パタハラは、育児制度の利用に関して男性従業員が職場から受ける嫌がらせのことです。少子化が進む日本では、男性従業員の育児参加が求められています。この記事では、パタハラが起こる原因やパタハラの具体例、企業ができるパタハラ対策について解説します。
パタハラとは?
パタハラはパタニティハラスメントの略で、男性従業員が育児制度を利用するとき、または利用した後に職場から受ける嫌がらせのことです。
ちなみにパタニティは父性や父であることという意味。パタハラは、育児制度の中でも特に育児休業の取得に関して、男性従業員への嫌がらせとして起こります。
パタハラはなぜ注目されるのか
育児休業や時短といった育児制度は、育児介護休業法にルールが定められています。育児介護休業法により、男女を問わず育児休業や時短を利用できます(日雇労働者を除く)。
また、育児介護休業法では育児休業などを利用した男女の従業員に対して、企業が不利益な取扱いをすることも禁じています。 つまり企業がパタハラをすることは、法律に違反する行為です。
法律に違反するにもかかわらず、企業がパタハラをしてしまうこと、どうすればパタハラを防止できるかについて注目されています。
男性の育児休業取得率
厚生労働省によると、2019年度の男性の育児休業取得率は7.48%で、前年比1.32ポイント増でした(雇用均等基本調査)。前年に比べると取得率が上昇しているものの、女性の83.0%に比べると依然として低い数値です。
パタハラとマタハラとの違いとは?
マタハラとはマタニティハラスメントの略で、育児制度の利用に関して女性従業員が職場から受ける嫌がらせのこと。
パタハラとマタハラは育児制度の利用に関して嫌がらせを受けるという意味では同じで、性別が違う点が相違点です。
パタハラはなぜ起きるのか
そもそも、パタハラはなぜ起きるのでしょうか?パタハラが起こる理由を確認してみます。
育児介護休業法への理解不足
職場で「育児休業は女性社員が取るもの」「男性に育児休業を取られたら仕事が回らない」といった声を聞いたことがありませんか?
育児介護休業法により男性従業員の育児休業取得は法的に認められています。しかし、職場が育児介護休業法を理解していないためにハラスメントが起こりやすいといえます。
誤ったジェンダー観
ジェンダーとは生物学的な性別に対して、社会的に作られた性別をいう言葉です。男女の身体的性別と違い、ジェンダーは「家庭のことは女性に任せるべき」「男性は育児よりも仕事に専念すべきだ」といった性別がジェンダーです。
誤ったジェンダー観を職場が持っていると、男性従業員が育児休業や時短を取得しようとするときハラスメントが起こりやすくなります。 誤ったジェンダー観は、同僚、上司の理解不足を生みます。
理解不足が放置されると男性従業員は様々な不利益を被ります。例えば、男性従業員が時短を取得したり定時で帰ったりすると、業務変更や降格などの不利益変更に繋がる可能性があるのです。
企業の体制が不備
育児制度利用に関して、企業の体制が不備だとパタハラが起こりやすくなるでしょう。
男性従業員が育児制度を利用できる組織体制にしないと、業務が回らなくなります。結果として、男性従業員が育児制度を利用することがパタハラに繋がります。
パタハラの具体例
パタハラの具体例にはどんなものがあるか、見ていきましょう。
育児制度の利用を禁じる
男性従業員の育児休業や時短の申請を認めないのはパタハラに当たります。例えば、男性従業員から申請があったとき、「仕事が回らない」「降格になるよ」などといって申請を禁じることはパタハラです。
「会社には男性従業員が育休を取るルールがない」ということもパタハラ。法律は会社のルールに優先しますから、育児制度利用の申請があれば、会社は申請を許可しなくてはならないのです。
嫌がらせをする
男性従業員から育児制度利用の申請があったときに嫌がらせをすることはパタハラです。育児休業から復帰した男性従業員から仕事を取り上げたり、1人だけ会議に呼ばなかったりするなどの嫌がらせがパタハラに当たります。
不利益な配置転換を行う
パタハラは職場だけでなく会社の人事施策にも関わります。不利益な配置転換、降格、減給を行うことはパタハラです。
