会社の中でも特にユニークな性質を持つ役職が「執行役員」です。
「なんとなく位の高そうな役職であることは想像できるけど、実際にどんな仕事をしているのかわからない」…という人は多いでしょう。
この記事では、執行役員の特徴について詳しく解説します。
執行役員とは?
執行役員とは、事業部門のトップとして事実上の事業運営を担う役職のことです。
通常の従業員よりも大きな裁量権・実行権を持ち、会社の意思決定を行う取締役から直接依頼を受けるポジションにいます。
執行役員制度が生まれた背景
執行役員制度は、もともとアメリカ企業が導入していた形態の一つでした。1997年にソニーが初めて制度を導入したことで、徐々に日本企業全体に普及しました。
取締役の仕事は大きく分けて二つ。「意思決定」と「執行」です。
従来の日本企業が抱えていた弱点は、取締役に業務上の負担がかかりやすいということでした。
会社が大きくなるにつれて、意思決定のスピードや業務執行が遅くなるのは当然のこと。取締役のタスクが増大すれば、企業として営業活動がスムーズに進まなくなってきます。
その弱点を見事に克服したのが「執行役員制度」です。
取締役が持つ二つの仕事のうち、業務遂行のみを切り取って専任化することで、意思決定と執行のスピードを飛躍的に高めることに成功したのです。
執行役員の主な仕事内容とは?
執行役員の仕事は、取締役が決定した重要事項を実行することです。
仕事は多岐に渡りますが、通常は事業領域のトップに立って、陣頭指揮・管理・業務執行などに携わることが多いようです。
執行役員の業務はあくまでも「重要決定事項の業務遂行」のみであり、取締役会の意思決定に参加したり、決定事項を覆したりする権限はありません。
執行役員は「従業員」として規定される
執行役員は「役員」というワードが入っているので勘違いしがちですが、会社法・商業登記法で定められた役職ではありません。
課長・係長などと同じ肩書きの一種なので、法律上は普通の従業員として規定されています。
法律に縛られた役職ではないため、会社によって裁量権・責任・執行範囲が大きく異なるのが特徴です。
取締役と執行役員の違いについて
取締役と執行役員の大きな違いは、会社法上の役員に該当するかどうかがポイントになります。
会社法で規定される役員とは
役員とは、会社の経営に携わるポジションのことです。
会社法で規定されている役員は、「取締役」「監査役」「会計参与」の3種類になります。
取締役
取締役は、会社の中でトップクラスの権限を持つ最高位の役職です。「経営方針の決定」と「業務の遂行」という二つの役割があります。会社法により、株式非公開企業の場合は最低1名以上を取締役として任命する必要があります。
監査役
監査役は、取締役を含む企業の経営陣を監査する役職です。主な業務は経営監査・会計監査など、主に資金周りの動きを見守る役割があります。会社設立の際に設置が義務付けられていない役職ですが、中小企業などの人員リソースが少ない場合でも、経理・人事担当者が兼任して担当する場合が多いです。
会計参与
会計参与は、会計周りの業務に特化した役職です。主な業務は取締役と共に各種計算書類を作成すること。数字の算出から文章作成、提出まで一連の作業を担当する必要があり、業務には重い責任発生します。ミスが許されない作業が多いため、税理士・公認会計士を任命する場合がほとんどです。監査役と同じく、設置が義務付けられている役職ではありません。
みなし役員とは?
みなし役員とは、経営に参画する場合に通常の従業員でも法人税法上は役員として記載できる制度のこと。「役員報酬を受け取れる」「一部経営に参画できる」などの特徴がありますが、給与を経費扱いにできないなどのデメリットもあります。
執行役員と取締役の兼任は可能?
執行役員とはそもそも取締役の一領域を切り取った役職に過ぎないため、「執行役員」と「取締役」を兼任することはもちろん可能です。
事業資金の少ない中小企業はコストカットのために取締役と執行役員を兼務しているケースが多く、事業規模が大きい大手企業は執行役員制度を導入していることが多いです。
執行役員の報酬や定年について
執行役員の給与や待遇面について詳しく解説します。
執行役員に役員報酬はある?
