ファーストペンギンとは、リスクを承知の上で勇気を出して行動する人物や企業をいう言葉です。ビジネスでは既存のやり方を踏襲していけば良いとは限りません。リスクがあると分かっていても、飛び込んでいく行動力が期待されます。ファーストペンギンの特徴や育成方法、企業事例を解説します。
ファーストペンギンとは?
ファーストペンギンの意味や由来について確認していきます。
ファーストペンギンの意味
ファーストペンギンとは、リスクを承知の上で勇気をもって行動する人物や企業を指す言葉です。
行動や決断の先にリスクがあるとき、人は躊躇してしまいがちですよね。なぜなら、行動や決断に伴うリスクについては、自分が責任を取らなくてはいけないからです。
例えばチャレンジによってミスをしたとき、責任を全て会社に負ってもらうわけにはいきません。自分が責任をもって対処しなくてはならないのです。そのため、チャレンジせず、既存のやり方に留まりたい心理が働くものです。
しかし、何かにチャレンジしなくては生産性の向上もイノベーションも望めません。企業を取り巻く環境変化が激しい現状においては、ファーストペンギンとなる人物や企業が期待されます。
ペンギンの習性をビジネスに応用する
ファーストペンギンという言葉の由来はペンギンの習性からきています。ペンギンはなぜ集団行動できると思いますか?その理由は、ペンギンには初めに行動する1羽に従うという習性があるからです。
氷上を歩くときは最初の1羽に従いますし、エサにありつこうと思って海に飛び込む1羽に従うのです。 最初の一歩にはリスクがつきもの。海に飛び込んだとき、待ち構えていた天敵に食べられてしまうこともあります。
しかし、リスクを恐れていてはエサにありつけません。また、海に飛び込むことで真っ先にエサを得ることもできます。リスクを承知の上で行動し、意思決定していくペンギンをビジネスに応用したのがファーストペンギンです。
ファーストペンギンになる人の特徴
ファーストペンギンになる人にはどんな特徴があるでしょうか。3つのポイントで確認します。
リスクを恐れない
ファーストペンギンはリスクを理解し、その上でリスクを恐れない人です。リスクを理解しているのでファーストペンギンは向こう見ずな行動を起こしません。
行動すれば自分にリスクがかかり、責任を負う必要があることを把握し、それでも行動することのメリットや成果を得ることを目指します。
挑戦できる
ファーストペンギンは挑戦できる人です。やり慣れていない仕事なら失敗のリスクはつきもの。
難しい目標、課題に対して「失敗したらどうしよう」とためらうのではなく挑戦していけるのです。挑戦して獲得できる成功を目指して行動し、決断していける人です。
過去に捉われ過ぎない
ファーストペンギンは過去に捉われ過ぎることがありません。例えば、新製品によって営業担当者が新しく市場を開拓しようとしたとき、既存のやり方で営業すれば安全かもしれません。
しかし、新製品が新市場でも受け入れられるかどうか分からないですよね。ファーストペンギンは、既存のやり方で留まらず新しいやり方を実行していける人です。
ファーストペンギンを育成するには?