企業ができるパタハラ対策
パタハラは法律違反行為です。職場でパタハラが起こらないよう企業は対策を取る必要があります。
インクルージョンを推進する
インクルージョンとは、包含や包容を意味する言葉。ビジネスでは性別・年齢・国籍・民族・宗教・障害の有無などの違いを受け入れて、全ての労働者が働ける機会を設けることという意味で使われます。
多様な人材が個々の力を活かして働ける職場を目指すことがインクルージョンに繋がります。 インクルージョンを推進していけば、「育児は女性がするもの」ではなく、育児制度を利用する男性従業員も活躍できる職場を目指していけます。
啓蒙活動を行う
パタハラを防止するには社内で男女に関わりなく育児制度を利用できるよう啓蒙活動することも効果があります。啓蒙活動を行えば、男性従業員が「自分も育児休業を取れる」と思ってもらえます。
また、上司や同僚も育児制度を利用する男性従業員を理解できるようになるのです。
相談窓口を設置する
パタハラを受けたときの相談窓口を設置することも、パタハラ対策です。
啓蒙活動と共に相談窓口設置の案内を出すと、パタハラ防止への抑止力に繋がり男性従業員は安心して育児制度を利用できます。
子育て推進企業の認定を受ける
くるみんマークは、子育て推進企業として厚生労働大臣から認定を受けたことを証明するマークのことです。
くるみんマーク認定には職場で取り組まなくてはならない事項もあり、数値目標もあります。くるみんマーク認定を進めるプロセスにおいて、パタハラを防ぎインクルージョンが推進される職場になっていくことでしょう。
ロールモデルを周知する
パタハラ対策には、企業が率先してロールモデルを作り、社内に周知することが挙げられます。
ロールモデルがあれば男性従業員は育児制度を利用しやすくなります。また、ロールモデルを周知することで、職場の上司や同僚にも男性従業員の育児制度利用への理解が深まります。
イクメン企業アワードへ参加する
イクメン企業アワードは、男性の仕事と育児の両立を促進し、労働環境を整備している企業を表彰する仕組みのことです。厚生労働省が2013年より進めてきました。
イクメン企業アワードに参加すれば、「男性の育児に理解がある会社」という印象をアピールできますし、会社が男性従業員への育児参加を進めている事実を知れば、パタハラを防ぎやすくなります。
パタハラ発生時の対処方法
実際にパタハラが起こってしまったときには、担当者はどのような手順で解決すればよいのでしょうか。企業側の対処方法を確認します。
1.事実の確認
パタハラは、男性従業員や周囲からの報告によって発覚します。パタハラの存在を知ったら、まずは事実関係を確認します。
パタハラの被害者から、具体的にパタハラの事実を確認して下さい。同時に周囲の同僚からもパタハラの事実を確認しましょう。
「いつ」「どこで」「誰が」「どのように」パタハラが発生したのか、具体的に確認することが大切です。
2.被害者への対応
パタハラを確認した後はスピード感をもって被害者に対応します。パタハラを放置すると次のような事態に発展しかねません。
- 男性従業員の精神的ダメージの拡大
- 男性従業員の離職リスク
- 男性従業員による訴訟リスク
企業は男性従業員のモチベーションが下がらないよう、プライバシーにも配慮して、速やかに被害者に対応します。そして「時短を認める」「育児休業を認める」などの対応策を実行します。
3.加害者への適切な指導、処分
加害者に対しては、適切な指導が必要です。育児制度利用が法律で認められていること、パタハラの危険性などを指導します。繰り返しパタハラが行われているようなら、就業規則に沿って加害者を処分します。
4.パタハラ防止策の実施
次はパタハラが起こらないよう、防止策を実施します。社内で防止策を思いつかないときは、弁護士や社会保険労務士などの外部機関に相談しましょう。
まとめ
男性の育児参加が求められる中、パタハラとは何か、なぜ起こるのかを知ることが大切です。その上で、企業ができる対策を実施し、もしパタハラが発覚したら速やかに対処して下さい。