執行役員は会社法上の役員には該当しないため、役員報酬は発生しません。
その代わりに、給与や賞与で一般の従業員よりも優遇される場合が多いです。
執行役員の年収はどれくらい?
執行役員は会社の一従業員であるため、給与評価も仕事の実績や目標達成率などを元に増減します。
一般の従業員よりは責任の重いポジションに就いているため、給与もそれなりに高額になることが多いです。
業種・経験・スキル・担当領域などによっても大きく異なりますが、中小企業の執行役員の年収の相場は、1,000万円前後と非常に高額です。
執行役員の定年について
執行役員は会社法上普通の従業員と変わらないため、定年退職の対象となります。
特に規定がない場合は、通常の従業員同様に定年年齢・定年時期・退職金などを計算して当てはめる形になります。
ただし、会社が定めた就業規則の範囲内であれば、「定年時期を伸ばす」「退職金の額を増やす」といった取り決め自体は可能です。
執行役員制度を導入するメリット
執行役員制度は、上手に導入できれば企業の経営活動をスムーズにすることが可能です。
ここからは、執行役員制度を導入することで得られる4つのメリットについて解説します。
取締役の業務がスムーズに進む
取締役の執行業務を執行役員が請け負うことで、取締役が意思決定に集中できるようになります。
「意思決定」から「実行」までの流れがスムーズに進むので、会社全体でスピーディーに業務を遂行することが可能になります。
経営陣と従業員の意思疎通が強化
執行役員は、言わば経営陣と現場で働く従業員の架け橋的存在です。
取締役と従業員の間に入って業務に携わることで、両者の意識のズレを無くす役割があります。
現場の声を無視した経営陣の暴走を抑制し、反対に現場の意見を代表者として上に通すことで、現場で働く人の意見が通りやすいクリーンな職場環境を作ることができます。
優秀な人材を育成できる
執行役員は、経営と現場指揮という二つの仕事を両立できる珍しい役職です。
有望な人材に若いうちから執行役員として活躍してもらうことで、会社の将来を担うトップ人材へと成長するチャンスを与えることができます。
また、執行役員から現場で働く優秀な人材を報告してもらうことで、次なる重要役職の任命にも役立てることができるのです。
給与を損金扱いにできる
みなし役員になっていない(経営に参画していない)執行役員は、通常の従業員と同じく給与を経費として計上することができます。
経営者の立場から見れば、コストの高い執行役員の給与を経費計上できるのは経営上大きな強みになります。
執行役員制度を導入するデメリット
執行役員制度を上手く活用すれば素晴らしいリターンを得られる反面、当然デメリットも存在します。
仕事内容が曖昧
執行役員は法律やルールできちんと定義された役職ではないため、仕事内容が曖昧になりがちです。
責任の範囲・担当業務の区分・従業員の統括範囲などは、全て会社によって異なります。
- 執行役員とは名ばかりで、実際には通常の従業員と変わらない
- 一人では到底こなせない量の執行業務のノルマを課せられる
など、業務量・業務内容について不満を持つ執行役員が出てくる可能性もあります。
中途半端なポジション
定義が曖昧な執行役員は、ほかの肩書きと比べて序列構造が分かりにくいというデメリットもあります。
社長・部長・課長・係長などのお馴染みの肩書きは上下関係がはっきりしていますが、執行役員という異質な存在は、付与される権限や序列などが会社によってバラバラです。
一部で指揮系統の混乱や、仕事領域の重複などが起こる可能性があります。
意思疎通が混乱するリスク
経営陣と従業員双方のコミュニケーションを取り違えると、かえって現場を混乱させてしまう可能性があります。
取締役の執行業務を間違えて認識したり、現場の指揮が上手く行かなかったりすると、現場から経営陣への不満が溜まりやすくなってしまいます。
ただでさえ執行役員は給与が高額なので、経営・人事・執行役員個人へと批判が発展しやすいものです。
リスク管理のために執行役員制度を導入しよう
今回は執行役員制度の概要について詳しく説明しました。
相次ぐ企業の不祥事によって生まれた執行役員制度は、企業リスクを軽減する新しい役職制度です。