を得られるようになると、企業は生産工場を海外に移します。企業は人件費を抑えて事業を運営することができる一方で、国内労働者の雇用を維持できなくなります。グローバル化によって国内産業が空洞化してしまうと失業者が出てしまうためにディーセントワークの考え方が必要になります。
SDGsへの繋がり
持続可能な開発目標であるSDGsは、2015年9月の国連サミットで採択されたもの。17つの目標を掲げ、世界全体で目標達成を目指していく活動をいいます。SDGsのうち目標8はすべての人のための持続的、包摂的かつ持続可能な経済成長、生産的な完全雇用およびディーセントワークを推進するとなっています。
SDGsは国連に加盟する全ての国が「2030年」を年限として、達成に向けて取り組むべき目標です。外務省ホームページにはSDGsに取り組んでいる企業事例が載っています。今後もSDGsに取り組む企業は増えていくので、ディーセントワークが注目される背景となっています。
雇用環境の悪化
ディーセントワークが注目される背景として、雇用環境の悪化も挙げられます。2019年の世界の失業者は1億8,800万人であり、失業率は5.4%と高いままでした。また、現在1日1.9ドル以下の貧困ラインで働く人は世界で7億3,600万人もおり、例え職に就けたとしても貧困状態に陥るリスクがあります。ディーセントワークは、このような雇用環境悪化を防ぐために求められた概念です。
日本の現状
日本のディーセントワークへの取り組みは、ILOの定義を受けて以下の4点に整理されました(2012年4月「ディーセントワークと企業経営に関する調査研究事業 報告書」による)。
(2)労働三権などの働く上での権利が確保され、職場で発言が行いやすく、それが認められること
(3)家庭生活と職業生活が両立でき、安全な職場環境や雇用保険、医療・年金制度などのセーフティネットが確保され、自己の鍛錬もできること
(4)公正な扱い、男女平等な扱いを受けること
「ディーセントワークと企業経営に関する調査研究事業 報告書」ではディーセントワーク達成度を調査。達成度は、企業において「社員がディーセントワークをどれだけ認知しているか」「取り組みはどれだけ役立っているか」「仕事や職場に対する認識はどうか」によって指標化したものです。その結果、従業員満足度とディーセントワーク達成度には正の相関関係があることが分かっています。
ディーセントワークによるメリット
企業が具体的にディーセントワークに取り組むとどんなメリットがあるのでしょうか?5つのポイントで解説していきます。
・労働生産性の向上
・多様な働き方への対応
・ワークライフバランスへの対応
・個人の能力開発
長時間労働の抑制
日本では長時間労働が問題になることがあり、ディーセントワークに企業が取り組むことで長時間労働の抑制に繋がります。
欧州に比べて日本の労働者の労働時間は長くなりがちです。特に男性労働者の長時間労働は際立っており、週に49時間以上労働する人の割合は19%と、アメリカの19.2%と肩を並べています。週に49時間以上労働する男性労働者の割合は、ドイツ8.1%、フランス10.1%、英国11.5%です。
ディーセントワークに企業が取り組むことで、企業が長時間労働の多さを自覚し、効率的な働き方を推進することができるようになります。
労働生産性の向上
ディーセントワークでは生産的な働き方が求められます。ディーセントワークでは長時間労働を避けます。短い時間で付加価値を出す働き方をすることで労働生産性が向上するのです。
多様な働き方への対応
年齢・性別・国籍・宗教等によって働く機会を阻害されたり、労働環境を悪化させたりするのではなく、ディーセントワークは多様な働き方が認められる人材マネジメントを行います。ディーセントワークを意識した人材マネジメントを行うことで、採用・人材開発・処遇・昇進昇格において、多様な人材に対して公平に扱えるようになります。
ワークライフバランスへの対応
ディーセントワークは働く人がワークライフバランスを保って働けるように配慮します。家族の育児や介護、ボランティア、趣味といったプライベートと労働を両立させて働きたいと考える人に対して、ディーセントワークの考えを人事制度や組織開発に活かすことで、ワークライフバランスに対応できるのです。
個人の能力開発
ディーセントワークは個人の能力開発にも役立ちます。働きがいのある人間らしい働き方を追求するには、労働者自らが能力を高めていく必要があり企業はそれをアシストします。ディーセントワークに基づき企業が労働者の教育機会を設けることで、労働者は自立的に能力を高めていけるようになるでしょう。また、能力開発の機会も非正規社員にも与えることで、労働者が平等に能力を開発していけるようになります。
ディーセントワークの具体例
最後にディーセントワークの具体的な企業事例を2社紹介すると共に、オランダのディーセントワークへの取り組み事例を紹介します。
マンダム
マンダムはワークライフバランスへの取り組みや社員意識調査、治療と仕事の両立支援等、社員が人間としての尊厳を得られつつ働きやすい環境を整えています。
日立製作所
日立製作所は2013年に日立グループ人権方針を策定、すべてのステークホルダーに対して人権を尊重する取り組みをスタートさせてきました。会社全体で人権に対する意識を高めることで、人間らしい働き方を追求してきています。
オランダの取り組み事例
オランダは、正社員とパートタイマーの賃金と社会保険の格差をなくす同一労働同一賃金制度を導入し、また、ワークライフバランスにも努めています。オランダの取り組みはオランダモデルともいわれ、ディーセントワークの先進国といえるでしょう。
まとめ
ディーセントワークは働きがいのある人間らしい仕事を意味する言葉。ILOで初めて提唱されました。ディーセントワークはSDGsや雇用環境の悪化等により注目されてきています。日本では政府がディーセントワークに関するレポートを発表し、多数の企業事例が出てきています。