給与には基本給のほかにも様々な手当があります。調整手当もそのうちの一つですが、家族手当や地域手当などとは違い、企業によって支給要件が異なるのが特徴です。ほかの従業員との給与のバランスを保つためや、残業代として手当が支給されることも。この記事では、調整手当の意味や支給パターンの種類、規定例などについて解説します。
調整手当とは?
調整手当とは、基本給のほかに支給される手当の一つです。
基本給に加えて支給される手当には、家族手当・地域手当・資格手当などの種類がありますが、それらの手当はどんな企業でも大体の意味合いは同じです。
調整手当の場合は、給与のバランスを保つ名目で支給されることが多く、会社によっては残業代として支給されることもあります。
様々な不均衡を是正するための手当
調整手当の役割は、社員間における給与のバランスを適正に保つことです。
具体的には、会社の中で起こる賃金待遇の格差や不均衡を是正するための手当とも言えます。
企業により支給要件が異なる
調整手当は企業によって支給要件が異なるのが特徴です。
例えば、基本給と各種手当の支給合計額を大きく上回る活躍をした社員に追加手当として支給したり、新卒の新入社員に対して、就業規則の初任給を変えずに給与相場を引き上げるために支給するといったケースがあります。
「社内の不均衡を是正するための手当」なので、ルールや規定の枠外でもある程度汎用的に使えるのが特徴です。
調整手当が支給される4つのパターン
調整手当が支給されるのはどんな状況なのでしょうか。代表的な4つのパターンについて解説します。
ほかの従業員の給与とのバランスを保つ場合
ほかの従業員の給与とのバランスを保つ場合に調整手当が支払われます。
年功的な賃金制度を採用している企業で、能力の高い特定の若手社員を賃金で評価したいと考えるとします。しかし、わざわざ賃金制度を変えるまでもないので、調整手当を支払ってほかの従業員との給与のバランスを保つという訳です。
能力の高い特定の若手社員に調整手当を支払うことで、会社への貢献度とのバランスを保つのです。
中途入社者の前職給与とのバランスを保つ場合
中途採用でも調整手当は使えます。
売り手市場で採用の難易度が高まっている環境であれば、採用したい求職者の前職給与が自社の提示する金額よりも見劣りしてしまう状況がよくあります。
そんなときは、中途入社者の前職給与とのバランスを保つために調整手当を支払うのです。賃金制度を変更することなく、欲しい人材の基本給に上乗せして調整手当を支払えば、他社に見劣りしないので中途採用にプラスに働きます。
中途入社者の能力を見極められなかった場合
労働基準法は労働者保護の観点から、社員を容易に解雇することができなくなっています。
解雇できないからこそ、採用面接において中途入社者の能力を見極めきれなかった場合に調整手当を使うパターンもあります。
例えば月給30万円の求職者に対して調整手当を3万円支払う契約で、期間を6ヵ月間に限定します。
もしも期間中に能力を発揮できなかった場合、調整手当の支給を取りやめる規定にするのです。もちろん、能力を発揮できれば調整手当分を基本給に変換し、33万円とすることもできます。
人事制度を改定した場合
人事制度を改定した場合にも調整手当を支給することができます。
例えば、4等級で480,000円の基本給をもらっていた人が、等級格付けの変更によって3等級の430,000円に下がってしまうとします。そうなると月にして50,000円、年間で60万円の年収ダウンとなりますから、下げ幅が大きくなります。
そこで一定期間、経過措置として調整手当を支給し、50,000円分をカバーするのです。
等級が下がったということは、会社からの評価がそれだけ低いということを意味します。一定期間中の人事評価でA評価やB評価等を取ることができなければ、調整手当を外して430,000円の基本給にするという運用方法です。
調整手当を残業代として支給する場合
調整手当は残業代として支給することもできます。具体的な運用を説明します。
固定残業手当
調整手当を残業代として支給する場合は、固定残業手当として支給します。
内容は残業代なのですが、名目は調整手当を使うという処理方法です。固定残業手当ということですから、例えば30時間分の残業代として調整手当を支給することになります。
就業規則への記載を行うこと
固定残業手当として調整手当を支給する場合は、労働者に「調整手当=固定残業手当」であることを伝えなくてはなりません。
そうしないと残業代が支払われていないとして、労使間トラブルを生むことにもなりかねないからです。また、就業規則への記載も必ず行わなくてはならないので注意しておきましょう。
調整手当で給与をマイナスする場合の処理方法
状況は限られますが、給与金額をマイナスする場合にも調整手当を使うことがあります。具体的な状況や手順を解説します。
給与の過払いがあった場合
給与の過払いがあった場合には、調整手当をマイナス分として給与額の調整を行います。
基本給や家族手当等のほかの手当を減額するのではなく、調整手当を減額することで過払い分を調整する訳です。
従業員にペナルティを課す場合
従業員にペナルティを課す場合にも、調整手当を減らすことで給与額の調整を行うことがあります。
従業員が遅刻を繰り返したり、無断欠勤をするなどの問題行動が多い場合、その時間・日数について調整手当をマイナス分とすることができます。
調整手当の運用方法と規定例を紹介
調整手当の運用方法と規定例について解説します。
調整手当の目的を明確化する
調整手当を設けていない企業が調整手当を導入する場合は、調整手当の目的を明確化することが重要です。
闇雲に調整手当を設定してしまうと、給与規程の管理が煩雑になったり、給与の支払いオペレーションにミスが発生しやすくなってしまいます。
- 「何のために調整手当を導入するのか?」
- 「そもそも導入は必要なのか?」
- 「もっと良い方法で目的を達成する手段はないか」
など、制度のメリット・デメリットをしっかりと考えたうえで検討するようにしましょう。
就業規則や給与規程に記載する
調整手当は、就業規則や給与規程に記載する必要があります。
調整手当の詳細は、就業規則や給与規程に盛り込んでも良いですし、「調整手当は会社が必要と判断した社員に支給する」というように抽象的な表現に留めておいても構いません。
給与明細の項目
調整手当を給与明細に記載するときは、社員に基本給と混同されないように分類して記載するのがルールです。
規定例
調整手当を規定に盛り込むときには、「給与の構成」や「手当」を記述する欄に記載しておきます。
また、調整手当という項目を独立して設けて、調整手当をどんなときに支給するのかを記述します。例えば、前述の「調整手当は会社が必要と判断した社員に支給する」でも構いません。
調整手当の支給要件を規定に定めるときは、その旨を記述しておきます。
例えば、「新卒の新入社員に対する初任給調整手当」「固定残業手当としての調整手当」「中途入社者に対する調整手当」について具体的に記述しておくということです。
調整手当を上手に活用して公平な労働環境を
今回は調整手当の特徴や支給ルールについて詳しく解説しました。
調整手当は汎用性が高いため、支給額を微調整するための手当と勘違いしてしまう人が多いですが、本来の目的は会社内の不均一を改善するための手当であることを忘れてはいけません。
正しい知識とルールで調整手当を活用し、誰もが公平性を感じる快適な労働環境を作り上げてみてください。