自然災害、テロ、感染症。企業の事業継続を困難にさせるリスクは、いつ発生するか分かりません。事業を中断させず早期に事業を復旧するためにBCP(事業継続計画)が必要です。BCPを策定理由、メリット、そしてBCPの策定方法について解説します。
BCPとは?
地震や台風などの自然災害やテロなどのリスクに備えるため、BCPの策定が有効です。BCPの意味や目的を確認しましょう。
BCPの意味
BCPとは事業継続計画のことで、自然災害やテロなどのリスクに直面した際、事業を中断させずに復旧していくため計画を意味します。
BCPを策定しておかないとリスクが生じたときに対応しきれず、事業継続が困難になることもあります。BCPは将来のリスクを未然に防ぐための計画で、リスク・マネジメントの1つです。
BCPの目的
BCPを策定する目的は、リスクに直面したときに被害を最小限に抑え、早期に事業活動を復旧させるためです。リスクはいつ発生するか分かりません。リスクが起こったときに対応できるようBCP策定が必要なのです。
また、リスクによって経営が悪化するのは自社だけではありません。取引先が事業不振になり、自社の事業継続が困難になる場合もありますから、リスクに備えるためにBCPを策定し、あらゆる方策を講じておく必要があるのです。
BCPと新型コロナウイルスとの関わり
2020年に感染が拡大し、今なお終息が見えない新型コロナウイルス。新型コロナウイルスはBCP策定にも影響を与えています。帝国データバンクの2020年5月の調査によると、BCPを策定している企業は以下の通り増加傾向にあります(2019年調査と2020年調査の比較)。
また、BCP策定の意向がある企業のうち、事業継続が困難になると想定するリスクは次の通りとなっています。
注目されるのは2位の感染症です。昨年の調査結果よりも44.3ポイント増となっており、企業にとって感染症がリスクとして注目されていることが分かります。 事業継続計画(BCP)に対する企業の意識調査(2020年)
BCPを策定すべき理由とは?
企業がBCPを策定すべき理由について、掘り下げて考えていきます。
1.不確実なリスクに対応するため
企業の事業継続を困難にさせるリスクには、地震・台風などの自然災害、テロ、感染症など多様な種類があります。リスクは、いつ発生するか、規模もどの程度か分からない不確実なもの。
また、リスクは取引先に波及することもあります。想定外のリスク発生に対応するためには予めBCPを策定し、被害を抑え、早期に復旧できる計画を立てておく必要があるのです。
2.競争優位となる事業を見極めるため
リスクに直面した企業は競争優位となる事業こそ優先的に復旧したいと考えます。競争優位となる事業が復旧すれば、業績回復のスピードが速まるからです。リスクを想定した上で競争優位となる事業を見極めるため、BCP策定が必要となります。
3.従業員の雇用を守るため
リスクによって業績が悪化すれば、従業員を解雇しなくてはならない場合もあります。従業員の雇用を守るために、BCPを策定し、リスクに直面した企業が被害を抑え、事業を早期に復旧する必要があるのです。
4.ネットワーク障害を復旧するため
事業活動を継続するには、ネットワーク障害の早急な復旧が待たれます。ネットワークなしの事業活動は考えられませんから、BCPを策定し、ネットワーク障害から早期に復旧するための対策を講じます。
例えばリモートでアクセス可能なデータセンター、サーバーを確保することといった復旧策を講じておくことなどの対応策が挙げられます。
BCPのメリット
BCPを策定することで様々なメリットがあります。
リスク発生時に早期対応できる
リスクはいつ発生するか分からない不確実なものです。しかしBCPを策定しておけば、リスク発生時にすぐに対応できるのです。 BCPを策定しておかなければ、リスクが起こったときに手探りで情報を集め、行動しなくてはなりません。
早期対応できなければ傷口がどんどん広がっていきますので、経営へのダメージもくい止めることができないでしょう。自然災害やテロ、感染症などのリスクが起こったとき、すぐに行動できる体制を整えるのがBCPのメリットです。
