過労死とは?定義・原因・過労死認定基準・裁判事例・対策を解説

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過度な労働時間を続けたことによる「従業員の過労死」が問題となっています。過労死問題は企業の責任を問う判例も出ており、企業は過労死防止に積極的に取り組む必要があります。過労死はなぜ起こるのでしょうか?過労死が起きてしまう原因、裁判事例、企業の対策について解説します。
目次

過労死とは?

過労死とは、過度な労働時間を続け心身に大きなダメージがかかった結果、心疾患や脳疾患にかかり死んでしまうことをいいます。過労死は、仕事中に突然亡くなるだけでなく、精神的に抑圧され自殺する場合もあります。

過労死の定義

過労死等防止対策推進法により過労死が定義されています。同法では「過労死等」について、業務における過重な負荷による脳血管疾患若しくは心臓疾患を原因とする死亡若しくは業務における強い心理的負荷による精神障害を原因とする自殺による死亡又はこれらの脳血管疾患若しくは心臓疾患若しくは精神障害と定義されています。

死亡や自殺だけでなく、脳血管疾患や精神障害も「過労死等」に含まれていることが分かりますね。 過労死等防止対策推進法は、平成26年(2014年)に制定された法律で、過労死ゼロを目指し、従業員の仕事と生活のバランスを図り、健康で充実して働き続けられる社会を目的として制定されました。

過労死ライン

過労死ラインとは、健康障害や死亡に至るリスクが高まるとされる時間外労働の目安のことで、80時間とされています。ただし過労死ラインは目安であり、過労死ラインを超えていないからといって、過労死が労働災害として認定されないわけではありません。

過労死の原因

過労死になるまで、なぜ従業員は働いてしまうのでしょうか?過労死の原因を探っていきます。

冷静な判断力が失われるため

過重労働を強いられていくと、冷静な判断力が失われます。健康に働き続けるために必要な「身体を休ませないといけない」「休暇を取ろう」といった判断力が失われていくのです。結局、判断力を失ったまま毎日長時間労働を続けていき、突然の体調不良により過労死に至ってしまうのです。

過重労働が常態化しているため

上司も同僚も過重労働を当然としている職場では、過労死になりやすいといえます。「上司が残っているから帰宅できない」雰囲気の職場では過重労働が常態化し、過労死に至りやすいのです。

責任感が強過ぎるため

従業員自身の責任感が強過ぎると過労死になりやすいです。責任感が強過ぎると自分の能力や体力を超えてがんばってしまうので、過労死に至りやすくなるのです。

人手不足のため

人手不足の職場では従業員に重い負荷がかかるので過労死になりやすいです。日本は、戦後一貫して生産年齢人口が増加してきました。しかし人口減少に伴い生産年齢人口は減少し続けています。

人口問題研究所によると、生産年齢人口は1995年の8,726万人をピークとして減少し、2015年では7,728万人まで減っています。2029年で7,000万人、2,040年で6,000万人を割り込むと予想されているのです。

生産年齢人口が減少すれば、企業は従業員の奪い合いに悩まされ人手不足となります。従業員は、少ない人手で仕事をしますので過重労働となり過労死になりやすくなるのです。

日本の将来推計人口

上司に相談できないため

上司に相談できないことも過労死になりやすい原因です。仕事を割り振るのは上司ですから、過重労働のために辛いという状態を相談できないとなると、自分で抱え込むことになり、心身を病んで死亡に至りやすくなるのです。

過労死基準は?

厚生労働省は過重労働によって心身の病気にかかったときに、労災保険から補償を受けられるか否かについて労災認定基準を設けています。労災認定基準は過労死したときに労災認定されるかどうかの基準でもあるので、過労死基準とも呼ばれます。

過労死基準に認定される疾病について、脳・心疾患と精神疾患に分けて確認します。該当する疾患により死亡しても労災との因果関係が示されなければ、労災認定されない点は注意が要ります。

脳・心疾患の場合

過労死基準とされる脳・心疾患には以下のような疾病があります。

  • 脳出血
  • くも膜下出血
  • 脳梗塞
  • 心筋梗塞
  • 狭心症
  • 解離性大動脈瘤

精神疾患の場合

精神疾患では以下のような疾病があります。

  • 症状性を含む器質性精神障害
  • 精神作用物質使用による精神および行動の障害
  • 統合失調症、統合失調症型障害および妄想性障害
  • 気分障害
  • 神経症性障害、ストレス関連障害および身体表現性障害

