懲罰委員会とは?
懲罰委員会とは、企業が従業員に懲戒処分を下すのにあたり、対象となる従業員の具体的事実の確認と調査、ヒアリングを行うことで企業の懲罰権が公正に行使されるために設置される組織のことです。
企業が独自ルールで決めて良い
懲罰委員会のルールは法律で決まっていないため、企業には懲罰委員会を設置し開催する義務がありません。ルールが法律で決まっていないので、懲罰委員会を設置する場合は企業が独自ルールで決めて構わないことになります。すなわち懲罰委員会の構成員、構成員の役割、そして懲戒処分の内容についても企業が独自に決めて良いことになります。
就業規則に定めることが必要
就業規則の相対的記載事項として懲罰委員会があり、懲罰委員会を設置した場合は就業規則に定める必要があります。
懲罰委員会の概要
懲罰委員会の概要について詳しく解説していきます。
目的と意義
懲罰委員会の目的と意義について説明する前に、懲罰権について解説します。懲罰権とは労働者が企業秩序に違反した時に、企業に制裁することが与えられた権利のことをいいます。懲罰権は自由に与えられているものではなく、懲戒処分の内容は就業規則に定めることが必要といわれます。従業員がミスをすれば、企業がどんな懲戒処分でも従業員に下していい訳ではないのです。
また、就業規則に懲戒処分を定めておけば、いかなる時でも従業員に対して懲戒処分を下せる訳でもありません。労働契約法第15条では、社会通念上相当と認められない懲戒処分を行った場合、その懲戒処分については権利の濫用として無効となってしまいます。
企業に与えられた懲罰権の権利の濫用を防き、企業の懲罰権が公正に行使されることを目的として、懲罰委員会が設置されます。懲罰委員会には構成員がおり、ルールに則り対象となる従業員の事実関係を行い、ヒアリングを経て、企業としての厳正な懲戒処分を講じます。懲罰権を濫用しないために、企業や懲罰委員会は3つの原則を守らなくてはなりません。3つの原則は次の項目で説明します。
平等取扱の原則の順守
企業に与えられている懲罰権を濫用しないために、企業には平等取扱の原則を順守することが求められています。この原則は、同じ内容で企業秩序に違反した従業員が複数名いた場合、平等に懲戒処分を下すことを企業に求めています。Aさん・Bさんが共謀して社内の器物を損壊させた場合、A・B両名に同じ懲戒処分を下さなくてはならないという原則です。
処分相当性の原則の順守
企業に与えられている懲罰権を濫用しないために、企業には処分相当性の原則を順守することが求められています。この原則は、従業員が行った企業秩序への違反行為に対して、行為に見合った処分を下すことを企業に求めています。遅刻を1度してしまった従業員に対して解雇処分を下すことは、処分相当性の原則に反します。
適正手続きの順守
企業に与えられている懲罰権を濫用しないために、企業には適正手続きの順守も求められています。例えば、企業が従業員を懲戒処分する際、事実確認のために第三者にヒアリングせず従業員の言い分だけを聞いて処分すると、適正手続きを順守していないことになります。
懲罰権の濫用防止
懲罰委員会の3つの原則の順守は企業に求められているものです。順守の目的は懲罰権の濫用を防止し従業員に適正な懲戒処分を下すことにあります。従業員に肩入れしても不公平ですし、ろくに事実確認もせず従業員の言い分だけを聞いても、懲罰権を適正に行使したことにはなりません。懲罰委員会では、3つの原則を掌握して懲戒処分に当たらなくてはなりません。
懲罰委員会規程の定め方
懲罰委員会は就業規則等に規程を定めておく必要があります。どんな風に定めたらいいかを解説します。
就業規則か独立した規程に定める
懲罰委員会については就業規則に定めます。懲罰委員会は就業規則の相対的記載事項です。あるいは懲罰委員会規程を独立して定めても構いません。
懲罰委員会の役割
懲罰委員会の役割については、企業ごとに決めることができます。すなわち、懲罰委員会が懲戒処分を決定する組織なのか、あるいは企業が懲戒処分を行うために意見を聴取する組織なのか、といった役割のいずれかを決めることができます。役割が決まったら規程に書き込みます。
懲罰委員会の構成員
懲罰委員会の構成員については、委員長・委員に誰が就任するのかを決めます。管理監督者だけが委員に就くのか労働者側も委員となるのかを決めます。安全衛生委員会と違って委員が労使の半々である必要はありません。構成員の労使の割合も企業の裁量に委ねられているのです。
懲罰委員会における懲戒処分の範囲
懲戒処分については就業規則に網羅的に定められていると思います。しかし、就業規則に定められている懲戒処分を全て、懲罰委員会の懲戒処分の範囲とする必要はありません。
例えば、遅刻のような軽微な企業秩序違反については経営者の意思決定のみで良いでしょう。一方で従業員を懲戒解雇せざるを得ないような重い企業秩序違反については、懲罰委員会の懲戒処分の範囲とすることで、3つの原則を厳格に守り懲罰権を濫用せずに懲戒処分を下すことが可能になります。
運営方法
懲罰委員会をどのように開催するのか、従業員のヒアリングはどのような手段で行うのかといった運営方法を決めます。運営方法までを就業規則ないしは社内規程に記載するようにして下さい。
懲罰委員会を運用する際の注意点
懲罰委員会を就業規則に定めれば終わりではありません。懲罰委員会を実際に運用する際の注意点を2つ紹介します。
規程があるのに従わなかったら無効
規程があるのに従わなかったら無効とは、就業規則に懲罰委員会を設置・開催することが定められているのに、無視して懲戒処分を下したらその懲戒処分は無効になるということです。
例えば、上司が何度ミスを注意しても直らなかった従業員がいました。上司からミスを聞かされた社長は懲罰委員会があるにもかかわらず、独断で従業員に懲戒処分を下しました。この場合、いくら社長が下した懲戒処分といっても、規程に従って懲罰委員会を設置・開催しなかったので無効となってしまいます。社長が「就業規則に懲罰委員会が記載されていることは知らなかった」といっても通用しません。
設置したのに開催しなかったら無効
設置したのに開催しなかったら無効とは、懲罰委員会を設置したものの開催しなかった場合の無効を意味するものです。懲罰委員会は適正な懲戒処分を行うために懲罰権の濫用を防ぐための組織。懲罰委員会の対象となる従業員が出てきた場合に、委員が時間を取って委員会の運営に参加しなくてはならないのです。
「時間がないから開催しないでおこう」という判断による下された懲戒処分は無効となります。懲罰委員会を就業規則に定めた時点で、懲罰委員会は開催しなくてはなりません。就業規則に盛り込む前に、懲罰委員会を運用できるかどうかをシミュレーションしておくと良いでしょう。自社に合わないと感じた場合は懲罰委員会を設けず、経営者の意思決定による懲戒処分とした方が良いです。
まとめ
懲罰委員会の設置は法律で定められたものではありません。設置を決めた場合は就業規則の相対的記載事項になり、懲罰委員会のルールに則り設置・開催していくことが求められます。