企業を取り巻く環境変化が激しい現代においてはファーストペンギンが求められます。それでは、社員をファーストペンギンとして育成するにはどうしたら良いでしょうか。
透明性の高い人事評価を行う
リスクを承知の上で行動する人を育てるには、求める人物像や人事評価項目に「決断力」「挑戦」を加え評価していく必要があります。行動し、決断していける人物を評価したいというメッセージを人事評価制度に盛り込むのです。
そして、何よりも重要なことは透明性の高い人事評価を行うことです。 行動したのに報われない評価制度だと、社員は二度と行動しなくなります。
リスクを承知の上で行動した社員に報いる評価制度を実行して下さい。透明性の高い評価にすれば、「自分の思い切った行動によって評価されている」と社員は感じます。
フラットな組織を作る
ファーストペンギンを育成しようと思っても、社員に意思決定権がなければ育成できません。全て管理者が決めてしまう組織では、社員は管理者に決定を委ねるのです。
ファーストペンギンを育成するためにはフラットな組織を作ることが大切です。フラットな組織では、上下関係がありつつも、社員に意思決定権があるため、責任をもって決断していけるのです。
心理的安全性を保つ
心理的安全性を保つこともファーストペンギンの育成に必要なことです。心理的安全性とは、人が行動したとき、行動に伴うリスクがあっても、組織内では安全だという認識が組織内で共有されている状態のことです。
例えば「新しい企画に挑戦したい」と社員がいったとします。それに対して上司が「そんな企画はリスクが高い。既存の企画を焼き直した内容が無難だ」といえば、社員は新しいことに挑戦しなくなるでしょう。
ファーストペンギンを育成するときにも、心理的安全性を確保する職場にしていく必要があるのです。
多様な意見を受け入れる
価値観や考え方が似たり寄ったりの組織では、ファーストペンギンを育成できません。多様な意見を受け入れる組織にすることで、行動し決断していけるファーストペンギンを育てられます。
多様な意見を受け入れるようにするには、性別・年齢・国籍・価値観によって差別されず、活躍できる組織を作っていくことが大切です。
日本のファーストペンギン企業の事例紹介
ファーストペンギンは人物だけでなく、企業に対しても使える言葉です。日本のファーストペンギン企業を紹介します。
ソニー
ソニーは、テレビやイメージセンサーなどのハードウェア、金融、映画や音楽、ゲームといったコンテンツビジネスまで幅広く手掛けています。
ソニーがファーストペンギン企業として知られる製品にはいくつもありますが、ここではウォークマンを取り上げましょう。 音楽を持ち運んで聞くというスタイルは、現代では当たり前です。
しかし、ウォークマンが登場する以前、音楽はリビングで聞くものでした。オーディオセットを用いてゆったりと聞くのが音楽だったのです。ところがソニーは、携帯して音楽を聞くウォークマンを開発。社内では批判や反対があったものの、ウォークマンは発売して2か月で初回生産分が完売するほどのヒット商品となりました。
社内から批判や反対があると「リスクがあるのに開発して良いのか」と不安になることが容易に想像されます。しかも音楽の常識を覆す製品だったので、売れるかどうかは未知数。しかしソニーは、リスクを知っていても開発にこぎつけ、結果、ヒットに繋がったのです。
ホンダ
ホンダはクルマや二輪、小型ジェット機も手掛ける会社です。本田宗一郎が創業したことでも知られています。ホンダはいくつもの事業を展開していますが、本記事では二輪車を紹介します。
ホンダの二輪車の世界生産台数は2019年に累計4億台を突破。二輪車の世界シェアは3割に達するほど成功を収めています。 世界シェア3割を誇るホンダの二輪車事業ですが、米国市場に進出した際には苦戦し、初年度の半年間はわずか170台しか売ることができませんでした。
米国ではハーレーダビッドソンのような大型車が主流で、ホンダの小型二輪車は見向きもされなかったのです。大型車が主流の米国市場で、どうやってホンダはバイクを売るのか。目をつけたのがスーパーカブ。スーパーカブをスポーツやレジャーのお供に使う米国人がいたのです。
そこでホンダはスポーツショップや釣具店などに二輪車を置いて販売し、また、従来のバイク販売店への教育を徹底。米国進出3年後には、スーパーカブの月間販売台数は1000台超えるまでのヒット商品となったのです。小型二輪車を売るリスクを承知の上で、ホンダは米国市場に挑戦し、結果、スーパーカブを起点として大きな成功を収めました。
ソフトバンク
ソフトバンクは携帯電話やインターネット事業の他、投資事業も積極的に行っている会社です。ソフトバンクはリスクが想定されても多くのことに挑戦してきました。
2001年から4年間、ソフトバンクの利益は赤字でした。当時、売上高の減少と株価の低迷に悩まされていたソフトバンクが進めていたのはADSL事業です。
ADSL事業で成功できるかどうかも分からない中、ソフトバンクは4年をかけてADSLで成功できる販売方法を試します。あらゆる方法を検証した結果、2005年から黒字を確保することができたのです。
株式公開会社が5期連続で赤字になると、上場廃止になってしまいます。それでもソフトバンクは、リスクがあることを承知の上で行動し利益を得たのです。
まとめ
ファーストペンギンとは、リスクを承知の上で勇気を出して行動する人物や企業をいう言葉です。
ペンギンが初めに行動する1羽に従うという習性に由来しています。行動や決断に伴うリスクについては、自分が責任を取らなくてはいけません。
しかしファーストペンギンとなる人や企業は、リスクがあっても挑戦し、利益や成果を得られるのです。環境変化が激しい現代では、ファーストペンギンが期待されます。