過労死裁判事例

過労死が労災認定された裁判事例について説明します。

居酒屋チェーンの事例

居酒屋チェーン・和民で働いていた従業員が過重労働のため自殺した事件です。2008年4月に入社した従業員は、同年6月に自殺。月141時間もの残業があったことで労災認定されています。

裁判の結果、和民を経営するワタミと創業者が1億3千万円を超える慰謝料を支払うことで和解となりました。ワタミ側は安全配慮義務違反などの法的責任を認め、遺族側に謝罪しています。

大手広告代理店の事例

大手広告代理店・電通で働いていた従業員が過重労働のため自殺した事件です。2015年4月に入社した従業員は月100時間前後の残業が続いたことで心身を病み、同年12月に自殺に追い込まれました。

2017年に、簡易裁判所より、電通は罰金50万円の有罪判決を下されました。従業員の上司は違法残業させたとして2016年に書類送検されたものの、東京地検は2017年に不起訴となっています。なお電通の社長である石井直氏は、過労死問題を受けて2017年1月に引責辞任しました。

鉄道会社の事例

JR西日本で働いていた従業員が過重労働のため自殺した事件です。従業員の時間外労働は最大で254時間に達しました。大阪地方裁判所では、従業員の遺族に対して約1億円の損害賠償金を支払う命令が下されました。

過労死を防ぐための対策

大切な従業員の命を失わないためにも、企業が過労死を防ぐために対策を講じる必要があります。

過重労働の削減

2019年4月の法改正で時間外労働の上限規制が設けられ、臨時的な特別な事情を除き月45時間、年360時間を超えることはできなくなりました。

大企業への上限規制は2019年4月から、そして中小企業に対しては2020年4月より上限規制が適用されることになります。 臨時的な特別な事情がある場合でも、年間720時間以内の時間外労働、月間100時間未満、2~6か月平均80時間以内の時間外労働(休出含む)とする必要があるのです。

また、時間外労働の上限に違反したときは、6か月以下の懲役または30万円以下の罰金が科される可能性があります。企業は従業員の労働時間を把握するとともに管理し、過重労働削減に取り組んでいくことで、過労死防止に繋がります。

働き方や組織風土の見直し

過重労働が当たり前とされるような働き方や組織風土については見直しが必要になります。特定の従業員に仕事が集中しないよう、業務の洗い出しと仕事の公平な割り振りを行います。

また、ITツールを導入して仕事の効率化を講じていきます。働き方は、従業員がワークライフバランスを取れることを目指して見直しましょう。 組織風土の見直しは、経営者が見直しに介入して「目指すべき目標」をしっかりと掲げ、ワークショップを通じて従業員自らがこうなりたいと望む風土を目指していきます。

パワーハラスメントの撲滅

職場でパワーハラスメントが横行していると、従業員は上司に相談できず心身を病む可能性が生じます。パワハラが原因で過労死を招くこともあります。企業は過労死を防ぐためにパワハラ撲滅に向けて対策を講じます。パワハラ対策としては、従業員が研修に参加することによる啓蒙活動、パワハラ相談窓口の設置などが有効です。

ストレスチェックを始めとするメンタルケアの実施

企業は過労死防止のためメンタルヘルスケアを実施する必要があります。メンタルヘルスケアには以下の4つのケアがあるとされます。

  • セルフケア
  • ラインによるケア
  • 事業場内産業保健スタッフ等によるケア
  • 事業場外資源によるケア

例えば、労働安全衛生法では、従業員50人以上の事業場に対してストレスチェックの実施を義務付けています。従業員がストレスチェックを受けることで自身のセルフケアに繋がります。

まとめ

過労死は裁判になるほど社会的な問題です。法改正による従業員の過労死を防ぐ仕組みが整えられつつありますが、企業がどのように過労死防止に取り組めるかが重要です。自社の過重労働の実態を把握・管理し、過重労働にならない働き方・組織風土の見直し、パワハラの撲滅などを講じていく必要があります。

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