顧客からの信頼が高まる
顧客の中には、相手がBCPを策定しているかどうかを重視している企業があります。例えば完成車メーカーにとって、リスクによって部品メーカーが生産できなくなれば自動車を完成できません。
ですから、顧客である完成車メーカーは、部品メーカーのBCPを重視し、リスクが起こっても製品が納入される仕組みが整っているかを確認するわけです。BCPを策定していれば顧客からの信頼を高められるのです。
企業の強み・弱みが分析できる
BCPを策定する中で避けて通れないのが環境分析です。リスクが発生したときには競争優位となる事業から復旧させていきたいところ。環境分析は外部環境分析と内部環境分析の2つに分けられます。
外部環境分析にはPEST分析、5Forces分析、内部環境分析にはVRIO分析、バリューチェーン分析などのフレームワークがあります。そして、外部環境分析と内部環境分析を統合したフレームワークに3C分析、SWOT分析があります。
環境分析を通じて企業の強み・弱みを分析できるようになります。企業の強みと弱みが分かると、競争優位となる事業(強み)が見極められるし、非コア事業(弱み)が分かるようになります。
BCPのデメリット
BCPにもデメリットがあります。
策定にコストがかかる
BCPを策定するには、調査、分析、計画策定に多くの時間とお金がかかります。社内の人材で間に合わなければコンサルティング会社が必要となるので、さらに費用がかかります。
見直しが必要になる
リスクが発生したとき、必ずしもBCPが機能するとは限りません。BCPが機能しないときに考えられるのは、「BCPで想定していないリスクが発生した」「BCPで講じた対策が不十分だった」というものです。BCPが機能しないときにはBCPの見直しをしなくてはなりません。
BCP策定の手順
BCPを策定するための基本的な手順を解説します。
目的・方針の設定
最初のステップは BCPを策定する上で自社が目指す目的・方針を考えること。以下の通り、目的・方針の具体例が考えられます。
- 企業や従業員の雇用を守るため
- リスクによって事業継続が困難にならないような計画を立てるため
- リスクによって取引先が倒産しても、自社の事業を継続するため
BCPを策定する上での目的・方針の設定は、BCP策定メンバーでは共通認識としましょう。メンバーが作業を分担することになっても、共通認識にしておけば目的・方針を落とし込むことができます。
優先順位の高い事業の洗い出し
目的・方針を設定した後は優先順位の高い事業を洗い出します。BCPのメリットで紹介したような環境分析のフレームワークを用いて、自社の競争優位となる事業を抽出し、優先順位ごとに洗い出していくのです。
リスクの分析
事業を中断してしまうリスクを洗い出します。洗い出す際は、リスクの種類ごとにリスク評価を行い、定性的・定量的に分析していきましょう。
リスク分析にはリスク・マネジメントの考え方を参照し、【リスクの大きさ=リスクの深刻度×発生確率】によってリスクの大きさを数値化して下さい。ただ、リスクの深刻度に捉われ過ぎず、リスクが小さくても発生確率が高いリスクには注意してリスクを洗い出していきます。
戦略の検討
優先順位の高い事業、リスクを洗い出したら、どうやって事業を復旧・継続できるか戦略を考えます。
BCPの策定
戦略までできあがれば、BCPの策定です。戦略を策定するときは、リスクが発生したときのメンバー体制を構築します。
具体的な氏名ではなく、部署名や役職名を表記し、リスク発生時にどんなメンバー体制を組織化できるかを考えるのです。また、BCPを発動するときの基準もルール化しておき、どんな場合に発動するのかしないのかを明確にします。
まとめ
いつ発生するか分からない不確実なリスクに備えるため、BCP(事業継続計画)策定が有効です。BCPの目的は、リスクに直面したときに被害を最小限に抑え、早期に事業活動を復旧させること。
自然災害やテロだけでなく、新型コロナウイルスのような感染症もリスクとなり得ます。BCPのメリット・デメリット、BCP策定手順を参考にしてみて下さい。